17.賢者様、努力を無駄にされた怒りに震え、とっておきの身体強化魔法で情け容赦なく盗賊をフルボッコにする

「お前ら全員、動くなっ!」


 冒険者ギルドの扉が突然、ばぁんっと開く。

 そして、現れたのは覆面をした男たちである。


 しかも、その手にあるのは最近流行りの魔法爆弾。

 多大な魔力を込めることで、辺りを瓦礫の山に変えることのできる殺傷兵器だった。

 さっきまで私に絡んできた大男も、それに気づいたのか「ひぃっ」と小さな悲鳴をあげる。


 おいおいおいおい、おっさん、悲鳴なんかあげてんじゃないよ!

 あんた、あたしを煽ってたでしょうがぁっ!

 おじさんの怖じ気づきぶりに、内心、毒づく私である。


「一歩でも動くと、こいつの命はねぇぞっ!」


 しかも、男の一人は近くにいた冒険者の女の子を人質にとるではないか。

 なんてやつらだ、悪党にもほどがある。


「きゃぁあああ!? た、助けてぇええ!?」


 彼女の顔には見覚えがある。

 私がキラーベアから助けてあげた、あのリス獣人の女の子だ。


 髪の毛の合間から見える耳と大きな尻尾を忘れるはずがない。

 うぅむ、どこまでも運の悪い子である。


「あいつら、最近、ここらを荒らし回っているグジャラート団だぜっ!?」


「くそっ、その子を放せっ!」

 

 盗賊の乱入に騒然となる冒険者ギルド。


 でえぇええ、何よこれ、ちょっと待ってよ!?

 すっごくいいところなのに、変な奴らが来ちゃったよ!?

 今からでも遅くないから、「サプライズでぇす」って笑ってよぉおお!


「くそっ、あいつら魔法爆弾を持ってるぞっ!?」


 冒険者たちも奴らがとんでもないものを持っていることに気づいたらしい。

 そう、下手に刺激をしたら大変なことになる。

 魔法爆弾がさく裂すれば、おそらくこの冒険者ギルドの面々は一発で重傷を負うだろう。

 場合によっては死者すら出る。


 普通に考えれば、奴らを刺激しないことに注力するはずだ。

 


 しかし、私は違った。


 魔法爆弾に対する恐怖だとか、そんなものは感じていない。


 私の野望を邪魔してくれたことに対する大きな失望と、大きな憤りを感じていたのだ。


 せっかく三日も待ったっていうのに!


 最後のチャンスだったっていうのに!!


 こいつら絶対に許さないっ!!!

 


「このクズども! 地獄の閻魔に詫びるがいい!」


 怒りのあまり、ちょっと乱暴な言葉が口をついて出てくる。

 念のために言うけど、あたしゃ普段はこんなこと言う女じゃないんだよ。


「ひ、ひぃいいいい!? お師匠先輩様!?」


 私が少しだけ魔力を解放したことに気づいたのか、ライカが怯えたような声を出す。


 しかし、怒らずにはいられないでしょ。

 私たちの野望を打ち砕いてくれた、この連中にはっ!


「よぉし、動くなよっ! このギルドの売上金をこの袋に入れろっ! ほら、受付嬢、早くしろっ!」


 覆面の男の一人は大きめの袋を受け付けの人に投げつける。


 なるほど、奴らの狙いは冒険者ギルドの売上らしい。

 確かにギルドは多大なお金が動く場所だ。


 それにしても、である。

 白昼堂々、爆弾を使って脅すなんて大胆な奴ら。


 しかし、大胆さなら、私だって負けてはいないわけで!



午前一時のミッドナイト運動会(エンジェル)!! 午後二時のアフタヌーン存在消失(ステルス)!!」


 私はすぅっと息を吸うと、身体強化魔法と隠蔽魔法の2つの魔法を同時詠唱。

 体の血が沸き立ち、あらゆる能力が倍加していくのを感じる。


「くらえっ!!」

 

 そのまま不届きな盗賊軍団に向かって、ダッシュ!

 

 私が目指すのはあいつらの顎と魔法爆弾。

 身体強化によって高速になった今の私は誰にも止められない。

 顎に良いのを一発入れて、さらには魔法爆弾を掠め取ってしまおう。


 怒りのあまり、ほぼほぼ本気の速度での奇襲である。


 しかも、隠ぺい魔法で姿を消した状態での死角からの攻撃。

 連中は私に気づくことさえできない。



 ごすっ、げしっ、どがっ!


 そんな具合に、私の左ジャブが無法者の顎にクリーンヒットしていく。

 私が掲示板の前にもどってくる頃には、賊は三人とも床に突っ伏していた。

 ちなみに魔法爆弾は素人触ると危ない代物である。

 

 こっそり収納魔法の【長毛種の無限収納マジックインベントリ】に入れておき、代わりに先ほど八百屋で買った丸ナスと交換することにした。

 うふふ、そっくりだからバレないかも。



「あれ? 倒れたぞ?」


「ん? あいつら、魔法爆弾持ってなかったか?」


「いや、ナスを持ってるぞ? 見間違いなんじゃないのか?」


 突然、賊が現れたかと思ったら、いきなりぶっ倒れたのである。

 しかも、その手にはナスが握られてるという始末。

 冒険者たちも突然の不可解な出来事に目を白黒させる。


 しまいには衛兵がやってきて、ならず者たちをどこかに連れて行ってしまった。


 愚かな賊たちよ、私の野望を邪魔してくれたことの報いを受けるがいい!


 ひゃーっはっはっはっ!


 心の中で高笑いをするのだった。


「……ライカ、帰るよ」


 ガヤガヤと騒いでいる冒険者たちを後に、私たちは冒険者ギルドを出る。

 私の仕業だとはバレてないと思うけど、長居するのは得策じゃない。


「お師匠先輩様、さすがですっ! 三日間も意味不明なことをしていると思ってたら、悪い人たちが攻め込んでくるのを待ってたんですねっ!」


 帰り際、ライカは私の腕に抱きついてなにやら喜んでいる。

 なんというポジティブな曲解力!

 ちょっとは見習いたいものだよ、それ。

 

「も、モチロンだともっ! 全部、計算通りってやつさ!」


 私はライカのヨイショを受け入れることにした。

 まぁ、冒険者のみんなも無事だったし、これでいいのかな。


 明日も頑張るぞ!



【魔女様の使った魔法】

午前一時のミッドナイト運動会(エンジェル):寝る直前になると突如として俊敏な動きを見せる実家の猫の動きを参考にした身体強化魔法。俊敏さ、力など、様々なステータスに強化がかかる。


午後二時のアフタヌーン存在消失(ステルス):昼間には完全に気配を消すことのできる猫の様子をヒントに開発された隠蔽魔法。明るい場所で効果を発揮し、敵に気づかれることなく攻撃できる。

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