みぞれ

夏休みに入り、僕は九時くらいになってやっと目を覚ました。机に置いたままの宿題を横目に朝食を食べ、食器を片づけるより先にあの虫の前に膝をついた。黒っぽい体に六本の足、飛び出てるような目。一つ一つが、僕に好奇心をくれた。カッとまぶたを開け、虫と平行な高さで、そして不規則に視線を動かした。時計の針の音さえ届かず、僕は十二時になっているのが分からなかった。僕にとって、、家の中全てが、特別な空間だった。

それからまたしばらく日が経った。僕の不安は、ある事がきっかけで少しずつ増えていた。

餌を食べなくなったのだ。

僕は週末に、ここぞとばかりに父に相談した。、、どうやら、もうすぐ成虫になるらしい。姉は、餌であるアカムシをもう見なくてよくなると喜んだが、僕はそれとは別の理由で喜んだ。ペットボトルに立てかけた割り箸であの虫がじっとしているのを見て、僕は合点がいったように目を張った。


その日の夜、僕は夢の中で青い光をまとったヤゴに出会った。そのヤゴは、縦横無尽に歩きまわった後、丸い空洞のような所へと吸い込まれていった。

「待って!」

僕は飛び起きた。

少しの間、そのまま固まっていた。

そして、、夢だと分かると、すぐにまたいつもの白い天井を見ていた。

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