第2話 昭和58年

 暁鐘学園、その校舎には、流石に限界が来て、昭和58年秋より新校舎に入る手筈になった。

 戦後より人口が右肩上がりになる中。暁鐘学園は復興の命題があるも、3度の焼夷弾を食らわせられて、その校舎は増築に次ぐ増築で急場を凌いでいた。だけど、多くの人材を育んで来た結果、暁鐘学園戦後校舎は限界を超えた。何より、水洗設備が何時迄も保全されなかったので、理事会と父母会との熱い交渉で、新校舎建築に大きく舵を切った。

 建設実に3年。その間に学び舎は校庭にプレハブ校舎を作って、夏はスカートバサバサしては暑いまま、冬はカーディガンを3枚来ては忍びに忍んだの苦労話多しだ。私達は半年満たず新校舎に移れるが、その3年只管耐えた先輩方には只管申し訳ないが切に思う。

 ただ先輩方は出来に出来た方々で。新校舎での学びで皆に幸あれと、厳かなアナスタシアス聖堂に日々集えた事が、何よりの至福と羽ばたいていった。伝統と敬虔はただ尊いものと胸に刻んだ。


 そもそもで言えば、私奥瀬万理の暁鐘学園の進学は望んだものでは無かった。女子サッカー部があるのは東部高校だけで、そちらに進学したかったが、不良多々と、母奥瀬梓からばっさり暁鐘学園の陸上部で励みなさいになった。

 遠縁で同じ1学年の親友の五月女和泉も同じ塩梅だ、幼い頃からバレエ教室に通っており、そのままソリストに進みたかったが、そこはどうしても本州最北の地では文化的頭打ちを食らう。こちらも母親の五月女満さんから、それだったら暁鐘学園の新体操部に進みなさいになった。まあ青森という地はそれ程多様性が多くは無いのは、挫折では無いが気持ちの切り替えは必要だ。


 とは言え、新校舎で何もかものもやが吹き飛んだ。冷暖完備の全エアコン整備に、グランドは全環境タイプ。体育館も大と中と二つ揃えている。私万理と和泉は俄然やる気が増している。現にここ最近は食欲進んで互いに3kg増えた。まあ、新校舎本稼働なら、そんなのあっさり代謝するだろう。

 私達は、2学期開所の前に、夏の部活動の合宿もある事から、内覧会を兼ねてチェック要員にもなっていた。モルタルの香りを嗅ぎながら、最後はどうしてもアナスタシアス聖堂が最終地点となる。誰もいない聖堂で、賛美歌を唱えると、たった二人でも何処迄も音が通った。私万理も和泉もそこ迄広い音域を持っていないが、この歌上手いのかなの錯覚感でも、不思議な高揚感が生まれる。そして1階を後にして、2階の座席で只管情報交換して爆笑して、夜になる前に後にするのが日々だ。

 青春。いやそこには女学校故に男子の影が無いのが、あれだけど。まあ、私達にもそれなりの思惑はある。暁鐘学園七不思議全制覇からの男子の引き合いだ。自らの夢も大切だが、この青森で良縁に巡り会えるのはただ困難と何となく見えてきた。最近の暁鐘学園七不思議定説数々は無事見届けて、残るは一つは最大の踊り場の大鏡もなる。

 これは私の母梓も和泉の母満も決して口を割らないが、漸くの伝手を辿りに辿って、立派な完走者と知っている。

 その引き合いの成果が私の父孝通は一切の衰えの来ないハンサムで、無垢な反抗もしようがない。ここ、恋愛経験無しで、一発で出会えてしまう両親に嫉妬し、つい母梓に時折悪態ついてしまうのは、まあ何となく悟っている事だろう。

 また同じ現場にいた和泉の母満さんも同様で、父孝通の後輩の瞬さん、東部高校のエースストライカーと引き合わされ、まあ、まあ、母梓も和泉の母満も仲良くダブル結婚式をする。そして古川の老舗大飯店桃泉園で豪快に挙げたらしい。そもそも風采菓子は北東北に8つの暖簾分けをしており、その都度集まるのが困難だから集まれば相当な事にもなる。そこで私達も、そういう引きがあるのなら肖ろうだ。男子の懐の深さなんて、現代にもなるとバンカラがいないので確認のしようもない。ここは縋っても損は無いと思う。


 そして運命の日、2階に上がる前の踊り場に佇んだ。正式開所はまだなので、旧校舎から移送され調整された鏡面には黒いコーティングシートが敷かれていた。新校舎の折々に配置されている大鏡は現在こんな状態だ。

 大鏡は昭和38年に装いも新たに設置されており、今回は新調ではなく調整と清掃と研磨を終えて、漏れ無くここぞの適所に立て掛けられている。そうこれでは、漏れ聞いた鏡の向こうの誰かに出会えない、またどうしたものかになった。

 今回の大鏡群の調整の仕上げしたのは、父孝通の弟にして、兎野生活硝子店の店主兎野寛至だ。いつも気さくに、晩飯も滑らかに招待してくれるのに。春から一向にかなり立て込んでるからと、店の扉を強固に閉ざす。

 やはりは、今改めて目の前で確信に変わった。何かを封印したつもりだろうが、私も母梓系統の霊能者だ。そして意を決して、黒いコーティングシートをパリパリと剥がした。

 鏡面の左隅に玉の様に太った白兎が人参を持っている。玉兎は確かに兎野生活硝子店の意匠だ。兎野生活硝子店の表看板のキャラクターにもなっている。

 そして、大鏡に映るのは青森でも夏の日差しで焼かれた夏のスポーツ着の私万理。そして隣には新体操で室内で美白のままの夏のスポーツ着の和泉。まあ互いにあどけないが、私達心身美人のここを見破る男子は今迄誰もいないのかと、一瞬で何かの怒りが込み上げて来た。


「何かな、すっかりミドルヘアも相まって、何か女子感無いよね。和泉に何か負けてる」

「万理もね、血は遠いけど、辿り着く所は同じなのだから、どっちが大美人さんになっても恨みっこなし」

「でも、胸もお尻も引き締まってるから、これなら全裸なら勝てる」

「残念、万理。女子校とは言え、ここで全裸競争はご法度。シスターが何かと点検してるから、もう、反省文30枚は固いわね。全課題折半にしてもね、私達の青春の冒険があっけなく終わっちゃうよ。と言うべきか、アイシャドウまだ落ちてない。暁鐘学園がインターハイ行けないからって、モチベーション持たせるために、日々本番仕様もね、うん、あれ」


 和泉はそうやって、大鏡に近ずくと両瞼を擦りながら何度か。次第に拭う事止めては、両手を大鏡に両手を着きながら、左に傾き、右にも傾く。そして、和泉は何やってるのかなだが、まあ和泉は凝り性だから、どれだけアイシャドウ伸ばすか思案をしているのだろう。その矢先に。


「万理ね、これ鏡だよね。何だろう、鏡の中の影が何か追いついていないような。夕方の加減かな」

「いや、待って、何してるの和泉。その両手、いつの間にか、誰かと握ってない、気のせいなの」

「温もり、ちょっとごつくて、柔らかい、年頃の女性かな。あっと、」

「和泉、離れて、そうじゃない。これって引き合ってるんだよ。私じゃなくて、えっつ和泉なの。ええと、そう、これ、こちらに引くんのよ、和泉、ねえ、」

「そんな事言っても、沼に入ってるように重いわ。無理でしょう、」

「鏡の中が、光った、燃えた。これまずい、お母さん達と同じ状況だよ。戦中の暁鐘学園が危ない。和泉、腰の捻り、餅を表と裏に、こねては慣らすの、それよ、」

「ああ、あれね、よいしょっと、」


 和泉は最大限に捻り揚げては仰け反って、戦前女子かのモンペに防災頭巾の姿の誰かがザッと、大鏡から抜け出て来た。あまりの非現実でめまい、いや何かの胆力がごそっと吸い込まれては、耳を塞ぐ感じが訪れ、めまい、いや腰が崩れ落ちた。それは和泉もそうだ、全身全霊で陰影いや明らかな戦前女子を引き抜いた事で、和泉も戦前女子も力尽きた。

 そして、嫌いな爆撃音の遠のく様に響き聞こえたと思えば、爆音と共に大鏡がバリンと大きく崩れた。和泉、必死に振り絞ったが、引き抜いた辛うじての衝動で、大鏡の飛散からは免れていた。良かった、この出でてからの数瞬がやたら長く、安堵で私の意識も深く落ちて行く。



 次に起きたのは、どうやら翌朝らしく、新校舎の保健室のベッドに、私万理と和泉はいた。近くの医療台の上の小さな時間は6時24分。そのまま夕方かと思ったが、この眠気の取れなさは一晩ぐっすり眠ってもまだのそれだ。

 私万理と和泉は、何だろうね、あれだろうね、言葉少なげにしていると、声を聞きつけたか、高山明日香学園長が入って来た。

 どうしましたも、一通り体を見たけど爆片刺さってないけど、何処か痛い所あるかだった。そう言えば、大鏡が大きく飛散する前に、灰色の爆炎が写り込んだが、もしあの時両手を引いてなければ、どうなっていたのだろう。

 私は傍目だったので眠気位だが、和泉しか聞いていないブーム音がまだ耳に残っていて三半規管にやや難があった。肝心の引き出した戦前女子はになったが、駆けつけたシスター一同が介抱しながら、マリアンナ聖母会宿舎に運ばれた今も眠り続けているらしい。この経緯は伝手を辿って漏れ聞いた、昭和38年の奇跡そのままだ。ただマリアンナ聖母会の検証結果では、あの時間帯の焼夷弾は3度目の焼夷弾で、アナスタシアス聖堂以外本校舎は全て焼き払われたらしい。

 そう言う事で、今回の引きは、私万理ではなく和泉だった。母梓の霊能力をそのまま引き継いだとは日頃から自負していたが、和泉にやんわり諭された。私も深い所の血縁でしょう、今回は私に順番が回って来ても良いでしょうになった。

 良いも何も。和泉の美貌から、そっちに引き合いが行くのはずるいで、暫しの沈黙に入った。見兼ねて堪らず高山学園長が間に入り込み、梓さんも満さんも同時に幸せを掴みましたよ。あとは万理さんと和泉さんの淑女たる前のめりに掛かっているので、お忘れ無き様にと置かれた。

 ついでに置かれたのは、即刻この時点から無期限泊まり込みの告解部屋への修練だった。きつい、実にきつい、二人とも必死に喋りは立つ方だが、シスター達の論法手法にはまるで叶わない。私達の眩い夏休みは終わった。合浦公園の海水浴場でのとっておきのビキニ、どう予定を詰め込んでも前倒しで行くべきであったのだ。


 その後、完全拷問の告解部屋の宿泊通い詰めは5日で、いきなり終止符を打たれた。そうかなの勘は、戦中女子が今朝方にアナスタシアス聖堂での夜を徹した祈祷その後、忽然と姿を消したらしい。祈祷中のアナスタシアス聖堂は中も外もただ厳重施錠なので、そう、幸運を祈るも、戦中に戻った事だろうになった。

 その一つの要因として、空き時間に漏れ聞いた母梓同様に、今度は和泉が風采菓子本町店の空き桐箱から真心を込めて作った、紅のロザリオも一緒に消えていたからだ。元の時代に戻れる要素って何かとは思ったが、SF研究会でも解明出来なさそうなので、すっかり諦めた。

 ここからシスター達は、厳かなアナスタシアス聖堂に籠り、祈祷を捧げた。そして私達全運動部の通学強化合宿は固く禁止され、漏れ無くの全校生徒も立ち入り禁止になった。内容は公にならなかったが、建前の開所最終点検で、関係者一同が深く察した、



 さてワンチャンスあるかの夏休みのラストスパートは、私万理の実家の風采菓子本舗での夏休み課題折半作業になる。合浦公園ほぼ前で、盛夏をゆっくり下って行く凪がただ優しい。本舗とあって元々は下宿人多くだったらしいが、今はそこそこの人数に収まる。

 そのスペースのある2階で、和泉が2週間泊まり込んでくれたお陰で、無事夏休み3日を満喫する運びになった。たった3日、いや大きな3日だ。夏休みの昭和58年事案は、どうにも、あれは現実なのか夢なのかで、今一つ整理出来ていない。来訪者が消え事案も体良く隠蔽されては、私は元より、引き出した和泉も実感が持てていない。それを払拭すべく、私達は本町と新町の周遊づくしにただ没入する。


 ただ、その満喫も2日で終わる。元より、通学合宿と課題克服で夏休みの実家のアルバイトが出来なかったので、おこずかいはあっと言う間に尽きた。

 そうなると、ただ時間を費やす所はお馴染みである栄町の畠山運動具店になる。スキーブーム到来もあって、お店は店舗兼倉庫の大型店になり、何をどう思ったか、田舎でも2階にカフェブース迄作っては、まあお馴染みさんの溜まり場になる。

 溜まるも理由があって、お客様還元セールで、内外問わずのスポーツ着が最大1,000円と在庫整理にしても大盤振る舞いだ。そうなると私達のファッションはお洒落着では無くスポーツ着と、ほぼモテ要素はなくなる。

 そもそも暁鐘学園は女子校なのでどうモテようかだ。そう言えばが過った。暁鐘学園七不思議の全制覇した、あの引き合いが何ら来る要素がまるで無い。余りにもノー感触なので、畠山運動具店の女店主畠山彩子さんに詰め寄った。これでも暁鐘学園OBで私達母親の2年下で、その昵懇の中から、何かとの私達の情報源になっている。そして二度目の麦茶を持って来てくれた。


「彩子さん。私達、頑張った。いや無理矢理引き寄せた感は有りましたけど、暁鐘学園七不思議の全制覇はしましたよ。引き合いって、こう何か、来るんですよね」

「万理、こういうのは催促しちゃいけないんじゃないかしら」

「そうよね、経緯はあれど成果は必要よね。でもね、万理も和泉も1学年でしょう。そう焦らなくて良いじゃないかしら。ほら、そうで無くても勉強苦手なのに、男子への期待感が来たら、私立でほぼ無い、暁鐘学園の留年になっちゃうわよ」

「はあー」

「ですよね」

「でも、それもよね。インターハイも終わったし。これからの秋に冬で、どう、うちの畠山運動具店でアルバイトする。いやしなさいよ」

「いやー、その器でも無いのに風采菓子本舗で看板娘にされてるし、掛け持ちは、何かしんどいかな」

「そもそも、私達掛け持ちした所で、お金の使い道は私達従姉妹のデート位で、お洒落着買おうと思っても、いつ着るかで、実用的なスポーツ着がですし。その読めない乙女路線はやめておきます」

「若いのにああだこうだ。ねえ、引き合いとは、神様のお導きよ。ここは受けておいた方が良いと思うのだけどね」


 ただ返事も困る中、2階に何かとハンサムボーイが上がって来ては、本能でおしゃまにぎりぎりする程膝を閉じた。

 そして彩子さんと二言三言交わしては、私達に紹介された。一際身長が高く顎のラインが美男子は東部高校サッカー部フォワード栗原大智さん。中性的で境界線のない親密さを感じさせるのは東部高校サッカー部司令塔真木野勇人さん。私達は瞬時にペアリングし、視線を見合わせてコクリと意見が一致した。

 私万理は大智さん。サッカーはそもそも和泉の父瞬さんから、何から教わり、和泉より私がはまった。女子サッカー熱は数年前に初の国際女子代表戦があって、それは悲惨なもので、その熱は止まって、青森に女子サッカー部の発足波及の気配も無かった。そんな折り合いから私は陸上に転向した。それでも芝生のグランドで、そう国立競技場でいつかサッカーの夢はどこかに残っている。

 そして和泉は勇人さん。如何にも和泉の少女漫画好きなフェミニンな男子が、ここにいる。何故に汗臭いサッカー部にいるか不思議だが、幼馴染の大智さんにその視野の広さと柔軟さから、早いうちからサッカーに誘われたらしい。まあ和泉は早くもぞっこんの様で、さり気なくバレエのマイムで求愛を送っている。果たして実に三度目の片思いが叶うかだったが、不意に勇人さんが視線を逸らした。どうやらバレエのマイムを知ってるらしい。和泉はさり気なくしたつもりが、大失敗で完全舞い上がって、束ねた襟元がうっすら汗をかいている。もう、そういう事がままあるので、私がそれなりに和ませにサッカー談義に入った。


「青森のサッカー名門の東部高校ですか。高校サッカー選手権青森予選手応えは有りますか」

「名門はまだ至らないですよ。高峯高校に、むつ西高校は、どうしてもハイレベルの名門ですし。でも、最近の日本のプロサッカー化の噂も聞かれて、何か俺達も頑張らないとは有ります」

「大智もだよね、まずは東西ヤンキー高校、東部高校と高峯高校の雌雄対決どうにかしたいよね。うっかり新町ですれ違うと、メンチの切り合いだよ。喧嘩して出場辞退になったら、俺達の頑張りって何なのかな」

「あのう、勇人さん、大智さん。私達に何か出来る事有りますか、袖振り合うもご縁とは言いますよね」

「ふふ、まさか和泉が乗ってくるなんて。良いじゃない、実に積極的で。何か和泉の引っ込み思案が直っちゃいそうよね。という事で決定ね」


 彩子さんは、いの一番で奥手に駆け抜ける。私達はキョトンだが、まさかと、大智さんと勇人さんが、おおとハイタッチしては歓喜に咽んだ。まあ盛り上がりすぎて、男子のテンションの隙間はどこかなと伺ってる内に、彩子さんが梱包されたウェアらしきものを持って来ては、バサ、バサと真っ白なウェアが2式置かれた。

 私万理と和泉は、ただ苦そうな何かの予感が過って、ビニール袋から開けて、そして仰け反った。それは生地がどうしても少ない、ノースリーブに太もも丈のスカートの、新調のチアガールウェアだった。


「いやー」

「無いですよ、」

「そうかな、エスコートパンツも履くし、秋空寒かったら、ジャンパーも支給するわよ。実にいいわね、近隣高校の応援協力。これで、東部高校も夢の国立競技場も行けるわね。うん、私も万理と和泉と一緒に連れて行ってよ。スーパールーキーの大智と勇人」

「そう来るのかー、いや確かにまま聞きますよ。暁鐘学園の応援部隊に、一般応援要員。いやでも、私、こういうの全然似合わない、羞恥心に全然勝てない、ごめんなさい」

「そうかな万理。私はノリノリだよ、全然180度開脚いけるし、応援するにしても暁鐘学園側でしょうから、エスコートパンツ見られても良いでしょう」

「何を言うかな、和泉は。あなた達、元気従姉妹はフロントよ、真正面で皆を元気一杯引くの。とは言え、東部高校の男子数多で、パンツ丸見えはね。流石に高山明日香学園長に怒られるわね。それなら、チアスカートの下にショートパンツなら大丈夫でしょう。ふう流石餅は餅屋ね、商売繁盛しちゃうわ」

「でもね、いや、ショートパンツ履くなら、お尻がキュッと持ち上がっても丸見えは無いか」

「これもご縁ですね。東部高校の為に頑張らせて貰います。当然見返りは貰いますよ。繁華街に出ると、まま高峯高校にちょっかい掛けられるので、ボディーガード当面、いやかなり先迄でも良いですよ。それ位一生分の恩は与えますからね」

「快諾ありがとうございます、万理さん、俺達頑張りますから」

「大智君さ、俺達1年生で、やっとスターティングメンバーに入れるかだよ。俺達が交渉係に入った以上、出場しないと、何やってるになるよ。ここは教員達を通そうよ。生徒の勢いそう言うので、話も詰めきれず、気まずいの付き合いになるの、お互い不本意だよ」

「ふーん、勇人も慎重よね。その隙を突いている高峯高校は、斜向かいのショップのお馴染みなんだけど、まあけちょんけちょんみたいよ。強いんだけど、繁華街で横暴の限りで、市内私立の応援協力悉く失敗。暁鐘学園にも要請するけど、まあ昔より険悪で絶交だって、凄い受けるわよね」

「まあ、東部高校もヤンキーですけど。先輩からの五箇条で、暁鐘学園の生徒は一目散に守る様にと言われてます。なあ勇人」

「まあ、大智といると何かと揉まれるよね。まあ、あいつら理詰めにすると、思考が付いて来れなくなるから、そこでお開き。あちらも流石に手を出したら、全ての部活動が出場停止になるの知ってるよね。それでも延々女子にちょっかいだすなんて、何のワンチャンスを狙ってるやら」

「大智さん、勇人さん、日頃から暁鐘学園への御援助有り難うございます。ここは筋道を立てて、教員同士の協定を踏もうにも、いや、何か違うかな。そう、コネクションのある彩子さんの口添えで進めるべきよ思いますよ」

「和泉も、口添えも何も票割れしてるでしょう。万理が渋っていたら、不協和音のままで、士気が上がらないわよ」

「だから、私は応援はしますけど、いやそのう、チアガールなんて、嫌な事は嫌です。こちらとしては制約多々有りきの、応援体制にします」

「万理の今はそれで良いわ。どうせ盛りに盛り上がったら、前に出ちゃうのでしょうから」

「まあ、それもごく自然な意見ね。それなら、こうしましょう。知恵の輪対決。勝ったらそちらの全ての意見を生徒有志の意見として、高山学園長に直談判するから」


 私万理と和泉は脱力して、眼が一文字になった。またか。

 彩子さんはサマージャケットの両腰ポケットから、ワサッと知恵の輪を軽く1セット12個を出した。そして右手と左手でそれぞれ一つ拾い上げては拳に隠し、私達に差し出した。どちらにする。はいはいでレディーファーストの私達はいつもの左手にした。右手はハンサムボーイ達に。

 そして彩子さんは拳を開き差し出す、さあ解いたら勝ちよの即スタートになった。私は散々懲りてるので和泉に至っての解答者、あちらは勇人さんが丁寧に眺めては取り掛かった。解答者二人は、知恵の輪をぐるぐる回しながら、僅かな隙間を目指して、どうにか外そうとする。和泉は仕掛けは分かってはいるが、いざの闘争本能が尋常ではなく、軽く5ランク上の知恵の輪解除に没頭する。そしてチャリ、大智さんの知恵の輪が二つに別れて、東部高校の主張が通った。そして両校教員の協議有りきの東部高校と暁鐘学園のプレ紳士協定が率先締結へと。そう約定はシンプルに、推せば勝てる積極的応援要請。この略式約款を彩子さんがスラと書き上げては、私達代表四人の署名に、彩子さんも後見人にとして署名した。

 この間、私は彩子さんを並々ならぬ藪睨みをした。そちらか。彩子さんは両校教員同士の大人の流儀として、長く後腐れない商売を選んだ。そうでしょうねやり手だもの。そう彩子さんの特技はPK,Psychokinesisだ。選ばず知恵の輪を拾い上げた筈だが、拳に納めた時点でズルをして、私達の知恵の輪をこれでもかとPKでひねり上げて、延々と糸鋸でやっと解除出来るのかなだから、人間の叡智で解除出来る代物では全くない。

 まあ決まった以上、チアガールウェアは両肩を上げると脇腹にちらり見えるので、あと10日の1回戦で3kg更にシェイプ出来るかだ。効果覿面の引き合いは和泉、そうどうしても和泉かで、私達はわちゃわちゃと肘同士の押し合いに入った。



 その後の私達になるが、青森ライフを愛する。

 高校3年間通して、私達がチアリーダーに積極的参加した高校サッカー選手権青森予選での東部高校は、後半の粘れなさが高校生らしく、とうとう準決勝の壁を超えられなかった。とは言え、大智さんも勇人さんも何かと私達にボディガードに徹しており、友達以上のそれには仕上がっていた。

 卒業後の私万理と和泉は、そのまま実家の看板娘から、徐々に経営も学んだ。大智さんと勇人さんは、名門実業団の日輪自動車サッカー部に練習に参加し下部組織はどうかと誘われたが、卒なく断ったらしい。地元青森が愛おしいは、その青森を差し替えるとそのままなのでやや自重する。

 その後、奥瀬家と五月女家の祖母達から二十歳を迎えたら結婚ねと強く押され、自然と両親達と同じく合同結婚式迎え、大規模な披露宴を古川の老舗大飯店桃泉園で行った。そこでの最後の集合写真での出来事は、嘘か実かなのかだが、実であろうと、私万理と和泉は一致している。

 ただそんな一大出来事も、祖母達が結婚式から新婚旅行迄をポケットマネーで丸抱えしてくれて、イタリアを満喫し、見事吹き飛んだ。

 何より幾多の熱い応援で、私万理と和泉はサッカー眼が肥えてしまっており。巨大サッカースタジアム:サン・シーロで強豪ALTミランのダービーを観覧しては大興奮し、自然と身についたチアをしたら、やるな東洋人、いや青森県人と現地イタリア人に褒められた。

 その翌朝のALTミラン歴史的勝利はミラノのスポーツ紙を席巻し、そして幾つものの見開きに私達4人の新婚旅行中の写真が載せられた。

 それら新聞を残らず掻き集めて青森に持ち帰ったら、祖母達は、いいわとただ微笑ましくゆっくり頷く。いやこの為の運命では無いのだけどとも思うが、いざ現実に照らすと、こう言う幸福の積み重ねこそが、神の計らいとは思う。

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