新入生歓迎会②

「大丈夫だよ。生徒会の予算内さ!ビュッフェのチケットは余り物だし、肉は好意にしている卸売業者から、安く仕入れさせて貰ってる。この山は僕の持ち物だから、タダだしね」


天田にウィンクをして見せた西園寺は、何処から出したのか、この新入生歓迎会の決算証明書を見せた。


「いや、予算内でするのが、普通であって……私物を商品にするのはどうかと思う、けど……」



「プリンセス?君はカヤックをやりたいんだったね、この先に湖を作ってみたんだけど、一緒にどうかな?」


(〈湖を〉って!!なんだよ。“を”って!!聞き流していい所なのか?)


詰め寄る天田の隣をすり抜けて、西園寺が私の前に来る。大方“魔法”で作り出したんだろうが、そんな事今の“私”は知らないのだ。


『湖を作ったって。大層やなぁ眞は』


京極は西園寺の作った発言を冗談と受け取ったらしい。クックックと笑いながら近づいてきた。

アメジストの瞳と目が会うと、金縛りのように体が動かなくなる。彼の瞳は人を魅了する効果がある

〈誘惑のフェロモン〉とシロが教えてくれたそれは、金縛りの効果は無かったはずだ。


(“強制いべんと”が始まったのか……)


私は記憶になり強制いべんとの会話の始まりに、身構えた。多分コレは誰を選ぶか選択肢の時。

天田が生徒会に加わった事や、私がカヤックの案を出した事で状況が変わったのだろう。


本来この選択で天田は居ない。

居ないとゆうか、京極を選んでその後訪れる開けた丘の上で〈星空を見たくなりますね〉と口に出すと(まぁ言わされるという方が正しいが)天文学部として1人で来ていた天田に出会う事になる。


『それより、君にはお礼をせなあかんな?どやろ。この先に見晴らしのええ穴場スポットがあるねん』


【一緒に行かないかと、差し出された京極先輩の、手を新谷くんが叩き落とした】


(仮にも、極道って分かってる先輩の手を叩き落とすとか。本当に怖いもの知らずだなコイツ……)


驚いた様に新田を振り向く体とは対照的に、私は冷静に考える。

極道で淫魔の血を引く京極と“るーと”によっては真相(吸血鬼のボス的存在)を倒す新谷直接対決したらどっちが勝つのかなぁ?

なんて、くだらない事を考えている間に新谷が私の手を握っていた。


『オレ達はまだ、準備があるので。何処にも行きません』


【新谷くんを見て、先輩方はやれやれとでも言う様に顔を見合わせた】


『準備しても、時間があるから……何処かに行かない?って話だよ?バカ、なのかな……』


【いつの間にか近くに来ていた天田先輩の言葉を受けて、新谷くんは威嚇するように白い歯を見せた、彼の尖った犬歯が物騒にひかる】


(ん?体が動く。もしや今のうちなのでは……)


新谷の手が離れて、私は一歩後ろに下がることに成功した。

普段“強制いべんと”中は身動きをとることが出来ないはずなのだが。

なんでだろう?と考える間もなく、私は踵を返した。


(なんでもいい!また固まっても困るから今のうちに!!)


「御手洗に行ってきます」


そう言い残し、私はダッシュで森の中に逃げ込んだ。

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