天田一星登場イベント

絡みつく視線を振り切るように走った先で、私の鞄を持った新谷が待っていた。


「どこに行ってたんだよ」


そのまま通り過ぎてやろうか。とも考えていたが、すかさず手首をつかまれてそれは叶わない。


(まぁ、通り過ぎてどうするよって話なんだけど)


「ごめん、トイレに……」


適当に誤魔化しながら、少しほっと息を着く。

新谷もヤバいやつには代わりがないのだが。

得体の知れない存在と比べれば。人となりをわかっている分、大分マシである。

そもそも、1度は恋仲になっている中なのだから。

新谷の存在に安心する自分にイラつきながら、彼の隣に並んだ。


『呼びだし何だったの?』


話しかけるつもりなんて無かったのに。

本当に強制いべんとは厄介だ。しかも、コレは今までの記憶にない強制いべんとだ。

何のイベントなのか考えている間も会話は進んでいく。


『土曜の試合。スタメンが決まったもんだから、ユニフォームとか貰ってた』


【新田くんは白い歯を見せて笑いながら、肩にかけた自分の鞄をポンポンと叩いた】


『そうなんだ。入学したばっかりなのにスタメンなんて、凄いね』


【日が沈んで、夜の帳が降り始めた外はまだ少し肌寒い。春の澄んだ空には一番星が輝いていた】


『すげぇーな。まだ明るいのに』


【空を見上げ、新谷くんが星を指さす。一際強く輝く星は瞬きの間に流れた】


(ん?なんかものすごく嫌な予感がする)


そんな、私の予感を肯定する様に。

星はどんどん私達に近づいてくる。さながら3D映画の様に……


『おい!!』


危ないと手を伸ばし、新谷が私を引き寄せようとする。

しかし、その手が私に掛るよりも早く。私は地面を力ずよく蹴ると、ソレから逃げ新谷の正面に陣取った。


【目の前に落ちてきたのは、両手の中に収まる程のカプセル。カプセルトイが入っているかのようなそれは、地面をえぐり黒い煙を上げていた】


『なんだったんだ?』


『ボクが、屋上から……落としてしまったみたい??』


【恐る、恐る近づく新田くんの横から、カプセルを誰かがひょいと持ち上げた】


【ペリドットの髪と瞳をもつ不思議な雰囲気の青年が、小首を傾げてカプセルをひっくり返している。青色のネクタイはことぶき学園の2年生である証だ】


『はぁ?なわけねぇーだろ!地面えぐれてんぞ』


『でも。そう言うこと、だから?』


【詰め寄る新田くんに見向きもせず、先輩はガチャガチャとカプセルをいじっている】


(このまま、そーと帰ること出来ないかなぁ)


私はえぐれた地面に視線を落としながら考える。

鞄は未だに新田の手の中。ここで居なくなるのは不自然すぎるし。この先輩天田一星は多分コレを探している。

私は、いつの間にか足の間に転がってきたビー玉の様な蒼色の球体をそっと、地面の穴に蹴飛ばした。

蒼色の球体中では、何かが燃えているかのように、ゆらゆらと中の蒼を揺らしている。


天田がじっているカプセルは彼の渡したデータを国に持ちかえる小型艇。そして、ビー玉の様な球体は、その小型艇の動力になる物だ。

カプセルをいじっている天田に目をやると、運悪く視線が合わさった。

慌てて逸らすが、さっきまで球体の事を考えていたせいで視線は自然とそこへ向く。


『あった。。うん、どうしようか……仕方ないのかな?』


【地面に出来た穴から、蒼が揺らめくビー玉のような球体を広い上げた先輩は、1人で何やらブツブツと呟いた。そして、初めて新田くんと私に目を向けた】


『初めてまして。ボクは天田一星天文学部の部長だよ。君達は新歓の代表。ぜひ君達にうちの部に入って欲しい……けど、新田くんはバスケ部だったね。じゃぁ貴方はボクの部に入ってくれる?』


『「お断りします!!」』


(おっと、思考とセリフが合った)


天田が入部を誘ってくるのは、私達の監視のため。

宇宙船(小型艇だが)の落下を目撃してしまったのだ、他人に話さないか見張るためだろう。

前回は交信を見られた為の監視だったが。今回は2人断っても差し当たり大丈夫だろう。


『うーん……そうか。まぁいいや、ボク明日から生徒会役員になるから。よろしく……ね?』


無機質なペリドットの瞳を揺らして天田は言った。

嫌な予感しかしない。

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