西園寺眞と新谷薫の登場イベント

「新イベントに、新スチル!!壁に背預けて腕組みなんて見た目良くないと出来ないよ!!さすが公式ビジュアル人気1位!」


少女はベットの上で、足をバタバタさせる。


「でもでも、ごめんね。真也様!今は隠しキャラをさがすの!」


少女はそう言うと、十字キーを操作する。画面に並んだ2つの選択肢のうちのひとつを選んだ。


『その場から立ち去る』


場面は変わって教室。

いわゆる名前入力画面で少女は頭を捻っていた。


「名前どうしようかな?1周目は自分の名前にして、2週目は友達の名前にしたよな。3週目と4週目は、同じ名前だっけ。。」


ピコピコと軽快な音をたてて、あいうえおの画面の上をカーソルが移動する。

目的もなく、ただピコピコ移動する。


「うーん。考えるのめんどくさいや」


立花香織

少女はそう入力した。


※※※※※※※※※※※※


私の意思とは関係なく、手は勝手に動く。

指名記入欄には立花香織の文字。

何となくほっとする。毎回名前がコロコロ変わるのはやっぱり落ち着かない。例え呼ばれないとしても。

記入が終わると、私はその紙を丁寧にそれは細かく折り畳んでいく。これはせめてもの抵抗。

この用紙は新入生歓迎会の代表として生徒会の手伝いをする、男女をランダムで選ぶための投票用紙。

何でそんなことをするのかと言うと、学年の垣根を超えての協力。そして、新入生のことぶき生のしての自覚をもたせるためとか何とか。でも、そんなものはどうでもいい。

これは“強制いべんと”なのだから。

そして、絶対に私が選ばれる。

無記名で入れても。提出しないでみても。

何故か私が選ばれる。

これは西園寺るーとで分かった事実なのだが。私を近くに置くために、西園寺眞が細工しているらしい。

そして、一緒に選ばれる新谷薫も変わらない。

こっちは細工の使用がないので諦める他ない。

ランダムという名の必然。そして、私達が選ばれるのは月曜集会。つまり今日。

会長の西園寺がこれらを集めたBOXから一枚紙をえらぶと言う形をとる。

なので、せめてもの抵抗。

いや。コレは、ほぼ嫌がらせ。広げにくくなるようにしてやれと言う気持ちでやっている。


『提出出来た者から、体育館にむかえー』


そう教卓の前で言う担任の顔は酷くあやふやだ。

と言うか。そのほかクラスメイトも由香意外居るのか居ないのか分からないほど存在感がない。

この世界には3種類の人間がいる。

京極らのように背景にばらの花を咲かせる男ども。

由香の様に顔がハッキリわかり性格もちゃんとあるけれど、ばらの花は咲かせない。男女ともに何人かいる。

そして、その他大勢。まるでカゲボウズの様に、いても居なくても変わらない有象無象。

十中八九“こうりゃくキャラ”とやらは、ばらの花を背景に咲かせる男ども。

そいつら全員と恋愛すればあいつは満足して終わると考えていたのだが、そうでは無いらしい。

由香と並んで体育に向かいながら、私は深いため息をついた。


(他にばらの花を咲かせる奴なんて見た事がない。誰とも恋愛関係にならなければ満足するのか?いや、だとしたら。どうすれば?)


「ねぇ!ねぇってば!!貴方1年生代表に選ばれたわよ!!」


頭をひねっていると、由香に体を揺さぶられた。

意識を周りに戻すと、有象無象達が視線をむけている。


(しまった!西園寺がモタモタプリントを開いている姿を見逃した)


結局、私が選ばれる事には代わりがなかった。少しでも無様な姿を見て鬱憤を晴らしてやろうと思ったのだが……

まぁ、私は見れなかったが全校生徒が見ていたのならいいか。1人納得して壇上に上がる。

短い階段の上には男子代表として選ばれた新谷薫が既に立っていた。


『お前と久しぶりの再開が壇上なんて、何だか運命的だな』


新谷薫は白い歯をニカッと見せてコーラル色の瞳を細める、金髪の毛がふわりと揺れた。

どうやら私の顔を覗き込んでいるようだ。

しかし私の体は動かない。

そして思ってもいない事を口走る。


『えっと?誰でしたっけ?』


【私の言葉を受けて、コーラル色の瞳がより深い赤に染る。それは血を思わせる深い紅】


『10年離れちまったが、俺たち幼なじみだろ?俺はお前の体のほくろの数までしっかり覚えてるぞ?』


(ひぃぃぃぃ!!耳ともで、いい声で。キモイ事言われたァァァ)


【全身がぞわりと泡立つ様な感覚を覚えて反射的に仰け反ったからだを、新谷君が引き寄せる。腰に回されたては酷く冷たいのに、体が泡立つのを止める事が出来なかった】


『代表どうし仲がいいことはいい事だね!よろしくね2人とも』


それでは詳しい話は午後にそう言われ、クラスの中に戻った私は有象無象や由香に質問攻めにあう。

何度も繰り返した事なので。曖昧に返事をしつつ先程のあいつの選択について考える。

今回のあいつの選択で新谷るーとに入る気が無いことは分かった。

あの時、『久しぶりだね!かおちゃん』なんて微笑みかけた日を最後に、奴は私を恋人と勘違いする。

他の男と話そうもんなら、おしおきと称してえげつない事をやって来るし、行動ひとつ気に食わなかったら監禁。軟禁。当たり前。

新谷るーとで何度、由香に助け出されたものか。


(という事はやっぱり、誰のるーとにも入らない事を望んでいるのか?)


私は頭を悩ませながら、教室に戻るのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る