ドキドキ☆ハラハラことぶき学園

ヒヨコの子

京極真也登場イベント

『さぁ、行こう僕の愛しいプリンセス』


【彼のアンバーの瞳がとろけた蜂蜜の様に揺れる。私は差し出されたその手にそっと自分の手を重ねた】


『はい』


【彼は私の手を宝物のように包み込む。私はこの手をもう絶対に離したりしない。なんでも完璧にこなすように見えて、本当は臆病で。人の気持ちに鈍感でそれでも精一杯寄り添ってくれる彼の事が大切で。愛しているのだから…………】


(イヤ、本当に。まじでこのまま終わってくれよ…………)


--------------


ジリジリリリリリリリリリ


【私は、けたたましいベルの音で目を覚ました。目覚まし時計代わりのスマホを持ち上げる】


«4月10日»


(チッ、あの××野郎)


私は心の中で壮大な悪態を着くと布団から這い出した。今まで入っていた掛け布団の上にスマホを叩きつける。ベルの音は止まることなくこの部屋を騒がしくしている。そんなスマホの上にこれまた、今まで来ていたパジャマを叩きつけながら着替える。

真新しい制服に袖を通すと、ほんのり、のりの匂いがした。

最悪の気分だ。


【私立ことぶき学園に入学して初めての月曜日。とてもいい天気で、清々しい朝だ】


そう。最悪なことに。

ここは「ドキドキ☆ハラハラことぶき学園」の中。私は主人公

私の今の名前は立花香織。あいつが付けた名前があるが、そんなものあって無いようなもの。

私の名前なんて滅多に呼ばれない。

お前だのあんた、だの君だのプリンセスだの女だの!!!

思い出すだけでイライラする。奴らは、ほとんど名前で呼ばない。これで個を認識できると思ってるのだからイカれてやがる。

そして、今日は4月10日つまり。この世界がスタートする日だ。


(クソ、あいつまた"最初から"を選びやがった。何が気に食わないんだ)


“あいつ”とはこのゲームをプレイしているプレイヤーの事。あいつが最初からを選ぶせいで、この世界はループする。私は永遠にあの人間の出来損ない達とカウンセリングもとい、恋愛をする羽目になっている。

だいたい“学園モノ”だと言うのにおかしな奴が多すぎるのだ。


(本当に忌々しい。あいつ何が目的だ?全キャラこうりゃく?とやらは済んだはずだ。こうりゃくキャラっぽいやつ他にいたか?)


『遅刻するわよ〜』


“私”の思考はその声に中断される。


『今行く!』


【新入そうそうに、遅刻なんてありえない。私は急いで階段をかけ下りるとリビングでお母さんが用意してくれていた食パンを手に取った】


『いってきまーす』


『こら、食べながら行かないの!』


『でも、由香がもう迎えに来てるって』


【親友の由香が玄関て待ってるとメッセージが来ていた。由香まで一緒に遅刻なんて大変だ、私は口にくわえた食パンをもぐもぐ食べながら、おろしたてのローファーに足を通す。硬い皮の感覚に少し気が引き締まるきがした】


『おはよう!!』


玄関の扉を開けると、金髪にピンクメッシュの派手髪の少女が待っていた。

その顔をみて、私は少し体を強ばらせる。

仕方がない事だと思う。私の記憶では昨日まで西園寺眞の事で彼女に酷いいじめにあっていたのだ。

けれど、彼女にそんな記憶は無い。どうやらループで記憶を引き継ぐのは私だけのようだ。

そもそも、“西園寺るーと”に入らなければ由香はいい友達だし。“新谷るーと”では本当に、本当に頼りになる命の恩人なのだ。何度も助けてもらった。


「?どうかした」


「何でもない、おはよう由香」


私は頭を降って由香の隣に並ぶ。

今はそんなことより回避しなければならない事がある。“京極真也の登場いべんと”と言うやつだ。

3回目のループから私は些細な抵抗を試みている。

1回目のループのときは、本当に混乱した。

この人しか居ないと思った男を選んで、あまたの試練と呼べる物をくぐり抜けて。命の危機にもあった。それでも彼と寄り添いたいと思っていたのに。目が覚めたら彼は私のことを何とも思っていないし。命をかけて彼と思いあった時間すら無かったことになっていた。

そして、2回目のループで気がついた、どうやら“私”の意思関係なく喋ったり行動したりしてしまう時以外は意外と自由に動く事ができるのだ。

逆に強制的に喋らされたり動かされたりするのを“強制いべんと”と私は勝手に呼んでいたりする。

今朝の母親とのやり取りがその“強制いべんと”だったりする。


(さて、どうしたものか)


心の中で考える、大きく回避しようとしても何故か辻褄があう。わざと遅刻しても、無理やり早く家を出ても。“京極真也の登場いべんと”の京極真也の乗った車とあわや接触いべんとが起きてしまう。なら咄嗟の回避だとどうなるのだろうか?

半分以上食べ終わってる食パンをてに、やってみる価値はあると口の端を歪めた。


(そろそろか。あの角を曲がるとやつの車が突然現れる)


私は飛び出し注意と書かれた角の看板の前まで来ると、わざと食パンを地面に落とす。


「あっ!」


我ながら、わざとらしいとは思うが仕方がない。

驚きの声を上げ、そのまましゃがみこむ。すると、目の前をすごい勢いで1台の黒塗りの車が通り過ぎて行った。


(これは、もしかして、もしかしてやったのではないか!?)


「びっくりしたね」


「本当に、由香に怪我がなくて良かったよ」


私は飛び上がりそうな気持ちを押し殺して食パンを拾い上げる。土埃を払うといっきに口の中に詰め込んだ。


「えったべるの!?」


「あはは、なんか勿体なくてつい」


(と言うか、食パンもって学校入るのは何かと目を付けられそうだし。余計ないべんとを起こす可能性は潰すべきだからね)


少し砂利の付いた食パンを口の中で転がしながら角を曲がった時、コツンと足に何かが当たる感触がした。

蹴飛ばしたようで、ソレは軽快な音を立てて由香の前に転がりでる。

嫌な予感しかしない。


(頼む、由香。気が付かないでくれ)


「あら?これもしかして京極組の」


そんな私の願い虚しく、由香がソレを拾い上げる。

一目見ただけでソレが何か私には分かった。

由香の手のひらにちょうど収まるぐらいの大きさのソレはヤクザ京極組のエンブレム。

今通り過ぎた車に着いているものだ。


(どんな、柔い作りしてんだよ。車のエンブレムが勝手に落ちるって!!)


ちなみに京極真也を守るためなのが、このエンブレムにGPSが組み込まれてたりする。

京極組はヤクザだが何故か。本当に何故かこの街に溶け込んでいて由香含めその他のもの達は恐れたり避けたりしていない。


「拾いに来るかもしれないし、そのまま置いておいたら?」


無理だろうと思うが一応提案してみる。


「え?同じ学校に通ってるんだし、届けてあげましょうよ」


(チッ、やっぱり無理か)


どうやら“世界”は主人公と京極真也をどうしてもで合わせるつもりのようだ。

京極真也と合えばまた、強制いべんとが起きかねない。どうやって回避すべきか。

京極真也は私の初めての恋人。

いやもう本当にそう言っていいのかすら分からないが……


『それ、俺の落し物なんよ。届けてくれておおきに』


考え事をしている間にいつの間にか、学校まで来ていたらしい。門の前の壁に背中をあずけ腕組みをした男が話しかけてきた。

アメジストの瞳にムール貝の様な黒い髪、スラリとした体型でいかにもインテリヤクザみたいな格好をした男。京極真也だ。


(まぁ、GPSなんて付いてるエンブレム持ってるわけだしバレるよな。クソが)


どうにか知らないふりををして、落し物箱とかに入れられないか考えていたが、やはり登場いべんとの回避は無理らしい。


「あっこれの事ですか?」


由香がエンブレムを差し出すのを見ていると、突然体が動いた。


(クソっあいつ余計なことしやがった)


体はそのまま2人の横をすり抜けて校舎の方へむかう。その時、京極の後ろで大輪の紫色のバラが花開く。“好感度”と言うやつが上がると見えるそれに私はまたもや盛大な舌打ちをする。

京極真也はハンターの様な男だ。

自分から逃げるものに興味を示さないはずがない。


(あいつ、また京極真也るーとやつつもりなのか?この大輪のバラ見えてない分けないよな?だか、あいつの事だ何も考えてない可能性もあるな)


強制いべんとはあいつが関わっているものとそう出ないものの、2種類存在する。

大輪のバラの花が見えるとき、そして私の生死が関わる時などは、絶対にあいつが関わっている確証がある。どう考えても悪手だろうと言う行動を取らされる場合が多いからだ。絶対あいつは頭が悪い。


『どないしたん?君。急いでるん?』


(どないも、してねぇよ!)


『えっと……』


心の中で悪態を付くが、口は止まらない。


『私は別に関係ないかなって思って?』


『ほう?』


まずい!頭の先からつま先まで電気が走るのを感じた。

京極真也は誘惑のフェロモンとかいう物を持っているらしく、奴に見つめられた女は誰彼構わず、奴に好意を抱くことになるのだ。

私はあわてて目を反らし考える。


「そう、そう!課題!!」


「え?」


京極真也の少し間抜けな声は初めて聞いたなとか思いながら、必死に言葉を紡ぐ。

どうやら強制いべんとは終わったようだ。


「今日、提出の課題で1問間違えてるところを気がついて早く直したかったんです。ほら?朝礼前に提出でしょう?」


「あ、それであなた朝上の空だったのね」


まくし立てるように言う言葉に由香が勝手になっとくする。登校中いべんとの回避の為に考えていて、上の空だったことは本当なので、便乗させてもらう事にした。


「そうなの!だから直さないと。先輩失礼します」


私は京極真也に勢いよく頭を下げると校舎へと走る。奴のるーとなんて命がいくつあっても足りないのだから。ごめんこうむりたい。


あいつの力が及ばない強制いべんとでないのだから、好感度は上がらないだろうと踏んで。私は全力で京極真也から逃げた。


※※※※※※※※※※


『さぁ、行こう僕の愛しいプリンセス』


【彼のアンバーの瞳がとろけた蜂蜜の様に揺れる。私は差し出されたその手にそっと自分の手を重ねた】


『はい』


【彼は私の手を宝物のように包み込む。私はこの手をもう絶対に離したりしない。なんでも完璧にこなすように見えて、本当は臆病で。人の気持ちに鈍感でそれでも精一杯寄り添ってくれる彼の事が大切で。愛しているのだから…………】



「いや!!!西園寺眞ルート良かった!ドキ☆ハラをただの乙女ゲームと侮ってはダメね!」


少女はベットにゴロンと横になるとスペシャルからギャラリーを選んで見返す。

京極真也か、初めて西園寺眞までのイベントCGをニヤニヤしながら眺めていた。

すると、いべんと達成率に目が止まる。


75%


少女はガバッと体をベットから引き離し、目をこすってもう一度画面を見てみる。

数字は変わらない


「えっ!?うそーーフルコン出来てないの!!隠しキャラとかいるの?……こうなりゃ攻略サイトを。。いや、それは何か負けた気がする。好感度upエフェクト解禁する?うーんでも出来れば自力でフルコンしたい」


悶々と考えていた少女は再びベットに寝転がるとスタートにカーソルを合わせる。


「やってやろうじゃないの!自力でフルコンよ!!!」


ジリジリリリリリリリリリ


【私は、けたたましいベルの音で目を覚ました。目覚まし時計代わりのスマホを持ち上げる】


«4月10日»


【私立ことぶき学園に入学して初めての月曜日はとてもいい天気で清々しい朝だ】


『遅刻するわよ〜』


『今行く!』


【新入そうそうに、遅刻なんてありえない。私は急いで階段をかけ下りるとリビングでお母さんが用意してくれていた食パンを手に取った】


『いってきまーす』


『こら、食べながら行かないの!』


『でも、由香がもう迎えに来てるって』


【親友の由香が玄関て待ってるとメッセージが来ていた。由香まで一緒に遅刻なんて大変だ、私は口にくわえた食パンをもぐもぐ食べながらおろしたてのローファーに足を通す。硬い皮の感覚に少し気が引き締まるきがした】


『おはよう!!』

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