第13話

大内裏の内側にある近衛府に顔を出し、明日から通常の業務に戻る旨を伝えると頼光は陰陽寮へと歩いた。

足柄山からはるばる連れて来た修験者、奴に友成の呪いを解かせねば任務完了とはいえない。

それはもう陰陽師の領分ではあるが、見届けねば気が済まない気質なのである。

そんなわけで、頼光が陰陽寮のすぐそばまで来ると、中から晴明が出て来たところであった。

「晴明様。友成殿はどうですか」

晴明が出て来たということはもう安心なのだろうが、念の為の確認を頼光は怠らない。

その問いに対して晴明はニコリと笑う。

「もう大丈夫や。あとは滋養のあるもん食べて体力つかせればええよ」

「そうですか。よかったです」

晴明が大丈夫というなら間違いない。ようやく頼光は心から安堵することができた。

そんな頼光に晴明は労いの言葉をかける。

「ご苦労さんやったな。あぁ、金太郎っちゅう鬼を連れて来たんやろ。名前に関してな、家人に文預けといたんやけど」

「はい、受け取りました。本人にも伝えてあります。あの、金時という名には何か意味のようなものはあるのでしょうか」

深夜に自室に帰ると、部屋には晴明からの文に、貞光がまとめた坂田蔵人に関する資料。

寝る間を惜しんでそれらに目を通した頼光であるが、晴明の文の日付を見るに貞光が都に帰ってからそう日が経っていなかった。

すでに名は決まっていたような素早さを頼光は不思議に思っていたのだ。

「俺は知らんけどな」

「え?」

「それは今日の夕刻にみんな揃てからでええやろ。頼光、お前も今日くらいゆっくりせえ」

はぐらかされた。いや、皆揃えば教えてくれるというならはぐらかされたとは言わないだろう。

ただ頼光の気が急いてしまっているだけなのだから、晴明の言う通り今日はゆっくり過ごすのが良いのかもしれない。

「俺も友成殿の様子だけ見に行ったらもう帰るさかい、夕刻までうちにおったらええやん。」

そう誘ってくれる晴明だが、唐突に思い出したことがある。

「…綱たちは仕事が入ってしまっていました…」

従者に仕事をさせておいて、自分だけのんびりとはいくまい。

それを平気でやっている輩がいるのも知っているが、自分はそのような主人にはなりたくはない。

たとえ従者が鬼で、人間の頼光よりも体力があるのだとしても。

そういう頼光の気質を晴明は十分理解している。

なので、

「なんや、そうなんか。じゃ、誰か手伝いに行ってやり」

そう言って頼光の肩を叩いた。

狩りの季武と、都を案内される金時に案内する貞光、どこにいるか分からないので手伝うも何もない。綱は羅城門の修繕、体が大きくも力も特別強いわけではない頼光が行ってはかえって邪魔になろう。実は天皇家の血筋である頼光がそういう場に出向いては、職人たちにいらぬ気遣いをさせてしまうのも分かっている。

なので頼光は、

「友成殿の屋敷に行くのであれば同行させていただけないでしょうか」

とお伺いをたててみた。

実際友成の体調ならば見ておきたい。

「ええよ」

晴明は快諾してくれて、五条大路にあるという橘友成邸へと連れ立って歩き出したのだった。

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