第10話

貞光を先発として出立させた後、頼光、綱、季武、金太郎は下手人である修験者に手枷、首枷を着けて京の都へと向かう。

その道のり、約十四日。

ひと月近くかけて帰って来たはいいが、生憎の深更。いち早く晴明の元へと考えていた頼光ではあるが、修験者を役人に引き渡すと仕方なしに自邸へと帰った。

帝おわす平安京は、全国から高級品や金品の集まる地である。したがって野党、盗賊に狙われることも相当に多い。そのため、市中見回りの役人である武官は交代で深夜の勤務に従事しているのだ。なお、頼光も晴明の特命がなければ普段はその職務に就いている。

さて、頼光の自邸は都の最北部を東西に通る一条大路にある。晴明邸は実は近いところにあるのだが、この刻限に訪問するわけにはいかない。

門番に帰宅を告げ、門をくぐると、金太郎が足を止める。

「……ここ、家か?」

眉を寄せつつ、呆けたような声の金太郎はそういえば都をきょろきょろ見回していた。

「ああ俺の家だ。というより、父の家だが。町や家の造りが違うか。」

地方から都に出てくればみなそうであろうなと頼光は思ったのでそう言ったのだが、そうではないらしい。

「違うのは大きさじゃ。なんじゃ、この広さ」

深夜でなければ大きな声を出しそうな表情の金太郎に綱が声を殺して笑っていた。

「確かにな、ここ広いんだよ。頼光様、実は都でも指折りのお金持ちだから」

綱が笑いながらそう言うが、頼光としては異論がある。

「違う。金持ちなのは父であって俺じゃない」

父、満仲みつなかは地方へ赴いて行政を行う受領をいくつも歴任しており、結果財産は大いに蓄えられた。この広い家も、金も父の職で得られたものなのだから頼光が金持ちというのには当たらない、と頼光は考えるが、どうにも伝わらない。

「金持ちの家に生まれれば金持ちじゃろうが」

と金太郎は言う。

「そういうもんか」

これはもう考え方の違いなのだから仕方ない。

「俺もそう思います」

綱や、

「俺もそう思っております」

季武までそう言うならもうそれが一般論。

そう結論付けて、頼光は広い家の自室に向かったのだった。

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