どこでも荘の大家さん

むてきいも

1.【どこでも荘とお掃除屋さん】

【〜★新規入居者募集中!★〜】


《家賃》150,000G(+管理費5000G)

《敷金・礼金》0G

《住所》エデル区3丁目※

《築年数》築6年




※扉の先は貴方次第です。




〜〜〜



ここはエデル区3丁目【どこでも荘】。

一見よくあるアパートに見えるが、少し変わった特徴がある。それは、という事だ。

各部屋の扉の先は、新規入居者が契約する際に好きな場所にある扉と繋げる事ができる。指定は一度きり。そして、その契約は入居者が亡くなるか、指定先の扉が壊されるまで続くことになる。

そんな条件だからか入居者の入れ替えは非常に少なく、扉前で立ち会う顔ぶれはいつも同じだった。


しかし数日前、諸事情で105の扉が空いたため、ここの大家である「オーヤ」は久しぶりに新規入居者の募集を掛けることにした。


「なんだ、ここの住人死んだのか?」


扉が並ぶ通路前でデリカシーの欠片も無く話し掛けて来たのは、お掃除屋さんの「イレイザ」だった。


「おはようございます、イレイザ。そうすぐ決め付けるのは止めてください。」


オーヤがムッとした顔でイレイザを見上げる。


イレイザはオーヤよりふた周りくらい大きいワーウルフだ。元々であったが、ひょんなことから【どこでも荘】専属の兼警備員となった。


「おはよ。実際そうなんだろ?俺の知ってる限りじゃその結末しか考えられねぇけど。」


オーヤが「はぁ」と溜息をついた。


「今回は指定先の扉が壊れてしまったんですよ。もうこの扉には戻って来れない、というだけです。」

「ふぅん。要は向こうに置き去りにされたって感じか。で、どこに繋いでたんだよ?」


「詳しくは言えませんが、闇市の隠れ家です。」

「やっぱ死んだじゃねぇか!」


ほらな。と言わんばかりの得意気な顔でイレイザがツッコミを入れると、手を止めていた清掃作業に戻ろうとする。

そんな姿を冷静に見つめながら、オーヤが口を開いた。


「扉の先が何であろうと私は構いません。ただ扉を貸して、家賃を徴収するだけです。そこに責任は伴いません。」

「はいはい分かってるっつーの。何回言うんだそれ…。」


イレイザはオーヤに背を向けながら清掃を続けている。時折ふさふさの尾が揺れるのは背後にいるオーヤを気にしているのだろう。


オーヤはというと、しばらくイレイザの清掃作業を眺めていたが、やがて管理室の方へ歩き出すと


「さて、次の入居者が楽しみですね。」


そう言ってこっそりと微笑んだ。


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どこでも荘の大家さん むてきいも @MutekinoOimo

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