冒険者 縁
仲仁へび(旧:離久)
第1話
俺は冒険者だ。
故郷のお母さんお父さんとケンカして、口に出した夢をひっこめられず、そのまま住み慣れた村を飛び出して、冒険者になった。
きっかけは、たまに村に訪れる人……吟遊詩人が語る冒険者の歌や、絵本に出てくる冒険者絡みの話をきいて。
そのうち、自分もそうなりたいと思ったのだ。
しかし、現実は少年の夢だけで叶えられるものではない。
家出同然の行動で大きな都市にやってきた俺は、すぐに現実の厳しさを知った。
冒険者の生活は大変だった。
最初の頃は、満足に食うもにも手に入らなかったし、寝る場所もえられなかった。
冒険者は、冒険者ギルドがあっせんする様々な依頼を受けて、魔物を退治したり、素材を採取したりして、生活している。
しかし、レベルが低い初心者だと、モンスターを倒せない。
だから、クエストがこなせないし、素材が手に入らない。
生活のための資金が得られないのだ。
そこらへんの草を噛んで、何度くうふくをまぎらわせた事か。
一年かけて、やっと普通の冒険者の暮らしができるようになった。
けれど、慣れてきた頃でも油断は禁物だ。
冒険者の仕事は、ささいなミスが命取りになる事がある。
きちんとやるべき事をこなしていても、不測の事態で命を落とす事があるのだ。
うまくいくより失敗する事の方が多い。
成功者なんて、ほんの一握り。
全体の一パーセントにも満たない。
俺がどっちかというと、まぎれもなく残りの九十九パーセントの方だな。
今も迷宮に入って迷子になったあげく、モンスターにおいかけられてるし。
「うおおおおおお! 死ぬ死ぬ死ぬ!」
おもい装備を放り投げて、全速力。
モンスターに追いつかれない事だけを祈って走っていた。
迷宮に入る前に、できるだけの準備はしたさ。
モンスターの情報もチェックしたし、地図も用意した。
装備だってしっかり整えた。
しかし。
「だれか、たすけてぇぇぇぇ!」
できるだけベストを尽くしていても問題は起こるんだよな。
ごく普通の生活を送っている人間よりも、はるかに予想外が起こりやすい。
この世界では、昨日まで元気だった冒険者が、急に見かけなくなるなんて事はよくある事だった。
でも、そんな事態になっても、できるだけ生存の可能性を上げる事ができる。
それは「とりゃ!」
思考を中断。
背中から追いかけてくるモンスター達に立ち向かう人影があった。
知った顔だ。
俺じゃ倒せない高レベモンスターがあっけなく、倒れていった。
「うおおおおお、助かったありがとおおおお!」
俺はモンスターを一撃で葬り去った冒険者の姿を見てむせびなく。
一方、相手は冷静だ。
「だいじょうぶ?」
「ありがてぇ。死ぬかと思ったぁ、ずびっ、ぐすっ」
「まだ、一体倒しただけ、他のがくるよ」
「へい、全力で逃げさせていただきやす」
唐突にやってきた助っ人。
最初に気が抜けるような掛け声で剣をふったそいつは、女冒険者だ。
以前一緒にお仕事をしたことがあるから、「顔見知りが襲われとる、せや助けたろ」みたいに駆け付けてくれたのだろう。
ありがてぇ。
「やっぱ、不測の事態の助けになるのは人の縁だよな」
「ん、いきなり何? とりゃ」
「なんでもないこっちの話」
冒険者は危機的状況に陥りやすい。
でも、こういう時のために日頃から人の縁を大事にしておく事で、自分では手に負えない事でも乗り越える事ができるのだ。
「今日、おごって」
「かしこまりました! おつまみはいつものですねっ!」
「ん、よろしい」
俺は、モンスターをざっくざっく切り刻んでいる頼もしい知人を見ながら、今この瞬間を生き延びられた事に感謝するのだった。
冒険者 縁 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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