第03話 三途の河を目指して

突発的に自死を計画して、実行はその日の深夜。

手始めに錠剤の風邪薬をあるだけ口に含み水で流し込みました。

輪郭が不確かな意識の中で利き手に果物ナイフを握り締めて、

左腕の手首に縦横斜めに切り傷を刻んで行きます。


1200cc体外に血液が流れ出れば死亡確定と、

何かの書物で読んだことがあり、或る種の勝算があった行為でしたが、

当時は2月でかさぶたが出来るのも早く、

しばらくじっとしていても絶命の兆しも無く、

力無くぶら下がる左腕に苛立ちながら3Fのベランダを目指しました。

最後の賭け……頭から落ちたら絶命もあり得るかも?

両腕で支えられないので、

もたれかかるように3Fのベランダから転落する手筈を整えます。


「ここまでして、なんで死にたかったんだっけ?」


今や、正当な理由を述べる回路すら働かず(ズルル……ズルル……ドシンッ!)

3Fのベランダから屋根伝いにゆっくりと地面に接触して、

結果は腰部を強く打ちました。この時点で腰部圧迫骨折の確定なのですが、

それでも希死念慮は消えずに、河を目指して歩き始めます

(目指していたのは、川と言うよりも河)。

折れた腰をかがめて、一歩一歩に最期の力を振り絞って。


結論から言うと、Uターンして、自宅のインターホンを押して助けを乞うのですが、切り傷の痛みや、腰部骨折の稼動制限等が引き起こす

一連の不祥事は割愛させて頂きます。


ここで、僕は人生で初めて精神科の塀の内側に入りましたし、

左腕には【屈筋腱断裂後遺】と言う後遺症が残ってしまいました。

鍵盤楽器を軽やかに弾くには、絶望的なコンディションと言えます。

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