第14話 身内バレ

「そういえば、どうしてお二人はこの町に来たんですか?」


 食事が終わり後片付けを終えた後、僕はくつろいでいるシンさんとシーナさんに問いかけた。

 どうして聞いたのかって言えば、まあ、ただ単に気になったからっていう理由だけだけど。


「ああ、護衛任務のためにな」

「護衛任務ですか? あ、もしかして昨日、あの王国騎士さんが乗ってきた馬車の護衛とかですか?」


 まあ、それしか思いつかないんだけども。

 というかあの時、皆も乗ってたのかもなぁ……。


「いや、明後日開かれる領主主催の会食の近辺護衛だ」

「あ、そうなんですね」


 なるほど……。


「けど、さっきの話を聞いて少し気になるな」

「何がですか?」

「人攫いとかいう奴がいるのにも関わらず会食を開くだなんて。本来なら犯人が捕まってない以上、来る客人に被害が出ないとも言えないのにそんな事はしないだろ?」


 言われてみれば確かに。


「確かにねー。兵士を増員して対策に当たっているって言ってもさ、不穏分子をそのままにしてパーティー開くなんておかしいよねー」

「うむ」


 会話に割り込む二人。

 それに虚を突かれて一瞬ビクッとするシンさん。

 普段から沈着冷静な彼のその様子に、シンさんもそういう表情するんだと思ってしまう。


「というか、会食かぁ。あっ待って!! て、て事はさ、他の地域の領主とかお偉いさんも集まるって事だよね!?」

「あ、ああ。そうだ。だが、ここは王都から結構遠いから王都付近の領主達の欠席も結構いると聞いてる」

「そうなの?」

「ああ。参加人数的にはそれなりに少ないって話だが。その馬車は今日この町に来る事になってるとは聞いた。それは別の冒険者が護衛担当してるから俺等は関係ないが」

「ほう」


 それを聞いてなんでか安堵するユウさんと、感心したような声を出すピゲオンさん。


「あの、シンさん」


 おずおずとシーナさんがシンさんへ声をかけた。


「どうした?」

「その情報、教えて良いんですか? 一応秘密って事になってますけど……」


 えっ……。


「そうだな。普通の奴には教えない。だが、元俺等のパーティーメンバーだ。それにグリムこいつはそういう事に関して口外するような奴じゃないから信用して良い。他の二人は分からんがな」


 凄く信用してくれてるのは嬉しいけど。

 理由としてそれで良いの? シンさん。


「大丈夫大丈夫。見た目通り口は硬いから」

「うむ、安心するが良い。口外などはせぬ」


 そんなシンさんへ二人が凄く良い笑顔で声をかける。

 でも、なんか不安が残るというか。これ、絶対何か企んでる顔だ。

 僕の直感がそう言ってる。


「そうか、なら助かる」


 そう言って視線を僕の方へと戻すシンさん。


「じゃあ、そろそろ宿に行くか。飯ご馳走さん。行くぞシーナ」

「あ! はい」


 そう言って立ち上がる二人。


「泊まっていったら?」


 そんな言葉が彼女ユウさんから発せられた。


「うむ。グリムの友であるというのなら我等にとってもすでに友だ。二人分の部屋も空いておるしな。どうだ?」


 ピゲオンさんもそう提案する。

 僕も泊まっていっても良いのにとは思ったけど、けど、ピゲオンさん。

 ここ僕の家なんですけど……。

 でも、まあ。


「是非。シンさんも、シーナさんも泊まっていって下さい」


 宿代も浮いて良いと思う。それに、久々に会ったんだし―――


「……そうか。なら、甘えさせて貰おう」

「え? 良いのでしょうか?」

「良いよ良いよ。というか、人攫いがいるのに二人で夜にこの町を出歩く方が危険だよ」

「うむ、ユウの言うとおり。それに万が一襲われ、人攫いを撃退したとて明後日に響く傷になるやもしれぬしな。ゆっくりするが良い」


 こうして二人の宿泊が決定した。

 そういう訳で二人に空いてる部屋を案内してリビングに戻ってくる。

 いやー、それにしてもなんかこうやって同じ屋根の下でかつての仲間が泊まるなんてなんか嬉しい。

 久々に色々話したりとか―――


「そんじゃ、もう俺は休ませてもらう」

「え? もう休むんですか?」

「ああ、流石に今日あった事で色々と緊張が解けたようで疲れがな」


 あっ……。


「そんじゃ先に。シーナもあんまり夜更かしすんなよ」


 そう言ってシンさんは案内した部屋へと行ってしまった。

 でも、そうだよね。

 シンさんはずっと抱えてたんだから。


「あの、グリムさん」

「あ、はい! なんでしょうか?」


 いきなり声かけられてビックリした~……。


「あの、えーと、今日はありがとうございます。私も先にお休み致しますね」


 そう言ってシーナさんもお部屋の方へ。

 二人とも今日の事が凄くショックなんだろうな。いや、僕も色々ショックではあるけども。

 ……。


「フッ、やったな」

「こんな重要な情報を抵抗軍我等に教えるなんてな」


 後ろから凄くあくどい声と笑う声が。

 この二人は本当に……。


「という事でグリム。いや、副リーダー。仕事に行くよ」


 いや、仕事って……。


「仕事って、なんですか?」

「何って抵抗軍レジスタンスの活動だよ」

「うむ、この町の領主の予定が分かったのはデカい。それに、丁度今夜、今後我等が挑むであろう者達が来ると言うではないか。その顔を見に行こうではないか」

「いえ、あの―――」

「そうと決まれば早速」

「移動するが吉であろう!」

「いや、ちょ―――」


 僕の言葉を最後まで聞かずに無理矢理ピゲオンさんのマントに包まれて、僕の部屋から移動する事に。

 僕、今、そんな気分じゃ無いんだけど。


「またまた来たね。門の上」

「うむ、やはり今日は兵士が門の周りにおるな」


 二人はやる気満々に門の上から身を乗り出して下を見やり、そんな事を言ってる。

 ……。


 確かに、今日は門の前に兵士が沢山いるのが見える。

 そりゃあ、大事なお客様が来る日だから当たり前だけど。


「あ、馬車来た。馬車」


 ユウさんが指を向ける方向。そこに一台。では無く、連なって多くの馬車がやって来るのが見える。

 様々な領主様の家紋が付けられている馬車の行列は見ていてなんか凄かった。

 その馬車の周りには領主さん達の護衛の姿も見える。


「へえ、あそこの領主もいるんだ。珍しー」

「そんなに珍しい領主が来ておるのか」

「うん。あの馬車の領主、大事な祝い事以外滅多な事じゃ来ない領主だから珍しいよ」

「ほう」


 なんでユウさん、領主の事情に関しても詳しいの?


「って、あれ? あの馬車。あー、珍しい」


 なんか勝手に納得するユウさん。

 あの、荷台が白い馬車を見て珍しいって言ったけど……?


「リーダーよ。珍しい、とは?」

「あの白い馬車。王立教会のトップとかが乗る聖職者用の馬車だよ」

「ほう、そうなのか」


 ……え?

 つまり、教皇様が来てるって事!?


「でも、あの窓の形は聖女っぽいね」

「ええ!? 聖女様がお越しになられてるの!?」

「グリム、声がデカい」

「うむ、認識阻害の魔法を使用しているとはいえ、効かぬ者もいる時はいるモノだ。故に大声は控えた方が良い」

「ご、ごめんなさい」


 二人に怒られた。

 けど、聖女様が来るなんて凄い事だよ。

 聖女様の地位は下手な領主様より高い人なんだし。

 教皇様は更に上だけども。


 ……ちょっとだけ見ても良い、よね。

 そうして眺めているけど、馬車はここで降りる訳じゃ無いみたいだし一目見るのも無理かぁ。

 仕方無―――


 そう思って諦めた時、聖女様の馬車の窓から人が覗くのが見えた。

 というか、目が合ったような気がした。

 いや、でも、気のせい気のせい。

 あそこの窓から見えるなんて事は無いと思うし。


「これは活動を広めるにはチャンスだよ。グリム、ピゲオン」

「うむ、この機に乗じて我等の名を国に轟かせ、国王へ眠れぬ夜を与えてやろうではないか」


 そんな僕の隣でクククと笑みを溢す二人。

 凄く不安に感じる。


「では、敵情視察も終わった事だ。グリムの家我等がアジトへ帰るとしよう」


 そうして僕らは家に帰る事に。

 けど、まさか聖女様も来るなんて、どこかで一目見れたら良いな。

 まあ、そんな機会ないだろうけど。


「お帰り。三人とも」


 元いたリビングに戻ると、そんな声がして三人で振り返った。

 そこには、腕を組んで壁に寄りかかってるシンさんと、短杖を握りしめているシーナさんの姿。

 あ、これ―――


「それとも、反抗軍レジスタンスって呼んだ方が良いか?」


 冷たい声色で腕組みを解くシンさん。

 マズい、どうしよう!

 凄く本気の目で僕らを見てるよ。


「フッ、流石と言ったところか。で、何の情報が欲しいのだ?」


 そんなシンさんにピゲオンさんが普段通りに問いかける。

 でも、なんというか凄く、ピリピリとした雰囲気に緊張が―――。


「そうだな。……お前等はこの町で起きてる人攫いに関与しているのか?」

「しておらぬ。逆に我等も活動の邪魔になるが故にその人攫いを探しておるのだ」

「そうそう。そして人攫いよりも悪い私達の名を轟かせるのが目標だよ。ね、グリム」

「えっ」


 あ、うえ? なんで、そこで僕に振るの!?

 いや、でも―――


「そうだね。とりあえず、僕も人攫いは捕まえたい」

「……そうか」


 シンさんはそう言ってゆっくりと壁から離れた。


「シーナ、杖を下ろして良い」

「え? ですけど―――」

「なんで王国に対しての犯罪組織を名乗るところにグリムお前がいるのかは知らないが、とりあえずは人攫いじゃないならそれでいい。お前達には借りがあるからとりあえず反抗軍の事は黙っておく。それと、これを持っておけ」


 シンさんが何かを投げて寄越した。

 それを慌ててキャッチしたけど、なんだろうこれ?


「通信用の魔導具だ。俺も同じのを持っている。何かあればそれで連絡しろ。そんじゃ、宿屋に行くぞ。シーナ」

「あ、はい!」


 そう言って二人は僕の家から出て行ってしまった。


「もう、人攫い捕まえるのに協力するなら協力するって言えば良いのに」

「うむ、アレが俗に言うツンデレというやつか」

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我ら、最強反抗軍(ポンコツレジスタンス)! 寺池良春 @yoshiharu-t

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