第13話 アマの実

 夜遅く、聴取が終わり僕らは帰路につく。

 だけれど、気分は晴れることは無く落ち込んでいる。


 ピゲオンさんが頭を掴んだ彼女が全てを語っていた事が真実なのだろうと思うと更に……。

 いや、僕なんかより、現パーティーメンバーの二人の方がショックが大きいだろうけど。

 見れば案の定シーナさんは短杖を握り俯いている。

 そりゃあ自分の所属しているパーティーメンバーに犯罪者がいたとなれば、落ち込むよね。

 だけれど、シンさんは落ち込む様子は無く、普段と変わらない様子で歩いている。

 シンさんも落ち込むと思ったけど、いや、彼ならシーナさんに気を使わせないようにただ気丈に振る舞ってるのかもしれない。

 あ、そういえば―――……。


「シンさん」

「ん? どうした?」

「あの時、僕に話があるって言ってましたけど、何だったんですか?」

「ああ、それか。もう解決した事だ。単に、あのガラシュール達が犯罪者だという事を伝えようとしたんだ」


 え?


「気付いてたんですか? それなら、まだパーティー解消される前に僕に伝えてくれても―――」

「いや、変だと気付いたのはお前がパーティー解消処分を受けた後だ」


 そう言って目を瞑り話を続ける。

 シンさんは僕がいなくなった後、しばらくして偶然にも彼等の話を聞いて知ったとのことだ。

 けど、一人で三人相手は無理だと感じて機会を覗ってたらしい。

 それに下手に動けば催眠をかけられているシュリオさんが危険に晒される可能性もあるため、動けなかったそう。

 シュリオさん、まだ目が覚めていないけど、辛かっただろうな。

 けど、シーナさんが彼が僕の事を話すとき嬉しそうにしていたって言ってたけど……。


「それよりグリム」

「はい?」


 何だろう? 何かもっと話でもあるのかな?


「お前のあの仲間達は、何だ? 二人をしたあの女の子もだが、あの女の魔法を破ったあの男。ただ者じゃ無いだろ?」


 シンさんが前を歩く二人を指して聞いてくる。だけど、うん。それは僕も知りたいんだけど……。

 というか、何者って、なんて言えば良いんだろう。そりゃあ、反抗軍って言う訳にもいかないし、友達って言えば良いかなぁ……。

 いや、それしか無いような気もする。


「グリムー、お腹空いたー」

「うむ、ユウの言うとおり。早く帰り夜食を取ろう。グリムよ」


 悩んでいたら僕らとは違い平然として前を歩いていた二人が話しかけてきた。

 普段と変わらない二人の様子に、呆れて溜息が出そうになる。けど、


「はいはい。分かりましたよ」


 二人の変わらない様子に少し安堵している自分もいる。

 ……あ、そうだ。


「お二人も僕の家で食事とかどうですか?」


 シンさんとシーナさんに声をかける。

 何か気分転換にと提案したけど、正直、気持ち的に来ないかな?


「……久々にグリムの飯を食うのも良いな。シーナ、行くぞ」

「え? あ、はい。それじゃあ、お邪魔させて頂きます」


 そうと決まれば―――、


「ちょっと待て!」


 急に後ろから呼び止められて全員が振り向く。

 皆の視線が集まるそこには、あの王国騎士様のルールナさんが僕らの方を見て腕を組んで立っているのが見えた。

 けど、なんで呼び止められたんだろう? 僕達は屯所で話すことは話したし、シュリオさんに催眠をかけていた彼女が丸っと全部話していたし、なんだろう?


「お前達に聞きたいことがある」

「聞きたいことぉ? 私達さっき洗いざらい話したじゃん」

「うむ、あの者達の事はあの女が全て話したが」

「その事ではない」


 その事ではないって、じゃあなんだろう?


「この町で起きてる事件について、何か知らないか?」


 凜とした様子で彼女が言うその言葉。

 それって―――


「それって、人攫いのことですか?」


 僕が問いかけると、「ああ」と頷き彼女は続ける。


「ここの領主も追っていると資料を見せて貰ったが、被害者達の名前が出てくるだけで全くもって犯人に繋がるものがなくてな。それでお前達に聞こうと思ってな。私の―――、いや、まあそういう訳だ。何か不審な者を見たという情報だけでも良い」


 彼女は表情を崩さずに凜として問いかけてくる。

 けど、彼女に与えられるような情報なんて無いし。


「私達最近ここに来たばっかりだから知らない。夜とか家から出てないし」

「うむ、故に協力も何も知らぬとしか答えようが無いぞ」

「そうか」


 彼女はそう言ってふうと溜息をつく。

 僕も何か手伝いたいけど、兵士の皆が足取りも何も見つかっていない相手の情報なんて持ってないし。


「そういう事で、私達はこれからご飯を食べに家に帰るから」

「うむ、調査の方応援しているぞ。王国騎士団の者よ。我等は邪魔にならぬよう早急に帰ろうぞ」


 僕らは発言した二人に急かされる形で家に向けて帰る事に。


 そして、家に着いたとき。ふと家の前に見覚えの無いものがある事に気付く。

 いや、見覚えが無いからこそ気付いた。


 なんか、玄関先の土が剥き出しになっているところに小さいけど細い木が生えてる。

 なにこれ……。


「グリム、どうしたのー? 早く入ろうよ」

「あの、家の前に木が生えてるんですけど」

「ん? あ、もう育ったんだ」


 育った?

 え? 何その―――、いや、もしかして……。


「全くー、グリム。私が渡した種ただ置いてるだけで埋めないから代わりにやっておいたよ」


 たしなめるように、けど自慢気に彼女は僕に言ってくる。

 ああ、やっぱり。


「ユウさん」

「ん?」

「埋めなかったんじゃ無くて、乾かしてたんですよ。それにどんな木になるのか知らないのにただ埋めたら上手く育たなかったり、大きくなりすぎて危険でしょうし、後でピゲオンさんと木の実を見つけたところまで行こうと思ってたんです。それよりも、僕の部屋に勝手に入ったんですか?」

「え? いーじゃん別に」

「良くないですよ!」

「まあまあグリム。そんな小さい事気にせず、さ。お家に入って晩ご飯晩ご飯」


 笑顔で家に入るユウさん。

 はあ、この人は全く。


「あの、グリムさん。この木、何か実ってますけど……」

「え?」


 シーナさんに言われ見やると、さっきまで数枚の葉っぱしかなかったはずなのに、細い木には似合わない程の大きさのアマの実が生っている。

 え? なんで? というか、いつの間に。


「この実……」

「シンさん? どうかされたんですか?」

「アマの実だ」

「アマの実……?」


 キョトンとするシーナさん。

 それにシンさんは続ける。


「凄く高価な木の実だ」

「そうなんですか。高価ってどれくらいなんですか?」

「そうだな。五個もあれば余裕で王都中央部に家を買えるくらいだな」

「へー……、へ?」


 固まるシーナさん。

 まあ知らなかったらそんな反応になるよね。僕も初めて知ったときは同じ反応したし。


「グリム、これを育ててるのか?」


 育ててるのかって聞かれても……、うーん。


「僕は種を乾かしてただけで、ユウさんが勝手に植えたので育ててると言って良いのかどうか……。それに今日植えたばかりでここまで育ってるので、僕は何もしてないに等しいですし―――……」

「グリムー、何してるのー?」


 言い淀んでいたら先程家に行ったユウさんがドアを開けて顔を覗かせた。

 その時、彼女の視線が木の方へと向く。


「あ! アマの実生ってるじゃん」


 ユウさんはそう言うと、スルッと玄関から出て来てアマの実を採りむしゃむしゃと。その動きに無駄は無かった。

 その様子をただ呆然と見ているシンさんとシーナさん。


そうだももも


 食べ終え満足げな表情の彼女はアマの木が生えている隣にしゃがみ込んで何かをしている。

 音的に土を掘ってる様子。


「良し!」


 彼女は満足げな声を出して立ち上がり、何かをしていた場所は土が掘り返された跡と土が盛り上がっている。

 植えたんだろうなとは思ったけど。


 ……隣のアマの木との間隔かなり狭いというかほぼ開いてないんだけど。


「さ、グリム。晩ご飯早く早く!」

「はいはい。そんなに背中押さなくても行きますから」


 そういうものの彼女に押される形で僕は家に入ることに。

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