第12話 隠れ蓑
気持ちは晴れない。いや、理由は分かってる。分かってるし、気にするだけ無駄なことだという事も分かってるけど。
かつての仲間に出会って、戻ってきてくれないかって言われて、それで―――。
はぁ……、何期待してるんだ僕は。
変な期待をしてしまった自分に溜息が出る。
だけど、沈んだ気分のまま帰路を歩く自分の足元を見ることくらいしかしたくないな、今は。
「あの……」
「?」
不意に声をかけられて僕が振り向くと、そこには
確かこの子、僕が前にいたパーティーにいた知らない子だ……。
「グリムさん、ですよね?」
「え? ええ、そうですけど。どうかされましたか?」
「あの、えーと、ごめんなさい」
急に頭を下げられた。
え? 何だろう急に?
「あの、頭を上げて下さい。急にどうしたんですか?」
彼女にそう声をかけると、彼女はうっうと泣き出してしまった。
それに慌ててどうしたものかと問うも、しゃくり上げてしまい答えられない様子。
とりあえず落ち着いて貰うために、近くにあるベンチに彼女を座らせた。その際、近くにいた兵士さんにどうしたのか問いかけられ、特に事件性はない事を告げるとそうかと去って行った。
それからしばらくして落ち着いた彼女に問いかける。と、俯きつつ頭を下げた理由を話をしてくれた。
どうやら午後に彼等を連れて来たのは彼女みたいで、昨日、僕の事を聞いていた彼女は、偶然聞こえた僕の名前に気付いて聞き耳を立てていたらしく、そして、その後。丁度僕がゴミ出しのためにお店の裏手から出て来たのを見ていてここで働いているんだと連れてきたとのことだ。
それと、僕らのことを昨日追いかけてきたのも彼女だったらしい。
「すいません。リーダーが貴方のことを話すとき凄く楽しそうに話していたので、なんとなく再会させてあげたくてしたんですけど。なんかあんな空気になってしまって、うう、ごめんなさい」
「そんな謝らないで下さい。大丈夫ですよ。貴女が頑張ろうってした事でしょうし、それで、えーと―――」
落ち込む彼女にフォローを入れようとしたけど。ダメだ。さっきの事が頭を過ぎってしまってどうフォローして良いのか分からない。
だけど、彼女に悪気があった訳じゃないのは事実だし―――
「グリム」
「うわ!?」
急に反対側から話しかけられて驚いた。
見れば、シンさんが立っていた。い、いつの間に……。
「そんな驚くことも無いだろ」
「す、すみません」
謝ったら、溜息をつかれた。
でも、他の人と話してて急に話しかけられたらそうなると思うんだけど……。
「まあ良い。それよりも、お前に聞いて欲しいことがある」
「僕に、ですか?」
「ああ。それとシーナ、お前にもだ」
「私にも?」
シンさんはゆっくりと頷くと、静かにゆっくり口を開き―――、
「ダメー!」
「ぐへ!?」
シンさんが何かを言う前に、突然の脇腹への衝撃で体がくの字に曲がりそうになった。というか一瞬なったんじゃないかなこれ!
見れば、ユウさんが脇腹にしがみついていて、その横にはいつの間にいたのかピゲオンさんも。
「ダメダメ! グリムをパーティーに引き戻しに来たんでしょ! ダメだよグリムはもう私達の仲間なんだから!」
「うむ、その通り! グリムは我等が同胞。譲るつもりは無い!」
二人は力強く言い放った。
……仲間。
「二人とも落ち着いて下さい。お二人は僕を引き戻しに来た訳じゃ無いですから」
そう、二人は別に僕を引き戻しに来た訳じゃ無い。それに引き戻されたところで冒険者ライセンスは持ってないんだし。
「そんなの分からないじゃん! いなくなってから気付くって事もあるんだよ! だけど、もう遅い!」
「うむ、ユウの言うとおり。グリムは既に新たな道を進んだ身。故にお引き取り願おうか」
二人はそう言ってシンさんとシーナさんに対面する。
明らかに誤解している二人。それに対してただ二人を見やるシンさん。
しばらくその状態が続き、なんか凄く空気が張り詰めてる。その空気にどうしようとシーナさんがオロオロとしている。
ここはとりあえず二人の誤解を解いて、とりあえずシンさんが話そうとしていた事の続きを。
「いや、あの―――」
「二人ともこんな所にいたのか」
誤解を解こうと口を開いた瞬間、この場に聞こえた声に皆が視線を向ける。
そこには平然とした様子で立つシュリオさんの姿と、
「あん? 二人がいねーから探しに来たらグリムもいんじゃねーか」
後ろに、いつものように二人を侍らせたガラシュールさんもいる。
正直、また彼には会いたくは無かった。
「えー、副リーダー。リーダーが要らないって言ったグリムよ? まだ誘おうとしてるのー?」
「そうだ、シン。グリムはもう、うちには要らないメンバーだ。だから追い出したのを忘れたのか?」
「そうそう、それにグリムがいた所で―――」
「先手必勝ー!」
空気感をぶち壊してユウさんがガラシュールさんの侍らせている女の人に跳びかかり、顔面に拳をお見舞いして地に叩きつけた。
その動きに一切の迷いは無く。
って―――!
「ユウさん、何してるんですか!?」
「え? 何って残党狩り」
「残党って!」
え? ざ、残党……?
「……なんの残党、ですか?」
「ん? 何って
ユウさんは平然とそう言うと伸びてる彼女の胸元に手を入れてまさぐる。と、そこから一枚のカードを取り出した。
黒いカードに紫の薔薇が描かれた特徴的なカードを。
それをほらほらと見せつけてくる。
けど、そんな平然としている彼女の様子とは違って僕の頭の中は今の状況が理解出来ない。
だって、僕のいたパーティーに犯罪組織の人が入ってたなんて……。
それに気付かなかったなんて。
「てめぇ! よくも俺の女を! ぶっ飛ばして―――」
そんな声が聞こえてハッとする。
見ればユウさんに殴りかかろうとするガラシュールさんの姿が。
―――っ!
「あ! お前、良く見たら手配中の奴じゃん!」
咄嗟に魔法で彼とユウさんの間に氷の壁を作ろうとした僕の耳に聞こえた声。
瞬間、ユウさんの姿がぶれたかと思うと、殴りかかろうとした彼の手は彼女に掴まれておりそのまま、彼の体は背負い投げで勢いよく地面に叩きつけられた。
叩きつけられたその衝撃で一瞬浮いた彼のお腹に、間髪入れずにユウさんは拳を振り下ろす。
そうして再度ユウさんの拳で地面に叩きつけられた彼の下の地面は少し抉れ、鎧は砕け散った。
魔法発動前に解決した事にただ呆然と見る事しか出来なかった。
というか、確かあの鎧って、結構頑丈なやつで、
……それを、拳で? え?
唖然としていたら、ユウさんの視線は現在白目を剥いているガラシュールさんが侍らせていたもう一人の女の人の方へと向く。
それに一瞬ビクッとする彼女だったけど、汗をかきつつも右の口角を上げたのが見えた。
「ふっ、フフ。舐めるなよガキが! 行けリーダー!」
「ああ、分かった」
彼女の声に従い、シュリオさんが剣を抜きユウさんへと向き直る。
けど、普通におかしい。僕の知ってるシュリオさんなら、逆にもう一人の方を捕まえるはずだ。
何が、起きて―――。
「ふむ、洗脳魔法か。いや、催眠だなこれは。お主も大変であったな」
いつの間にいたのか、そんな言葉を呟いてピゲオンさんがシュリオさんの傍で顎に手を当てながらマジマジと彼を見たいた。
そうしてピゲオンさんはシュリオさんの肩をポンッと叩く。
と、彼はまるで糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
ピゲオンさんが何をしたのか分からない。けれど、ピゲオンさんの言っていた言葉で色々と辻褄が合うような場面が多いことが思い出される。
「さて―――」
ピゲオンさんは呟くと、ゆっくりと彼女の方へと向き直る。
彼に見られた彼女は小さな悲鳴を上げる。が、不意に、まるで勝ったかのように笑い始めた。
その様子に不快感と、どこか不安感も感じる。
「バカね! 私の催眠は強制的に解くと頭に作用して解かれた奴は廃人になる魔法なのよ」
言葉に愕然とする。
それじゃあ、もうシュリオさんは―――
「だからそいつはもう使い物に―――」
「うむ、見た感じそうであろうなと感じたがゆえ、ちゃんとそれも解いておいたぞ」
平然と言ってのけるピゲオンさんに勝つ誇り笑う彼女は「え?」と耳を疑っている様子で目を見開いた。というか、僕も。
そんな彼女の目の前に立つピゲオンさんは逆に怪しい笑みを浮かべて言う。
「では、今度は貴様の番だ。吐いて貰おうか。法の裁きの前で」
そう言い、固まっている彼女の頭を鷲掴みにして持ち上げるピゲオンさん。
彼女はそんな彼の手首を両手で掴み必死に剥がそうともがくけれど、外れない様子。
ピゲオンさんの、彼女の頭を掴んだ手に魔力を感じた瞬間、彼女は雄叫びとも悲鳴ともとれるような声をあげた。
そうして、魔力が消えるのと同時に彼女の体は痙攣しているようにビクビクと跳ねている。
ピゲオンさんは掴んでいた彼女の頭から手を離し、彼女は地面にそのまま崩れ落ちた。
「これで、一件落着だな」
腕を組み満足気に言うピゲオンさん。その後ろではユウさんがガラシュールさんと漆黒の賢者残党の人を縛り上げている。
いや、まあ、一件落着なんだろうけど、正直、今僕の中ではショックの方が大きくて、喜ぶなんて出来ない、かな。
パーティーに犯罪者がいた事に気付けなかった不甲斐なさを感じるてるし。
後悔の念に囚われている時だった。足音を響かせてやって町の兵士さん達がやって来るのが見える。
中にはグレンさんの姿と、あの騎士団の人の姿もあった。
「叫び声が聞こえたが、何ご―――」
そう言いつつ到着した兵士さん達は僕達のいるところに来て固まった。
どうしてかは、まあ、分からなくも無い。
来たら人が四人も倒れ、そのうちの二人は縛られている状態なのだから。
そのまま固まって状況に困惑している兵士さん達だけれど、その中からグレンさんの声が聞こえた。
「本当に、何事?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます