第10話 夜の町

 仕事が終わって僕は帰路につく。

 まさかユウさん達が来るなんて思ってなかったから驚いたけど、あの食べっぷりは、なんか、凄かったな。

 ピゲオンさんは優雅な感じで食べてて、ユウさんはまあいつも通り頬張ってたけど、二人で食べてるとは思えない程に来た皿の上の料理が消えていって。

 まるでイリュージョンのようだった。


「いやー、食べた食べたー」

「うむ、美味かったな。流石は我等がグリムの料理」


 そんな二人が満足げに声を出しながら後ろをついてくる。

 閉店時間まで食べていたから、折角だしと待ってたらしい。

 それを聞いてちょっと嬉しいかったけど、別に家に帰っていても良かったんだけどな。

 そういえば二人ともあんなに食べてたのに、一体あの量の料理どこに入って行ってるんだろう。いや、お腹だとは思うけども。良く入るよなぁ。


「ねえねえ二人とも」


 感心してたらユウさんが声をかけてきた。

 ……なんだろう?


「どうかしました?」

「どうした?」

「このまま町の外に行ってみない?」


 小声でそんな事を言うユウさん。

 突然そんな事言ってどうしたんだろう?


「ふむ、なるほど。夜間警備の町の外の配置確認か」

「そうそう。ここで活動するなら警備状況の把握と、それから導き出される逃走経路の確認と確保は必要でしょ」

「確かにな」


 ユウさんの言葉に頷くピゲオンさん。

 なんでユウさんの言おうとしてた事が分かるのか謎だけど確かに、活動するには必要だけど。


「それなら、一旦家に帰ってからの方が良いですよ」

「む?」

「なんで?」


 首を傾げる二人。

 いや、なんでって。


「人攫いの件で警備兵増員してるって話したじゃないですか。この時間はまだ人通りがあるから誰かが住んでる家の傍とかに兵士さんがいて帰宅してるかどうか安全のためにチェックとかしてるんです。それなのに家に帰らず真っ直ぐに、この時間に誰も行かない門の前に行くのはマズいですよ」

「なるほど」

「ふむ、そういう事か」


 頷く二人。そうそうここでボロとか出しちゃったら今後の活動に響いちゃ―――って、あれ?

 あ! 違う違う! いや、今は避難経路とか重要だけど、僕はこの二人に―――


「それじゃあ、お家に帰ろう!」

「うむ、そうだな」


 急に大きな声でそんな事を言う二人にビックリした。


「ど、どうしたんですか急に大声で」

「それじゃあ、ビリは明日の家事当番ね!」

「よかろう!」

「あ、ちょっと!?」


 声の大きさも変わらずに発言し、急に駆け出す二人。

 もう、何がなんだか分からないけど、僕もとりあえず追いかける。

 追いかけるけど、早っ!?

 二人とも普通に早いんだけど!?


「ぬははは! グリム、どうした! ビリはグリムに決まるぞー!」


 振り向きながらユウさんが煽ってくる。

 いや、なんで煽ってきたの!?


「それでも元ゴールドランク帯冒険者パーティーにいた冒険者かー!」

「だからもう僕は冒険者じゃ無いんですって!」


 なんか凄い煽られたからとりあえず言ってみた。

 うん。言ったら、なんとなく自分の心にダメージ負った。

 そんなこんなで僕らは家に辿り着く。


「ふふん、これで明日はグリムが家事当番ね!」

「うむ、ビリであったしな」

「はぁ、はぁ、いや、そもそも、僕しか、家事して、ないじゃないですか」


 得意気に話してくるユウさんに息も絶え絶えで答える。

 てか、あんな速度で走ってよく息一つ切らさないなこの二人。

 それよりも―――


「ユウさん、なんでさっき―――」

「さ、グリム。早く家に入ろ入ろ」

「うむ、グリムよ。早く入ろうぞ」


 僕の言葉を遮って二人が家に入っていく。

 なんなんだろう、もう。

 よく分からない二人の行動に不快感を覚えつつ僕も家の中へ。


 バタリッ!


 入ると同時に凄い勢いでユウさんが玄関のドアを閉めた。

 普通にビックリした! 急に何!?


「ピゲオン、追ってきてる?」

「いや、撒いたか帰って行ったようだ。気配は無い」

「良かったぁ」


 窓から外を覗い答えるピゲオンさん。対して、ふうと一息つくユウさん。

 いきなりすぎて未だに事態が飲み込めないけども、……誰かがつけてきてたって事?

 恐ッ―――、だけど、落ち着け。

 相手は帰ったらしいし、とりあえずユウさんに誰がいたのか聞いてみよう。特徴とか。


「あの、ユウさん、誰かいたんですか?」

「いたよ。そして私のこの勘が逃げろってさ」

「ふむ、もしかしたら昨日から話題としている人攫い彼の者かもしれぬな」

「いや、あの子は人攫いじゃ無いと思う」

「む、そうなのか?」

「うん。彼女、私がここに来る前に他の場所で新人冒険者としてパーティー加入してたから、まあ、だから私の勘が逃げろって言ったんだよ」

「ふむ?」

「そうなんですか」


 なんか変な事をユウさんが言ってるけど、何かあるんだろうな。

 もしかして、ユウさんがかつていたパーティーの新メンバーとかかな?


 ……それなら、逃げるのは少し、いやユウさんのあの冒険者カードからしてなんか逃げるのは分かるような気もする。


「とりあえず、一休みしたら町の外に行こう」

「うむ」

「はい」


 そうして僕らはユウさんの目的のために監視の目をかいくぐり家を出て、なんて回りくどい事はせずに、ピゲオンさんの瞬間移動で門の一番高いところへ。

 一瞬で場面変わってちょっと怖いんだけども。

 というか、ふと思うけど、ピゲオンさんの転移魔法どうやってるんだろう?

 マントを勢いよく広げて僕達を包んだら移動してるし、普通こういうのってもっと時間をかけてやるものって聞くし。


「おー、凄い高い! なんか怪盗みたいだねグリム!」

「え? まあ、確かに」


 言われて見やる光景。それは本当に怪盗が人目のつかない高台にいるような景色で薄暗い町の中を動く兵士さん達が見え、反対を見れば月明かりに照らされた森が見渡せる。

 その森の辺りにも兵士がいて、巡回してるのが見える。


 本当に人員動員しているのを見て、嬉しい反面、これだけして見つからない人攫い。なんか色々考えちゃって、怒りが込み上げる。

 そもそも、人攫いなんてしてなんになるのか。


「ねえねえ、こんな時間に馬車が来たよ」

「え?」

「む?」


 その言葉を聞いてピゲオンさんと共に森の方を見やると、確かにこんな夜なのにもかかわらず一台の馬車が門の前にやって来ていた。

 それに兵士さんが対応しているのが見える。

 見るからに少しボロい馬車。なんか怪しい感じがする。


「うわ、あの馬車アレじゃん」


 怪しんでいたら隣のユウさんが凄く嫌そうな表情で馬車を見やった。

 というかこの感じ何か知ってるんだろうな。


「む? リーダー、あの馬車について何か知っておるのか?」

「あれ、王国の極秘任務に向かわせる時に使う馬車だよ。多分、乗ってるの王国騎士団の誰かだよ」


 王国騎士団。武と知識、勇を兼ね備えたという優秀な王様の兵の中でも更に先鋭を集めた最強の部隊って聞いた事がる。

 騎士団の兵士は一人であってもゴールドランクからオブシディアンクラスの冒険者と引けをとらないって言われてるくらいに強いらしい。

 そんな強い人がこの町に来るなんて。


 というか、ユウさん。なんであれがその極秘任務に使われる馬車だって知ってるんだろう?


「ほう、騎士団。いずれ我等が最大の障害となる敵か」

「そうだよ。多分、平民に変装してなりすましてるだろうから、だからしっかり顔を見て覚えておこう」


 身を乗り出さんばかりにガン見する二人。

 穴が開くように注視してるけど、そこまで見なくても良いと思う。

 でも、僕も気になるのは確か。もしかしたらこの人が人攫いも捕まえてくれるかもしれないし。


 そうして馬車のドアが開く。

 降りてきたのは―――


「私は王国騎士団第一部隊隊員ルールナだ! 今回は極秘任務としてこの町の監査に来た! 門を通して貰おう!」


 がっつりと王国騎士団の鎧を着た僕と同い年くらいの少女が降り立ち、大声で宣言した。

 というか、あれ? 変装とかは? というか、がっつり宣言しちゃってるけど良いのかな……。

 隣にいる二人の様子を見ると、うん、まあ、期待外れって感じの目してる。

 いや、うん。気持ちは分かるけどね。


 もうそこからは兵士達が町の中を駆け、領主を呼んでくる事態になってる。

 うん、まあ。当たり前っちゃ当たり前だよね。

 普通そうなるよね。騎士団の人来たんだもん。


「あの人、生真面目っぽそう」

「うむ。故に極秘任務の真の狙いを分かっておらぬような気がするな」


 二人はそう言って視線を外して、やれやれっていった感じの仕草をしている。

 まあ、気持ちは分かるけど、でも一生懸命な人なんだろうなって―――


 そう思って彼女の方、停まっている馬車の方に視線を向けると、その馬車にもう一人乗ってるのが見えた。

 帽子を被ってオーバーオールを着た少し年下くらいかなと思う少年の姿。


 そんな彼と、目が合った。―――様な気がした。

 いや、あそこからここは見えないと思うけど、だけど、なんだろう?

 視線が合った様に感じたのは……。


「副リーダーよ。行くぞ」

「え? あ、はい」


 とりあえず、気のせいだろうと言う事にして僕達はここに来た時のようにピゲオンさんの転移により家の中へと帰った。

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