第8話 なるほど

「ふむ、なるほど」

「ふーん」


 僕の説明を聞いて感心するピゲオンさんとユウさん。

 だけどなんで二人はおつまみのように茹でた薬草食べてるんですか。

 それ茹でた物だから栄養もそんなに無いと思うんですけど。というか、


「あの、せめてそのままじゃ無く塩とか、何か調味料かけて食べて下さいよ」

「塩ー? かけてもしょっぱいだけじゃん」

「うむ。それに塩は高価な物であろう」


 僕の言葉に不服そうに語る二人。

 塩かけてもしょっぱいだけって多分、いや明らかに分量間違えてるよね、それ。それに別に高級品でも無いし。

 ……はあ。


「ちょっと貸して下さい」

「ああー! 私の薬草!」


 僕が茹でた薬草を入れていたお皿を取るとユウさんが名残惜しそうに手を伸ばしてくる。

 けど、気にしない。気にしない。


「酷いよぉ。私が頑張って集めた薬草をー!」


 泣くユウさん。って、貴女一つも集めてないですよね?


「グリム、いや、副リーダー! そうであるぞ。リーダーは一切集めてないとはいえ、これは部下である我が集めた物。つまり、上司であるリーダーが集めたも同然の物。それを許可無く奪うなどっ!」


 この人達は全く……。


「別に奪った訳ではありませんから。良いからちょっと待ってて下さい」


 二人にそう言って僕はそのままキッチンの台にそのお皿を置き、一つ口に放ってみる。

 ふんふん。成る程。これならあれで美味しくなるかも。

 そう考えて、早速ドレッシングを作る。って言っても何個かの調味料を混ぜるだけの簡単なやつだけども。

 そうして出来たドレッシングを茹でた薬草にかけて、程良く混ぜ合わせる。

 ふんふん、匂いは良い感じ。で、味は。


「んん、良い感じ」


 美味しく出来た様に感じる。

 って言っても流石に店に出せる物では無いかなぁ。

 でも茹でた薬草ただこれを食べるよりは全然良くなったと思う。


「はい。どうぞ」


 それを二人の前に置くと、ピゲオンさんに宥められていたユウさんがぴょんと飛びついた。


「美味しい! 何これ!」

「ふむ、これはなかなか」


 飛びついて感動しているユウさんの横からピゲオンさんも一つつまんでウンウンと頷いている。

 そういう反応されるとなんというか嬉しくなるね。


「グリム、おかわり!」

「いや、無いですよ」

「えー!? なんでー!?」


 いや、なんでって。


「そりゃあ、摘んできたの全部使った物ですし」

「むむぅ、じゃあもう一回取りに行こう!」


 えっ、それ本気で言ってる??


「ふむ、それもまた手であるな。だが、茹でた薬草ならば町の錬金術師の店とかから貰ってくれば良かろう」

「あ、そっか! じゃあ、グリム。錬金屋に行こう!」


 元気に提案するユウさん。だけど、錬金屋か。


「この町に錬金屋は無いですよ」

「え?」

「無いだと?」


 固まる二人。でも、まあ分かる。

 僕もこの町に来た時に同じ様な反応しちゃったから。でも、簡単な薬とかなら冒険者時代の知識が役に立ってくれたからとりあえずは大丈夫だけど。


「それじゃあ、もうこの薬草料理食べられないの!?」


 そこ!?


「そう気を落とすなリーダー。しかし、この様に大きな町であるのに無いというのは、やはりいささか臭うな」

「うーん。そうだよね。普通は錬金屋が無いと色々困るからあるはずだもんね。王都の錬金学校の在校生から領主が卒業後に雇うって契約したって話は王都だと良く聞くくらいだし」


 そう言って考える二人。

 まあ、それはそうだけど。


「というかこの町。冒険者ギルド無いのも不思議なんだよね。たまに変な冒険者はいるけど、それは一部だし。普通は依頼とかあれば兵士をかなくても小さな事件とかを解決してくれて王都でも結構必要不可欠な職業なのに」

「うーん、まあ確かにそうですね」


 言われてみれば、確かに。

 冒険者とは言っても、別に冒険だけじゃ無くて町に出たこそ泥の捕縛とか、山賊団退治したりとかもやったりするし。

 それに、兵士の人達との護衛任務とかもあったし。


「ところでグリム」

「あ、はい。どうしました?」

「あれ、凄い事になってるけど大丈夫なの?」

「え?」


 ユウさんに指さされて見た先。

 そこでは、ぐつぐつと湯気、ではなく黒い煙を上げている鍋が。

 って、しまった!


 慌てて鍋を避難させるも、時既に遅し。

 鍋の中には所々黒く焦げた緑色のねとっとした物体が生成されている。

 ……ああ、やっちゃったぁ。


「グリム、それ何?」

「さっき言った薬草から抽出した液体に蜂蜜を入れちゃったものですよ」

「ふっ、まあ、そう気を落とすな。誰にでも失敗はあるものだ」


 項垂れてる僕にピゲオンさんがそう言ってくれる。

 だけど、あー、こんな失敗。料理人としてやっちゃいけない失敗だよぉ。


「んー、そんなに不味くないよこれ」


 そんな声が聞こえて見やると、ユウさんが木のスプーンで鍋の中のものをすくって食べていた。

 って、


「何してるんですかユウさん!」

「ん? 美味しいのかなと思って」

「美味しいのかなって、そもそもそれ失敗したものですし」

「グリム、自分が失敗したと思っても実際はなんとなく成功してる事もあるんだよ。だから、勝手な決めつけ良くない!」


 ユウさんがビシッと言ってきた。

 うーん、まあ、そういう事もあることはあるけど……。


「フッ、良い事を言うでは無いかリーダー」

「でしょ。もっと私を褒め称えて良いんだよ! というか、褒め称えよ! 崇めよ! ほら、グリムも! ほらほら」


 凄くやらしい笑顔でそんな事を言ってくる。

 うーん……。


「そうですね。凄いですよユウさんは」

「ふっふっふ。とうとう認めたね。私は凄いんだって」


 彼女はそう言って得意気な表情に。正直、まあ、凄いんですけど。

 んー、まあ。


「それより、それこっちに渡して下さい。不味くは無いとは言え、焦げちゃってるモノですし」

「やだ。これは私のだよ」


 そう言って鍋を抱くユウさん。

 この人は……。


「まあ、副リーダーよ。大丈夫であろう。あれには薬草類と蜂蜜くらいしか入っておらんしな」

「まあ、そうですけど」

「もももめ、もももんも、もももう。もももおもっももうみ、みまもうまみみんまあい?」


 なんか言ってるけど、口に物入ってて分からない。

 というか、なんで頬張るんですか!


「ふむ、確かに。我の格好はちと目立つかもしれぬな」


 ……なんで伝わってるんだろう。


「ぷはぁ。そういうことで、ピゲオンの服買いに行かない?」


 そういうことって、どういう事?

 でも確かにピゲオンさんの服装はマントに黒い服装で目立つっちゃあ、目立つかも。


「いや、リーダーよ。大丈夫だ。この服は我が意思一つで姿を変える優れ物。故に我が指を鳴らせば―――」


 そう言い指を弾いたピゲオンさん。

 すると身につけてる服が光り出して―――


「―――どうだ?」


 一瞬にしてピゲオンさんの服装は黒いマントの服から一変。

 どういう事かピエロの人が着る服装に。


 ……なんか。もうちょっと凄いかっこいい格好になるとか、普通の服装になると思ってたから、うーん。


「凄い!」

「であろう!」

「他のは!? 他のは!?」

「これなんてどうであろうか?」

「凄い! 黒い鎧だ! かっこいい!」

「ふふ、それだけは無いぞ! これが最強アルティメット形態―――!!」


 ユウさんに乗せられて、ピゲオンさんが指を鳴らす。

 その瞬間、服が大きく輝いて―――


 僕とユウさんは見上げていた。

 その最強な服装を。それは巨大で色々な装飾が付いた服になっていて、まるで広場の噴水の如し大きさと華やかさを醸しだし、ピゲオンさんの頭は天空を目指すが如く家の天井を突き破っていた。

 その穴の隙間から得意気に見てくるピゲオンさん。


 ……はは。


 ―――なんで僕の家を壊すんですか!

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