第7話 アジトにて

「ほう。ここがアジトか」

「そうここが私達、反抗軍のアジトだよ」


 家に入るなり、ピゲオンさんが辺りを見渡して呟いた事にユウさんが答える。

 って、勝手にユウさんにアジトにされただけなんだけども。


「フッ。組織のために自らの家をアジトとして提供するとは、素晴らしき覚悟」

「え、いや、その」


 覚悟なんて無いんだけど。成り行きでやると言っちゃっただけだし。


「フッ。謙遜するでない。自らの住処すみかをアジトとして提供するなど並大抵の覚悟では出来ぬ事。もっと胸を張るが良い」

「そうそう。グリムはもっと胸を張るが良い!」


 凄い褒められてるけど。

 ……なんだろう。凄く複雑な気分。


「それじゃあ、これからの作戦会議を始めよう」

「うむ」


 複雑な気持ちの僕の事は気にせず、普段通りといった様子で席に着くユウさんとピゲオンさん二人


「グリムも早く! 座って座って!」

「うむ。副リーダーよ早く座るが良い」


 あの、ここ僕の家なんですけど。

 と言いたいところだけど、後々なんか色々言われそうだから大人しく座っておこう。


「よし、それじゃあレジスタンス緊急会議を始める!」


 勢いよく発言し、ビシリと指を突き立てるユウさん。

 ……。

 まあ、とりあえず頷いておこう。


「それじゃあ、まず最初の目標としては、この町の領主を倒して。そのついでに人攫いを倒して、薬草料理研究をしよう!」


 いや、待て待て待て待て。

 何一気にやろうとしてるのこの人!


「ユウさん」

「どうした副リーダー!」

「そんな一遍にやらないで、一つずつやっていきましょう。まずは人攫いから排除しないといけないですよね? 僕達の名前を広めるって言うなら」

「そうだけどさ、人攫い探すの大変そうだし、どこに居るのか分かりやすい領主狙った方が早くない?」


 それは、そうかもしれないけれども。


「人攫いを捕まえれば、領主様から好感と信頼が貰えて、傍に近づける可能性がグッと高まるじゃないですか。それに、強襲するってなれば兵士の人達と戦わなくちゃいけないですし、その間に逃げられる可能性もありますし」

「なるほど。確かに!」

「ふむ、副リーダー。なかなか頭が回るな。仲間であるというのに、恐ろしい程だ」


 恐ろしいと言いながら笑みを浮かべるピゲオンさんの方が怖いと思うけど。

 というか、僕は攫われた人達を助けたいだけで、ユウさんをどうにかして反抗軍として行動するのを飽きさせて、早く領主様に迷惑をかけない方向に持って行かないといけないし。

 だから適当に言っただけなんだけども……。


「それじゃあ当面は人攫い探しだね」

「うむ、そうであるな。ところで副リーダーよ」

「どうしました?」

「先程からの話を聞き、少し疑問に思った事なのだが」


 な、なんだろう?


「何故、事件の犯人の手がかりが見つかっておらぬのに人攫いなどと言えるのであろうか? 魔物に連れ攫われた可能性もあると思うが」

「あー、その事ですか」


 良かった。勘づかれたかと思った。


「犯人が攫った現場を見た人がいたそうで、それでですね」

「ほう。して、その人物は?」

「その人、人攫いに刺されていたらしくて発見された時には虫の息で、その事を話した後に亡くなったって聞きました。その攫われたのがその人の娘さんだったというのも聞きました」

「なるほどのぅ。それは何年前とかか?」

「どうなんでしょう? 僕がこの町に来て食事処で働いた時に店長から聞いた話ですけど。ですけど、それもあって人攫いが増えたために住民が移動したって聞いたので数年前とかですかね?」

「むー? 住民が攫われて沢山移動したっていう程の事件なら隣町とかで聞いてもおかしくないし、王都まで話が来てると思うんだけど? じゃないと注意喚起とか出来ないし」

「え?」


 言われてみればそうだ。僕もこの町に来てその話を聞く時までその事件の事知らなかった。

 町という程にいた人がいなくなっているのに、この話が周りに広がってないのはおかしい気がする。


「これは凄く匂うな。甘美なる薔薇の香りという程に」


 凄く悪い笑顔でピゲオンさんがそう発言する。

 ピゲオンさんが何を考えてるのか分からないけど、確かにこの町から来たって人に出会った事無い気がする。


「あ、なら。ここの領主に領地経営報告不行の罪を突きつけられるんじゃない?」


 こんな時にユウさんはなんて事を思いついてるのか。

 というかその罪聞いた事ないけど、なんだろう?


「ほう、それはどういった罪なのだ?」

「領地内での起こった損害とかの事の報告を国に送るのを怠るっていった罪だよ。まあ、これは領地運営で領主が不正とか国家叛逆、領民の事を自分の物として扱わない様に定められた節があるけど。これを破ると爵位剥奪とか普通にあるからねー」


 な、なんかユウさんの口から、彼女からは想像出来ない単語が。


「ほう」

「ただねー、本来、書類に不備がないか調査の為の王国騎士団が極秘に派遣されるんだけど、ここら辺で全く見かけないんだよねー」

「ふむ、そうなのか?」

「うん」


 ピゲオンさんの言葉に元気に頷くユウさん。

 というか、ユウさん。なんか王国の裏事情に詳しくない……?

 え? なんか別の意味で怖いんだけど。


「ククク。これは、いよいよ臭いな」

「でしょー。これ、絶対領主怪しいよ」

「それは無いと思いますよ?」


 ふと、出てしまった言葉に二人が僕の方を向く。


「え? なんで?」

「副リーダーよ。何故そう思うのだ?」


 案の定、僕に対して二人が問いかけてくる。

 まあ、でも、そりゃあそうでしょう。だって、


「もし領主様が犯人でしたら、人攫いの犯人を捕まえるために兵士増員なんてしないでしょうし、実質それで人攫いの件数は減って今では人攫いが無いそうですし。それに領主様は悪徳領主って感じでは無いですし、攫われた家族に補填や励ましをしている方ですから」

「ふむ、なるほどのぅ」

「そっかー」


 納得してくれたみたい。

 これで、当分は領主様には迷惑をかけないで済む。

 それに早く人攫いを捕まえて皆の不安の軽減とかしたいし、


「むむー、折角良い推理だと思ったんだけどなぁ」

「うむ、そうであるな」

「うー、考えたらお腹空いたー。というかお昼食べてないー。グリムぅーご飯ー」


 本当に自由だなこの人は。

 でも、人攫い確保を頑張ろうってしてくれてるのはなんか嬉しい。

 テーブルに突っ伏したユウさんに返事をして、台所へと向かう。


 さて、今日は何を作りましょうかね。


「グリムー! 忘れてるよー!」


 さっきまでテーブルに突っ伏してたのに、すんごい勢いで台所に突入してくるユウさんにびびった。

 な、なんだろう?


「どうしました?」

「はい。薬草!」

「え?」


 渡されたのはピゲオンさんが採ってきた薬草。

 ……。


「ほら、薬草料理研究もしないとね!」


 ……え?


「一応聞きますけど、本気ですか?」

「勿論! 美味しく薬草料理が食べれたら色々良いでしょ! だから、よろしくー!」


 よろしくって簡単に言われても……。

 うーん、ど、どうしよう。

 一応、錬金術に関しては小さい頃にかっこいいって思って囓った知識があるから、薬草の効果を落としたり落とさないで使用したりの方法は分かるけど……。

 そもそも効果を落とさないで料理に使用するってなると、苦みは仕方無いって思うしか無いし……。

 あ、でも、ポーションってそこまで苦くないよね。


 ―――あれは何でだろう?


 多分そこにヒントがあると思うけど、うーん、全く思いつかない。

 とりあえず薬草を同種同士で煮沸させておこう。

 ポーションに使うのは薬草の出汁だから、それを使えば良いのかな?

 ……そういえば、出汁を取った薬草って捨てるみたいだけど、その薬草ってどんな味するんだろう?

 食べた事無いけど、やっぱり苦いのかな?

 というか、薬草自体に効能残ってたりするんだろうか?


 うーん、気になるけどそれを証明する方法って無いしなぁ。

 そもそも薬草料理も薬草が体に良いからって出来た物だし。あ、でも、風邪の時とかに良いし効果はあるか。


 そんなこんなで考えているうちに、薬草を入れたお湯が濃い緑色になる。

 そろそろ薬草を取り出して、あ、この薬草の味はどうだろう?

 苦味が残ってたらあれだけど、無いなら何か料理に使えるかもしれない。


 そう思い一つ食べてみる。

 ……。

 ……苦っ―――くはない。

 けど、んー、そこまで美味しい物じゃない。

 少し葉っぱ特有の青臭さがするだけで味しないし。


 まあ、でもこれなら味付け次第でどうにかなるだろうから、とりあえず、料理の量のかさ増し用に入れておこうかな。

 何かしらの効能は少しでもあるかもしれないし。


「それで、だ」


 鍋に広がる緑色のお湯に視線を移す。

 凄く薬草の原液。ポーションはここから色々入れて体への栄養吸収率を高めるものにするらしいし。

 その時に入れる物に苦味を消す成分が?

 いや、そもそも熱で苦味が消えてしまってる可能性とか無いかな?

 そう思い、スプーンで原液を一口。


「っ――――!」


 にっっっっっがい――――――!

 冗談抜きで凄く苦いっ!

 普通に舌痺れるくらいに苦い。

 もう、ジンジンする。

 やっぱり、入れる物で苦味を消してるのか。

 でも、何で苦味を消してるんだろう?

 確か他に入れる物って、オニヤンローズの根っこ、塩、クラフィードの葉、どれも苦味を消す物には思えない。

 塩で甘みを増すっていうのは聞いた事あるけど、それで苦味が消えるとは到底思えないし……。


 とりあえず、舌の上の苦味をどうにかしないと味見どころじゃない。水を飲んで―――。


 そう思ってコップを手にとったら、肘が蜂蜜壺に当たって。

 蜂蜜は薬草の出汁原液にドボンしてしまった。


 ど、どうしようこれ……。


 とりあえず壺を取り出して、

 あ、中身全部入っちゃってる。

 

 でも、甘い匂いはするからそれなりに美味しい可能性はあると思うけど。

 いやぁ、無いかなぁ。


「ねえ、グリムー」

「うわ!?」


 び、びびび、ビックリした!


「お腹空いたぁ~。何か無いー?」


 問いかけてくるユウさん。

 な、何かって言われても……。


「まだ作り始めですし、何も無いですよ」

「えー」


 えーって。


「フッ、ユウ殿。いや、ユウよ。ゆっくりと待つのだ。ふむ、これなかなか美味いな」


 そんな声が聞こえて振り向いたらピゲオンさんが茹でた薬草を置いていたテーブルの傍の椅子に腰掛け茹でた薬草それを食べてる。

 てか、それが美味しいって……。


「あ、ずるーい!」

「ほれ」


 ピゲオンさんが手渡した薬草をご機嫌に口に運ぶユウさん。


「はむっ! ……んー?」

「どうした?」

「んー、萎びた採れたての生野菜の味みたい」


 それ、どんな味?


「フッ、言い得て妙だな」

「でしょー」


 えっ? 何が?


「ところで、グリム殿。いや、グリムよ。今どの様な状況だ」

「え? あっ」


 どうしよう。どう説明しよう。

 折角採ってきてくれた薬草の大半を台無しにしましたなんて言えないし。

 でも、―――誤魔化して後々面倒な事になるよりも、正直に話した方が良いか。


「すみません。実は蜂蜜を間違って落としちゃって蜂蜜が全部原液の中に入っちゃたんです」

「ふむ?」

「はえ?」


 僕の言葉に不思議そうな顔をする二人。


「何故お主は薬草の薬液などとっておるのだ? 薬草をそのまま使うと思っておったのだが」

「そうだよ。ポーションじゃお腹は膨れないよ?」

「あー、それはですね―――」

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