第6話 復活魔王と不穏な町
「まっへ、まははへへう!」
男性が声を張り上げたのに対して、ユウさんがそう発言する。
……なんて言ってるのか全く分からない。
というか、この人はなんで食べ物を頬張るのだろうか。
「む、そうだな。食べている最中に動くというのは良くないな」
え? 伝わってるの?
「へほ、はははまっへ!」
「うむ、待つとしよう。ゆっくり味わうが良い」
いや、え? なんで分かるの?
それと、ゆっくり味わえって、彼女もう既にアマの実のほとんどを頬張ってるんですけども。
「ふう、美味しかったぁ~」
ユウさんが頬張った物を飲み込むの待つ事数分。満足し笑顔でそう呟く。
その様子を見て思った訳じゃ無いけど、アマの実なんてそうそう見つかる物でも、ましてや出回る物でも無いし、出回ったとしても高いし、普通に食べれたのは、少し羨ましいなとは思う。
「あ、そうだ。はいグリム。これ」
そう思っていたらユウさんから何か手渡された。
何だろう?
渡された物を見ると親指程の茶黒い物。
そこには白い果肉と繊維質の物も付着している。
アマの実の種。
「えーと、何ですか?」
「種」
いや、それは分かるけど。
「何でこれを渡したんですか?」
「ん? だって、それ植えたらさ、アマの実が育つ木が生えて、いつでも食べられる様になるじゃん!」
いや、じゃんって、アマの実の栽培って、未だに誰も成功してない事なんだよなぁ。
ただ種を植えればそこに木が生えるって訳でも無いし。
それに、もしできたとしても、……できたとしたら美味しいアマの実の料理が作れる可能性が。
「だから、これを副リーダーのグリムに育ててもらいます!」
「えっ?」
いや、え? 何言ってるのこの人。
「あの、ユウさん?」
「ん? どした」
「アマの実の栽培って未だに誰も出来てない事なんですけど」
「む? そうなのか? ユウ殿が自信満々に言う物であるから、てっきり今の時代ならば育成方法が確立しているのかと思ったのだが」
男性が意外そうな表情で聞いてくるけど、今も何も―――
ん? あれ? なんだろう? 何か彼の言葉に違和感が。
「でも、出来たら毎日美味しいアマの実が食べれるんだよ!」
凄く綺麗な瞳でそんな事を訴えてるけども、毎日は無いでしょ。
アマの木を見つける事も希なのに、そこに木の実が生ってるのもたまにしか無いんだし。
んー、でも……
「まあ、やってみますよ」
成功するとは思えないけど、失敗したところで何か失う訳じゃ無いし。
やれるだけやってみよう。
「ふっ、挑戦を恐れぬその気前、流石は国に反抗する組織の副リーダーだ」
なんか褒められたんだけど、反抗軍と木の実育てるのが釣り合うかな?
って、違う違う。僕は何かする前にユウさんに反抗軍を辞めさせるのが目的だ!
「よーし、それじゃあ、帰ろう!」
意気揚々と発言する彼女の発言で僕らは森から帰る事に。
そういえばこの森、魔物が出るから危ないって言われてたけど全然会わなかったなぁ。
まあ、会わずに帰れるのが一番良いんだけどね。
何事も無く歩いて僕らは森を抜け、道に出る。
そこからは町の門が遠くに見える程。
「ほう、この地に町か」
なんかこの男の人がボソッと言ったんだけど。
「あ、そういえば貴方名前なんて言うの?」
「ああ、すまぬ。紹介が遅れた。我が名はピゲオン。かつて世界を混沌と化した魔王だ」
へ?
「凄ーい!」
いや、ユウさん目を輝かせて凄いじゃ無くて!
ま、まままま、魔お―――。
「―――と言えばかっこいいであろう?」
えっ……。
「うん、凄く格好良かったよ! あ! じゃあじゃあ、あそこにいたのは?」
「ふっ、無論。封印されていたのだ。だが、その封印を貴殿等が破壊した故に復活したのだ!」
「完璧っ!」
「そうであろうそうであろう!」
そう言って満足げに笑う二人。
全くもう。
でも、よくよく考えれば魔王なら初手で完全にやられてただろうし、そう考えたら普通に信じた自分が恥ずかしい。
だけど、何だろう。この拭えない感じ……。
「時にリーダーよ。アジトはどこにあるのだ?」
「え? あの町の中だよ」
「ほう。そうなのか」
「うん。グリムの家」
「ほう、副リーダーの家か」
間違いじゃ無いんだけど、なんかそう言われるのやだなぁ。
「とりあえず、グリムは薬草料理研究とアマの実栽培で忙しいから早く帰ろう!」
その二つは勝手にユウさんが決めた事だよね?
って、言いたいけど、僕もやるって言っちゃったしな。
「まあ、そうですね。早く帰りましょう」
「ふむ、であれば二人ともそのまま立っているが良い!」
ピゲオンさんがそう言う。
何だろう?
瞬間、彼が背中のマントで僕らを覆った。
一瞬、魔力を感じ、マントが目の前から消えると、そこは門の前。
え? なんで? 何が起き―――。
あ、もしかして。
「うおっ!? お前等いつの間に!?」
そんな声が聞こえて、見ればグレンさんが驚いた様子でこちらを見ていた。
そりゃあいきなりさっきまで居なかった人が現れたらそんな反応になるよね。
普通に。
「やっほー! 門番さん帰って来たよー!」
と、ユウさんが普段通りな感じでグレンさんに声をかける。
「あ、ああ。お帰り。無事に行ってこれたみたいだな。で、嬢ちゃん。この人は誰だ?」
ピゲオンさんの方を一瞬見て、ユウさんに問いかけるグレンさん。
「ああ、すまぬ。門番の者よ。我が名はピゲオン。森の中でこの者達と出会い意気投合したが故に今からこの副リー―――、グリムの家に向かうところであったのだ」
「は、はあ。……ちょっとグリム」
呼ばれたために傍に行くと、ガッと肩を掴まれ門の端の方へ連れて行かれる。
「なあ、グリム。意気投合って、というか誰だあれ。あんなのが森にいたなんて今まで聞いた事無いんだが」
ひそひそ話で話しかけられる。
まあ、
「まあ、そうですよね。ですけど、悪い人では無いと思います」
「悪い人じゃないと思うって、それで何かあったらどうするんだよ」
「それはそうですけど」
ただ、なんとなくそんな気がするってだけなんだけども。
「何。心配するな。我は皆に迷惑をかけるようなことはせぬ」
「そうだそうだ」
「そうだそうだって言ってもよ。普通にそんな話信じられるか?」
「まあ、普通は突然会った者を大丈夫な者だと信じるのは無理だが、フッ、考えてみたが大丈夫な事を証明するのも無理だな」
「そうだそうだ」
「だろ―――って! お前等が聞いたら意味ねぇだろ! いや、嬢ちゃんは意味があるか」
「そうだそうだ!」
グレンさんの言葉に手を上げて抗議の姿勢をとるユウさん。
というかさっきからそうだそうだしか言ってないけど。
てか、いつの間に二人とも会話に入ってたの!?
「はあ、まあ、良いか。グリム」
「あ、はい」
「なんかあったら、お前の責任って事で」
「え?」
「んじゃ、通って良いぞ」
「うむ、恩に着る」
「はーい」
お前の責任って、……え?
「グリムー、早くー。薬草パーティーするんでしょー!」
「うむ、早く来るが良い! 薬草パーティーをするのであろう!」
「ほら呼んでるぞ。お前の薬草パーティーが」
固まっていた僕はグレンさんに半ば押し込まれる形で門の内側。町の入り口へ入る。
そんな僕に二人が早くと急かしてくる。
はあ、まあ、この二人が何かしでかさない様にして、余計な事をしないのを祈るばかりだ。
「ククク……、愚かな門番だ。我々が本当に薬草パーティーをすると思い、いとも容易く町の中に入れるなど」
「ククク、本当にね」
「これであれば容易くこの町を落とす事も可能であろうな」
「ククク、そして私達の物語はここから始まるのだ」
そんな不穏な感じの笑い方をしながら会話し、ついてくる二人。
なんか凄く先が思いやられる。
でも、ここは僕が頑張らなくちゃ。町の平和は僕が守らないと。
特にピゲオンさんが暴れでもしたら大変な事になりそうだし。
「しかし、この町、あまりにも人通りが無いな。寂れておったとしてももう少し人通りがあっても良いと思うのだが」
「人攫いのせいですよ」
「む? 人攫いとな?」
「そんなのが居るの?」
「ええ、僕が来る前に結構被害が出て、兵士の見回りも増やして件数と頻度は減ったらしいです。それで、今のところは被害はないですけど犯人も捕まってないらしくて」
「それは、許せないね」
僕の話を聞いて真面目な表情でユウさんが意外にもそう言う。
反抗軍立ち上げたっていうのにこういう犯罪は許せないって気持ちがあるんだって少し感心する。
あ。もしかして、町の人には被害を出さないで活動を―――
「私達以上の悪人がいるなんて、
いや、そっちかい!
「うむ、リーダーの言うとおりだな。我等を差し置いて名声を得るなど」
いやいや、僕達まず何もしてないから差し置かれるも何も……。
てか、反政府組織だけど別に悪人になる必要は無いんじゃ。
「こうなったら―――グリム、ピゲオン。活動しながら、その人攫いもとっちめてやろう!」
「うむ!」
「え?」
「グリム、そこは賛同しないと」
「そうだぞ副リーダー殿。賛同しなければ、チーム一丸になれぬぞ?」
「いや、えーと、とっちめるって言っても兵士増員してるのにも関わらず未だに捕まってない相手ですよ? 僕らじゃどうにも―――」
「だからどうしたー!」
えぇ? だからどうしたって……。
「うむ、そうである。我等が一丸となれば不可能など無いであろう!」
「そうそう!」
どこから来るのその自信。というか、出会ったばかりだよね僕ら。
「それで町が人攫いから解き放たれて攫われた人が助かれば、次の刺客である私達の名声を広げれる人材が増えるでしょ」
―――っ!
彼女の言葉に何か曇っていた思考が晴れた様な気がした。
いや、分かってる。
けど、それで攫われた人とか、それに関わる人達を、そしてこの町を助けられるのなら―――
「そう、ですね。人攫いを見つけましょう」
それでこの町に平和が訪れれば皆が不安も無く暮らせるだろうし、僕らの活動は僕が上手く切り盛りすれば良いだけだ。
「そうそう。見つけてとっちめてやろう!」
「フッ、ではまず、
「フッ、そうしよう」
なんかユウさんの反応が軽くて不安あるけど、でも、彼女は別に町を平和にしたい訳じゃ無いから仕方無いか。
「それじゃあ、早く家に帰りましょう」
「うむ!」
「そして、薬草パーティーだー!」
ユウさん、そこは忘れて欲しいんですけども。
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