第5話 薬草採取
「これはー……、むぅ。グリムー、これは?」
森の中。聞こえてきたユウさんの言葉にそちらへと向かう。
そんな彼女の手には艶やかで丸みのある野草が握られている。
薬草として使われる様なものとは違う形のものだ。というか、
「ユウさん。それ毒草ですよ」
「ぬえ!?」
変な声をあげて手に持った野草を落とすユウさん。
そして慌てて僕のズボンの裾で手を拭く彼女。
……。
「何してるんですか」
「だって、だって、毒でしょ!? 毒は危ないんだよ!?」
それを人のズボンに擦りつけるって。
というか、
「ユウさん、茎の部分を持って抜いたんですよね?」
「え? あー、そうだね」
「毒があるのは葉の先から中腹にかけての部分ですから茎は大丈夫ですよ」
「あ、そうなの? なーんだじゃあ大丈夫じゃん」
そう言って胸を撫で下ろすユウさん。
というか、ユウさんが拾った草は猛毒って程じゃ無いんだけどね。
食べると腹痛になるくらいってだけで。
「それじゃあ、また薬草採取再開だよ!」
「はいはい」
「はいは一回!」
僕に注意して、また張り切って薬草を集めるユウさん。
本当、彼女は元気だ。
そう思い空を見上げると、太陽は森に入った最初の位置から動き真上近くに来ている。
もうかれこれ二時間程経ったくらいだろうか。
二時間も経って、薬草は今のところ二人合わせて十二本くらいだ。
まあ、そりゃあ仕方無いだろう。薬草として言われ、使われる植物の多くは日の光がよく当たる場所に生える。
なのに珍しい薬草のが良いって聞かないんだもの。
でも、そんな薬草が簡単に手に入る訳も無く、とりあえず何も手に入らなかった時のために森の中で普通の薬草を僕が十二本摘んでいる訳だけども。
それにしても、正直彼女に薬草とかの知識があるのか怪しい。というか、無い様な気がする。
だって、普通に毒草ばっかり抜いてくるんだもの。
というか、これ、本当に薬草を使った料理作らなきゃいけないのかな……?
いや、作らなきゃいけないんだろうなぁ……。
薬草使った料理は無い訳じゃ無いけど、あんまり美味しくないんだよなぁ。
薬草系は大抵苦みが強くて、料理にしても大人なら我慢して食べれるくらいだけど、子供には無理だし。
でも、健康には良いんだよね。
折角、健康に良いのに強い苦みのせいで美味しく食べられないのは勿体ない。
どうにか美味しく食べれれば良いんだけど……。
「ねえねえ、グリムー」
「あ、はい!?」
急に袖を引かれ、ビックリした。
「あれ何だろう?」
「あれ?」
ユウさんが指さす先。そこは、少し大きな岩の上。そこには薄紫色の野草が生えている。
あれって―――……。
「ネクウ草じゃないですか!」
「ネクウ草?」
「薬草の一種で、珍しい種類のものだったはずです」
「そーなの!? やったー! じゃあ、採ってくるねー!」
「あ、ちょっと!」
ユウさん、走って行っちゃったけど、あの岩どうやって登る気……。
「とうっ!」
そんなかけ声と共に跳躍するユウさん。
見た感じ魔法で身体強化した様には見えないけど、文字通り一っ飛びで岩の上へ。
普通の人だったら明らかに届かなそうな岩の上なのに。
そうして岩の上に乗ったユウさんは薬草の抜き方として教えた様に草の根本付近を握って、
「せーのっ!」
思いっきり引っ張る。
けど、草は全く抜ける様子が無い。
そりゃそうだ。あの草は根は深くまで伸び、洞窟みたいな空洞のある場所まで根を生やす変わった草。
故に探す際には葉を見つけるよりは、洞窟内から出ている根を見つけて、その場所の位置へ洞窟を抜けて向かうというのが一般的だ。
「ユウさん。その薬草は根元をナイフとかで切って集めるんですよ」
「あ、そうなの? じゃあ、グリム。ナイフ貸してー」
「あ、すみません。今ナイフはありませんから、腰の剣で切ったりとか―――」
あ、そういえば剣士からしたら剣は魔物や敵を倒すものだからそれでそれ以外の事をするのは信念に欠けるってパーティーリーダーが言ってたっけ。
それなら今、僕、かなり失礼な事を―――……。
「あー、これね、これ錆びてて抜けないの」
「え?」
錆びてて抜けない……?
何でそんな剣下げてるのこの人。
「あ、そうか。風魔法で切れば良いんだ!」
ポンッと手を叩くユウさん。
あー、確かに。魔法で切るっていうのは盲点だ。
「ウィンドウカッター!」
そう言ってユウさんの手から放たれる魔法。
確か師匠から教わった話だと、ウィンドウカッターは無数の風の刃で相手を切り刻む―――
……無数の刃? あっ。
ふと嫌な予感が過ぎったけれど、その予感は当たってしまう。
ユウさんが放った風の刃はネクウ草の根元、どころか全てを切り刻む。それどころか、下の岩をも破壊する。
岩の崩落により、立ちこめる砂埃。と、静寂。
なんて威力の魔法なんだろう。本当にこれなら一人でなんとでもなりそうな……。
……って!
「ユウさん、大丈夫ですか!?」
慌てて晴れてきている砂埃の中に向かうと、そこには崩れた岩の上でぺたんと座り込むユウさんの姿。
「ゆ、ユウさん?」
「グリムぅ……」
涙目で僕の事を見てくる彼女。
昨日、床が抜けてもこんな表情しなかったのに。
でも、流石に町と自然の中じゃ環境が違うし―――
「グリムー、今日の夕飯がぁー!」
そっちかぁーい。
「誰だ。我が眠りを妨げた者は」
泣くユウさんを宥めようとした直後、恐ろしく、闇の底から聞こえてくる様な声が不意に聞こえビクリと反応してしまう。
けれど、どこにも人影一つ無く、気配も無い。
「我が上におるのか」
その声が聞こえて咄嗟にユウさんの手を掴む。
瞬間、凄まじい音を上げてユウさんが座り込んでいた瓦礫が吹き飛ぶ。
か、間一髪でその場所からユウさんを退けれて良かった。
「貴様等か」
胸を撫で下ろしかけた僕の目に映る相手。
それは、この森という場所にいるには似つかわしくない様な立派な服装の男性。
その男性は凄まじい魔力を放ちながら威圧の籠もった目でこちらを見てくる。
明らかに逃げられないと僕の勘が言っている。
「この様な場所に来て我を目覚めさせるとは貴様等、我に挑む勇者か。あるいは、愚者か」
身構える僕達に対して男は両手に魔力を集め始める。
明らかに尋常では無い程の魔力が彼の手に集まっていく。
あんな量の魔力から放たれる魔法に僕はどこまで対応出来る?
「いや、私達料理研究のために薬草集めに来ただけなんだけど」
そう考えていたら隣からそんな気の抜ける様な声が。
男は両手に魔力を集めるのをやめてユウさんに向く。
「む? 薬草採取だと? この様な場所にか?」
「勿論。でも、普通の薬草じゃ面白くないから珍しい薬草を探しに来たんだよ」
いつも通りな様子で男性に発言するユウさんだけど、事実だけど、相手が信じるとは思えないんだけど……。
「ふむ、そうであったか。つまり、我を倒しに来たという訳では無いと」
「そうだよ」
「そうかそうか。すまぬな。久方ぶりに強き者が来たと感じたが故に気分が高ぶってしまった。許されよ」
信じた! この人、信じたよ!
両手に集まってた魔力も霧散させてるし!
「時に何故薬草料理を? 貴様等程の力があれば難しいものではあるが治癒魔法を覚えれるであろうに。それにどこかが悪い様には見えぬが?」
「ちっちっち、分かってないなぁ」
「何?」
「薬草料理はまずいけど、それが美味しく食べれたらいざ体が悪くなった時でもあのまずい物を食べなくて済む。これって重要でしょう?」
「うむ、確かに」
「そういう訳で採りに来たんだよ」
「なるほど」
いや、そんな状態になったら普通は薬草料理じゃなくポーションとか使うでしょ。
って、言いたいけど、言いたいけどここは我慢。
下手をうって相手を刺激しちゃいけないし。
「ん? 納得はしたものの、であれば、錬金術師等とかが作るポーション等で良いのではないか?」
あ、僕が思ってる事を。
「貴方はポーションでお腹が膨れるの?」
「む?」
「貴方は薬草料理が食べれないなら、ポーションを飲めと言うつもりか!」
「っ!!」
ユウさんむちゃくちゃ言ってるって思ったけど、なんで衝撃受けてるのこの人。
「なんと。我は、そんな酷い事を言っておったのか!」
「そうだよ!」
いや、そうじゃないよ!
至ってまともな思考だったよ!
「この無礼なる我の償い。―――そうだ。我も薬草探しを手伝おう」
はえ?
「貴方に私でも難しい薬草の種類が分かるの?」
「ああ、心配ない。遠き記憶だがこれでも冒険者をしておった時期もある。その頃はよく薬草採取に精を出しておったわ」
自信満々に言い放つ彼の言葉に後退しそうになるも、なんとか踏みとどまり、口角を引きつらせるユウさん。
「ふ、ふふっ、な、ならば、その腕前、見せてもらおうか!」
「ふっ、任せてもらおうか! しばし待たれよ」
彼は背にあるマントを翻し、黒い粒子を残して僕達の目の前から消えた。
一瞬だからしっかり確認はしてないけど、転移魔法みたいなのを使った様だ。
「ま、まあ、薬草の見分けがついても珍しい物じゃ無きゃ私は認めないけどね!」
何と張り合ってるんだろうこの人。
そうして待つ事、五分程。
「待たせたな」
黒い粒子と共に現れる男性。
その手には花売りの少女が持っている様なバスケットがあり、薬草であろう物がぎっしりと摘まれている。
というか、これ。
「凄いですね。全部薬草じゃないですか」
「ふっ、無論」
「それに、結構珍しい薬草だらけですね」
「うむ、お主らがそれが良いと言っていたからな」
「ぐぬぬ!」
あたかも当然という振る舞いで話す彼の様子を見ながら唸るユウさん。
だから、そんな事で争おうとしなくても……。
てか、見ず知らずの人に挑もうとするって。
「お、そうだ。ついでに。ほれ、お主」
「ん?」
何かを思い出した様に何かを取りだした男性は、唸るユウさんにそれを差し出す。
それは、アマの実。
甘くて柔らかくて美味しいからアマの実って名前らしい。
というか、それ結構高価な木の実だったと思うんだけど……。
「え? くれるの?」
「うむ。薬草集めの片手間に見つけたものだ。遠慮せず食らうが良い」
「ありがとう!」
そう言って嬉しそうに受け取り頬張るユウさん。
こうして見ると普通に可愛い女の子なんだけどな。
「あ、そうだ!」
頬張っていたユウさんが何かを閃いた様子で男性の方を向く。
どうしたんだろう?
「貴方も、私達と一緒に反抗軍をしない?」
何言ってるのこの人は!
「ちょっと、ユウさん! 見ず知らずの人にそれは―――」
「ほう? 詳しく聞かせて貰えぬか?」
「興味がある? ふっ、良いでしょう。私達はこの世界に不満があって、そして、なんかかっこいいから反抗軍を立ち上げたの。それに貴方も加わらない?」
なんかかっこつけて言ってるユウさん。
でもさ、僕は別に不満もかっこいいとも思ってないですし、というか、いきなりそんな説明で入る人なんているわけが―――
「ふむ、良かろう。ここで会ったのも何かの縁! 我もその反抗軍に入ろうでは無いか! さあ、我をお主らの
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