第4話 町の外へ

 朝。

 休日である今日は、朝食を摂りつつ何をしようか。

 久々に町の中をぶらぶら歩くのも良いよね。

 と、ワクワクしているのがいつもの僕なのだが、今日は予定がある。

 そう、今、目の前でご飯を食べている彼女のお陰で。


「ういむ、あめおわっはは、おうそおにいうばばへ」


 ……なんて?


「ユウさん、口の中の物無くなってから話して下さい」

「むん!」


 元気よく頷き口の中に詰め込んだ物を飲み込むユウさん。

 そしてまた急いで詰め込み、咀嚼し、思い出した様に話しかけてくる。

 そんないたちごっこをしているものだから僕が食べる暇が無い。

 凄く忙しない彼女の様子に呆れる。

 けど、僕の作った食事を頬張る様子に少し嬉しさもある。

 でも、そんなに急いで食べたら喉に引っかかると思うんだけど。

 だけど、まあ、そうそうそんな事無いでしょう。

 それよりもちょっとだけ、誰かと一緒にテーブルを囲んで食事をするのは久々だな。


「んんー!!!」


 この人は懐かしさに浸らせてはくれないらしい。というか―――


「大丈夫ですか!? お水、お水飲んで下さい!」

「んー! ん、ん、ん。…っぷはぁ! し、死ぬかと思ったぁ……」

「もう、そんなに急いで食べるからですよ。そんなに急がないで、ゆっくり食べて下さい」

「うん!」


 って、言った傍からまた詰め込むのやめて!


 ……そんなこんなで朝食が終わり、僕とユウさんは町の門へと向かう。

 その間、町の通りには人が数人を見かけるという程度。

 前はもっと活気があったらしいけど、人攫いの件で犯人も未だに捕まっていない事に住人の不安が募りどんどん人がいなくなってしまったって聞いたし。

 領主さんも良い人だから早く人攫いが見つかって捕まれば、すぐに人口も回復すると思うんだけど。


 その事件から兵士の見回りを多くしていってるから人攫いも減ったらしいけど、この間聞いた人攫いも未だに全く捕まっていないらしく、怖い。けど、なんで人攫いなんてするんだろう?

 最初は町一番の美女が狙われたから、山賊が体目当てでとか憶測が流れたけど、でも、その後は男女関係なく攫うらしく、早く捕まえて欲しい。

 でも、人が攫われているのを目撃した証言があるから人攫いだというだけで、現場とかにも証拠が一切ないらしいから捜査が全然進まないらしい。


 考えていたら門の前に辿り着き、「止まれ」と門の前にいる兵士に制止される。

 って、あれ? あの兵士さん。


「お、グリムじゃねーか」


 あ、やっぱり見知った顔だと思ったらグレンさんだ。


「どうもです。グレンさん」

「おうよ。ところでグリム。こんな所に来るなんて珍しいな。何か食事処に行く荷馬車の誘導とかの用事か?」

「あ、いえ、大した用事では無いんですけど」

「は? 大した用事じゃ無いのに門に来たのか? まさか大した用事も無く外に行こうとか言うんじゃねーだろうな?」

「あ。えーと、その」


 そういえば町の外に行く事無いから覚えておかなくても良いかって思ってたけど、町の住人が外に行くのは、人攫いとかの件があるし、人里離れた奥地からしたら弱いっていっても町の外には魔物がいる場所もあるんだから、とりあえずの何かしらの重要な予定と護衛が無いとダメだったんだった。

 うーん、どう説明しようかなぁ……。


「や、薬草を採りにですかねぇ……」

「は? 薬草だぁ?」


 訝しげな表情で見てくるグレンさん。

 てか、そりゃあそうなるよね。

 危ないんだから薬草なんて採りに行かずに、雑貨屋で買えって話だよね。

 うーん、どうしよう。どうしたら―――。


「新しい料理の開発用か?」

「え?」


 何か急にそんな事を言い出したグレンさん。


「いや、皆まで言うな。男たるモノ、秘密にしておきたい努力はあるもんだ。町ん中で買ったんじゃ足跡がつく。けど、自然物ならそれはねぇ。そうだろ?」

「あ、はい」

「だよなぁ? ふっ、今日も俺は絶好調だ。にしてもお前、本当に料理好きだよなぁ。でも、そのお陰でお前んとこの店で美味い飯食わせてもらってんだから文句は言えねぇけどな」

「はは、ありがとうございます」


 なんか勝手に勘違いしてくれたんだけど。

 そんな料理研究の予定無いんだけども。


「ふっ、じゃあ、試食は私がやろう!」


 急に聞こえた声に横を向くとキメ顔のユウさんがそこにいた。

 いや、これ、町出るための嘘なの分かってますよね?


「ん? あー、もしかしてこの嬢ちゃんがグリムの事探してたってか?」

「え?」

「いやさー、昨日ここ持ち場だった奴から聞いてよ。まったく。グリムも隅に置けねぇな。こんな可愛い美少女どこで知り合ったんだよ。つか、そんな子連れて門の前に来るなんてよ。俺に見せつけてんのか。このこのー」


 な、なんか今一番嫌な誤解されてない?

 確かにユウさんは可愛くはあるけども。

 と、彼女が一歩前に出る。あ、やばい。流石にグレンさんの言葉が何か琴線に触れたのかも―――。


「ふっ、私と彼の出会いを知りたい?」

「え? 何? 教えてくれるのか!?」


 ……あれ? ちょっと待って。

 何を言い出してるのこの子。


「あれは、一昨日みたいな晴れ渡った夜の事」

「一昨日かぁ。一昨日は土砂降りだったけど。それでそれで?」

「私は彼と運命的な出会いをしたの」

「ほうほう」

「終わり」

「終わりかぁ」

「うん」


 わあ、凄い適当。


「なあ、グリム」

「え? あ、何でしょうか?」

「おもしれぇな。お前の彼女」


 そう言って良い笑顔を見せてくるグレンさん。

 はは、そんな事言うなんて、こっちの気も知らないで眩しいですね!


「まあ、冗談は置いといて、だ。二人で外に薬草採取に行くのか。って、事はグリムが護衛か」

「え?」

「ん? 違うのか? てっきり、グリムを探してたって言うから元冒険者のお前を護衛にして外に行くのかと思ってたけど―――

 あ、いや、待てよ。よくよく考えてみたら外からわざわざ来たのにグリムが護衛も変か。なら、グリムが他の町に頼んだ護衛かー。うん、こんな可愛い子にどうやって護衛頼んだんだよ! 教えろよぉ~!」


 正直、僕が知りたいんですが。


「ふふ、依頼見て護衛って面白そうだったから来ただけだよ」

「くそぉ! グリム、運が良いなこんちくしょう! そんな奴は気を付けて行ってくるんだな!」

「わわ!?」


 そう言って僕を突き飛ばす様に門の外へ出すグレンさん。

 てか、いきなりやるもんだから危うく転びそうになった。


「んじゃ、お二人さん。気を付けて」

「はーい。じゃあ、またねー」

「おうよ」


 そんなグレンさんにユウさんが手を振って僕らは町を後にする。


「とりあえず町を出れましたね」

「そうだね。それじゃあ早速、薬草を採りに行こう!」

「うん?」


 あれ? ユウさん?


「どうしたグリム。薬草入り料理用の薬草を採りに行くんでしょ?」

「え? あの、ちょっと良いですか?」

「うん」

「僕達が町を出た理由は?」

「料理研究のための薬草を採りに行くため! そして、それを私が試食するため!」


 手を握り、目を輝かせて言う彼女。

 わあ、眩しい……。


「まあ、それで良いなら別に良いんですけど……」

「え? 何か他に予定あったっけ?」


 え? この人本当に言ってる??


「お互いの力は見なくて良いんですか?」

「え? 昨日見せたし、昨日見たし良くない?」

「え?」


 え? じゃあ、町の外に出た必要性無いじゃん!

 というか、ならなんで外に出る時に町の外に行こうなんて言ったんだこの人。


「さあ、グリム。いっぱい薬草採ろう!」

「え? あ、ちょっと!?」


 そのままユウさんに腕を引っ張られ、街道から外れ雑木林に連れられていく。

 というか、普通に力強いんですけどこの人ー。


 そうして僕はユウさんに無理矢理雑木林の奥。

 町の近くの森の中に入り込んでいく。

 本来、町の人も来ない場所なんだけどここ。


「あの、ユウさん」

「んー? 何ー?」

「薬草なら街道外れくらいに生えてる物で良いじゃないですか。ここら辺魔物も出て来ますし―――」

「そんな、そこら辺にある様な薬草で私を満足されると思っているのか!」

「いや、満足して下さいよ。ここ危険な森ですし」

「何言ってるの! 魔物如きで怖じ気づいて冒険者が恥ずかしくないのかー!」

「僕もう冒険者証無いですし」

「そうなの?」

「そりゃあもう必要の無い物ですし」


 そう僕はパーティーを抜ける事になった出来事で複数じゃ無く、一種の魔法しか使えない自分には限界があると感じて、あと心機一転。心を切り替えるために冒険者をやめた。

 だから今はただの食事処の料理人。

 もう、冒険者じゃ無い。

 そう。もう、冒険者じゃ無いんだ。


「じゃあ、私も捨てようかな」

「え?」


 呟き俯く彼女の方を見ると、手には一枚のカード。

 それは色々と汚れが見え、擦り切れ、大切に扱っている様には見えない冒険者証。

 しかも、名前が書かれているところは明らかに切り傷があり故意に破壊されているといった様子。

 そのカードで唯一分かるのは、汚れてはいるものの冒険者証が銀色である事。

 冒険者は倒した魔物や個人の強さ、依頼達成率とが加味されてそれに合ったランク色のカードが渡される。

 下は白から順番に、ブロンズ、シルバー、ゴールド、そしてオブシディアンと最上位のプラチナと上がっていく。

 だから、この人はシルバーランクの冒険者なんだろうとは思うけど、あんな強さで僕でも取れたゴールドランクより低いって事あるのかな?

 それに、なんでボロボロのままにしておくんだろう?

 それと冒険者ならいつでも仲間を作れるだろうし。


 ……もしかして、仲間だった人に―――

 

 ふと、嫌な想像をして僕は背筋が薄ら寒くなった。

 それと同時に―――


「あの」


 言葉をかけてあげたくなった。

 けど、僕の言葉に不思議そうにこちらを見る彼女の姿になんと声をかけてあげれば良いのか分からなくなった。

 そりゃあそうだ。だって―――


 こっち向いた際に普通にカード投げ捨てたもの!

 なんか俯いて感傷に浸っていた様子だったのに、顔上げたらケロッとした様子「ん? 何ー?」って言ってブンって投げ捨てたもの!

 カード綺麗に近くの木にビィィイインって刺さったもの!


「いえ、なんでも無いです」

「んー? そう? なら、薬草採取に行こう!」

「あ、ちょっと!」


 こうして僕は彼女に引っ張られて更に森の奥へと進んでいく事になった。

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