第2話 作戦会議、唐突に
仕事が終わり帰宅し、ご飯をせがまれてそれが終わった後、ゆっくいりしていたら急遽リーダーに呼ばれ席に着く。
「という訳で、第一回。チキチキ作戦会議を始めまるよ。まず明日ここの町の領主を引きずり下ろすのを前提に話をしていこうと―――」
「ちょっと待ってください」
「どうした副リーダー」
僕はテーブルを挟んで向かい合わせで座るリーダーに待ったをかける。
そりゃそうでしょ。だって、
「やる事がいきなりすぎません? こういうのは、段階を踏んだ方が良いでと思うんです。それに、いきなりそんな事して顔がばれたら活動範囲を国まで広げる前に捕まって、活動自体が難しくなるじゃないですか」
「むむ、確かに」
僕の案に顎に手を当てて思案するリーダー。
そこですかさず、案を発する。
「なのでまずは、相手方に気付かれないように行動して、そうですね。領主様というより領地であるこの町に対してのちょっとした不利益になるような事をバレずにしていって、それを積み重ねていく方が安全で良いと思うんです」
「成る程ーって思ったけど、よくよく考えたら、グリム、なかなかエグい事考えてるね」
引き気味にそう言う彼女の様子に凄く腑に落ちない。落ちないけど、ここはそうらしい事を言って、本当の目的は彼女をいち早く
ここの領主様、良い人だから迷惑かける様な事したくないし。
と言う訳で、
「それでまずは、リーダーもこの町の仕事をしましょう」
「え? なんで?」
「下準備です」
「と言うと?」
「まだ出来たばかりで僕達
「まあね」
「そこでまずは何かしらの職に就く事で、同業者やお客さんへの信頼を得ていくんです。僕らが反抗軍だと思われないように。そしてお客さんとか店の同業者との話の中で何かしらの町に関する情報とか手に入ったりしますし、活動していくうちに何かミスした場合も職場や町の信頼があれば何かしらの証言で助けられる事もあるでしょうしね」
「なるほど。確かに。というか、そこまで考えれるって事は、副リーダーもしかして経験あり?」
「ありませんよ」
全く、目を輝かせて何を言ってるんだこの人は。
僕は今の仕事に就く前は冒険者活動してたからそんな事出来る暇なんてないのに。
……冒険者活動、か。
なんでだろう。もう、パーティー解消されたんだから新しい気持ちでって沈んでた心を改めたのに、思い出したら胸が少し痛い気がする。
いや、僕はもう冒険者じゃなくこの町の
「でも、確かにグリムのいう事も一理あるね。分かった。私も明日はここでの仕事を探してみるよ」
「それが良いです」
これで彼女もとりあえず仕事の忙しさで活動どころじゃなくなり、更にあわよくば反抗軍の事も忘れてくれれば良いし。
「それじゃあ明日やる事が決まった訳だから、今日はもう寝ちゃおう!」
「そうですね」
「で、寝室はこっちだよね?」
「はい。そっちで―――……、ちょっと待って下さい」
何故か二階の僕の寝室に向かおうとする彼女に静止をかける。
「どうした副リーダー」
「なんで僕の寝室に向かおうとしてるんですか?」
「え? 明日に備えて寝るためだけど?」
「いや、なんで普通に僕の家で泊まろうとしてるんですか。町の宿に泊まるなりして下さいよ」
「お金無いから無理」
「なら、お金貸しますから」
「グリム。お金の貸し借りは人間関係にヒビを入れるんだよ? だから借りない!」
良い心持ちなんだろうけど、今は違うじゃん!
「いや、関係のヒビより、なんでもない男女がいきなり一つ屋根の下の方がマズいですから」
「なんでもないって私達は同志じゃん。はっ!? まさか、私の事襲う予定なの?」
「いや、そういう訳じゃなくて」
「なら大丈夫でしょ。それじゃあ」
「いや、それでもなんで僕の寝室で寝るんですか! 他の部屋にして下さい。布団持って行きますから」
「えぇー、めんどくさい」
なんなのこの人。ああ、もう面倒くさい。
「じゃあ、僕が別の部屋で寝ますから」
「何言ってるの! 普段と違う場所で寝るとちゃんと寝れない場合が多いんだから普段自分が寝てるところで寝なさい!」
えぇ、本当に何言ってるの。
「それに冒険者業してたんなら相部屋だった事もあるでしょ! だからその程度で狼狽えるんじゃないよ」
「いえ、冒険者やってた時は宿の部屋は常に分けてましたし」
僕の返答にキョトンとした表情をするリーダー。
「え? お金勿体なくない?」
「僕、お金は基本遠出時の食材とか道具くらいしか使い道が無かったので、他の皆さんは武器や防具の買い換えとか修繕とかありましたから宿代は僕が持ってました。その時に男女で分けてましたね」
と言っても、パーティーリーダーだけは僕に気を遣ってか、一人が気楽だったのかは分かりませんけど、いつも自分で一部屋取ってたけど。
「マジかー」
なんか感心、と言うよりは呆れたような、哀れみのような表情で見てくるリーダーの顔にちょっと疑問が浮かぶけども、とりあえず今は、だ。
「兎に角、僕が他の部屋で休むので、リーダーは寝室でゆっくりして下さい」
「いや、一緒の部屋で寝ようよ」
「……なんでですか」
「ふっ、何故かって? そりゃあお互い大雑把にはお互いの事を知っているとはいえ、詳しい情報を知らない訳だしさ。チームなんだから寝るまでの間、そういう話したりして絆とか深めようよ!」
拳を握り締め熱く語るリーダー。
いや、貴女が一方的に少し知ってるの間違いだよね?
でも、確かに彼女の事は何も分からないのも事実。むむぅ。
「それでしたら起きてからの方が良いんじゃないですか?」
その方がちゃんと情報の整理とか出来るから。
「やだやだ! 寝るまでの間語り合って寝落ちするのがやりたいの!」
えぇ……。そっちぃ?
「それなら冒険者になって仲間を作ったり、友達が出来たら友人の家とかで出来ると思いますけど……」
「なんで、私と寝るのがそんなに、嫌?」
突如、涙目で訴えてくるリーダーの姿にそこまでしたいのかと思うが、ふと頭を過ぎったのは彼女には友人がいないのではという考え。
でも、明らかに僕より他人に臆する事無く話せる系の人だと思うけど……。
それよりもずっと潤んだ瞳で見てくる彼女の姿に言い訳が思い浮かばない。
うーん、……仕方無い。
「分かりました。一緒の部屋で
結局、僕が折れる事に。
まあ、彼女が寝たら部屋を出れば良いだけだ。
「え? 良いのー?」
凄く良い笑顔に豹変するリーダー。
明らかな罠なのに引っかかった自分と仕掛けた彼女に少しイラッとした。
だけど、結局折れたのは僕の方だから仕方無いか。
それに寝たら部屋を出れば良いだけ。そうそれだけだ。
「それじゃあ、ゴー!」
上機嫌に進むリーダーの後ろを着いていく。
そうして僕の寝室に入ると、彼女は真っ先にベッドの上に跳び乗る。
それじゃあ僕は床に布団敷いておきますかね。
という事で予備の布団を床に―――
「何してるの? 一緒に寝た方が話しやすくて良いでしょ」
え? 本気で言ってるの? この人は。
「いや、一緒に寝るのは」
「えー? 良いじゃん。減るもんじゃないんだし。それとも、やっぱり―――」
リーダーが目を潤ませながらそう発言した瞬間、僕の頭に電撃が走った。
これはまたさっきのパターンに持って行かれる。
考えろ。考えるんだ! 先の二の舞にならないように!
―――見えた! 先手必勝!
「それシングルベッドですから、二人で寝たら狭いですし、それに加えて更にベッドから落ちたら痛いですし。折角言い話して良い感じに心地よく寝れてもそんな事があったら嫌じゃないですか。ですから、僕は床に布団を敷いて休みますので、リーダーは心置きなくベッドを使って下さい」
どうだ? ……どうだ?
「副リーダー」
「なん、でしょうか?」
やばい。感づかれた……?
「頭良いね! 確かに落ちたら痛いもんね!」
あ、良かったぁ。通った。
「あ、でもさ」
リーダーの言葉にビクッと反応してしまう。
「ど、どうしました?」
「これ、グリムが使ってた布団でしょ?」
そう言って布団を指さすリーダー。
……あー、そういえばそうだ。
「すみません。今、取り替えますね」
「ほいほい」
という事で一旦リーダーには降りてもらってベッドの布団を予備のと取り替え、自分が使用していた布団を床に敷く。
「どうぞ」
「ほいほい」
再度、ベッドに乗ると枕を腕に抱えるリーダー。
こうしてる分には普通の可愛らしい方ではあるんだけど。
「それで、何から話す?」
凄くワクワクした様子のリーダー。
完全に
とは言っても、話の話題かぁ……。
「んー、そうですねぇ。……あっ」
そういえば
「どうかした?」
「そういえば、リーダーのお名前ってなんて言うんですか?」
「え? 私の名前?」
「はい。聞いてなかったなって思ったので」
僕の問いかけに、彼女はつまらなそうに口をとがらせる。
「えー、別に私の名前なんてどうでも良いじゃん」
「必要ですよ。町中で『リーダー』なんて呼ぶ訳にはいきませんから」
「むっ、それもそっか。それじゃあ、んー、―――ユウでいいや」
「ユウさんですか。分かりました」
とりあえず納得したけど、それじゃあって……。
でも、まあ、考えてる時点で偽名なんだろうな。……偽名の理由も朝言ってた様に思いつきなのかもしれないし。
「それでグリムはなんて呼べば良い?」
「へ?」
急に何言ってるんだろう?
「普通にグリムで良いですけど……」
「えー? 折角なのにしないの?」
「しないですよ」
「むー」
拗ねた様に頬を膨らませるユウさん。
ここは引き下がった方が良いんでしょうけど、これは、こればかりは僕に唯一残ったものだから。
「そんな顔しても僕は偽名は使いません」
「後から変更は出来ないよ? それでも良いの?」
「良いですよ」
「そっか、分かった。折角これからはジュエルンダと呼ぼって思ってたんだけど無かった事にするよ」
「そうですよ。僕には―――え?」
今、この人なんて。というか、なんでその名前を……?
「あ、やっぱり? にひひ。副リーダー、やっぱり君だったかー」
驚いている僕に満足げな笑みを浮かべて語りかけてくる
何がやっぱりなのか。いや、名前を出して引っかかったと思ってるって事は、何か知ってるんじゃ……?
「あの―――」
「残念だけど、私は知らないよ?」
聞く前に答えられてしまった。
だけど、ならなんでそんな話を僕にしてきたんだろう?
朝の話からだと、師匠の弟子だからという理由じゃない感じに聞こえたんだけれど……。
「だから、君から色々聞きたいなって。君の
色々考えていたらそう言われ、彼女の方を見ると、イタズラっぽく微笑んだまま抱えている枕に頭を傾けて乗せている姿が映った。
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