我ら、最強反抗軍(ポンコツレジスタンス)!

寺池良春

第1話 見知らぬ少女

 新しい生活を初めてしばらく経った。

 思えばこの家に、この町に来るのに色々あったなぁ。

 師匠先生に拾われて、色々お世話になった。それからまあ、独り立ちしなくちゃいけなくて、前の街で冒険者になって、パーティーにも入った。

 色んな経験をして、掛け替えのない友人が出来たと思った。けど、僕と同じ魔法使いの人が来て、その人は僕よりも強力な攻撃の魔法だけじゃなく補助も回復も使えていたからどんどん僕の出番がなくなって―――、でも、まあ、それは仕方無い。

 だって、魔物と戦ったり、賊とも戦う死が隣り合わせの、命がかかってる冒険者業しごとだ。

 優秀な人が来れば、当然その人と同じような役割の者の出番なんてそうそうない。

 それ以外の役割があったなら良かったけども。

 それで所謂首切りというか、楽しかったパーティーを解消されて―――……。


 いや、そんな事はもう忘れよう。

 今日も良い天気だ。

 折角、心機一転のために新天地で暮らしているのに過去の事引きずってても仕方無い。

 そんな事より、まずは仕事に行く前の腹ごしらえだ。


 今日も美味しそうに出来た料理を目前に、僕は手を伸ばす。


「それじゃあ―――」


 はてさて、今日のサンドイッチの味はどうだろうか。

 そう思いながらサンドイッチを味わうために口を開き、


 ―――額に当てられた固い物の感触で動きを止める。

 いや、停止したに近い。


 いつの前にいたのか、目の前には見知らぬ少女が一人。

 俯き加減で獣の様な視線を僕に向けながら鞘に収まった剣を向けていた。

 い、いったい何が起きているのか全く状況が飲み込めない。

 持っているサンドイッチなんて口の手前で止まってるからこっちも飲み込めない。いや、噛みつけてすらいない……。


「お」


 少女がゆっくりと口を開き発した低い言葉。 

 そう言えば最近この辺りで人攫いがあったって言ってたのを思い出す。

 まさか、この子がその人攫い、か?

 それか、まさか僕を殺すとか言うつもりかも。

 そう考え、僕は息を呑む。朝食食べてないのに、空気だけを。


「お腹空いた。なんか頂戴」


 地獄の底から聞こえるような声で言った少女は、僕の額に当てた剣を更に押してくる。

 今なんて言ったと考えるよりも前に、当たってる鞘の先端尖ってるから痛い!


「何か食い物頂戴」

「分かりました。分かりましたから、そんなに強く当てないで下さい! 痛いですから!」


 最早額を押されすぎて天井を見上げる程までになっていた僕は必死でそう言うと、手にしていたサンドイッチを彼女に差し出した。

 すると、当てられていた鞘が引っ込み、僕の手からサンドイッチの重みが消える。

 そうして聞こえた咀嚼音。

 僕の朝食が食べられた音。


 しかし、そんな喪失感よりも得体の知れない少女の存在の恐怖心の方が勝っているため動けずにいる。だが、警戒をしないと何か起こっても反応出来ないと彼女の方へと恐る恐る視線を向ける。

 そこでは腰に先程の剣を戻し、嬉しそうに頬張る彼女の姿が。そう見る分には綺麗な顔立ちの可愛らしい少女。

 だけど、人攫いかもしれない可能性はある。

 もし違ったとしても何を考えてここに。それよりもいつどこから入ってきたんだろうこの人。

 全く気付かなかったんだけど……。


「ふう、食べた食べた~」


 だけれど少女は僕の目の前でお腹を叩くと、満足した様子で椅子に腰掛ける。

 僕の向かい側に。


「あ、良い事考えた。ここを拠点にしよう!」


 と、そんな事を言い始める少女。

 というかここ僕の家なんだけど。何を言い始めてるんだこの人。


「ね? 良いでしょ?」

「え?」


 そう思っていたら突然こっちを見てくる少女。

 良いでしょって言われても。というか拠点とか何の話して―――


「ふっふっふ、私の目は誤魔化せないよ。君ぃ」


 そう思っていたら怪しい笑みを浮かべ、ズイッと体を乗り出してくる少女。

 急に動かれて驚き、ビクリと反応する。


「やっぱりね。君も国家に対して不満があるんでしょう?」

「え?」


 いや、特にそんな事は無いんだけど。

 でも、下手を言えば何されるか分からない。どうしよう。

 とりあえずここは


だんまりって事は、ふっ、大丈夫大丈夫。言わなくても」


 何言ってるのこの人は。


「だから悪い話じゃ無いと思う。ここを拠点に、国を相手に反抗しよう」


 怪しい笑みを浮かべて言う彼女の言葉の意味が分からない。

 というか、国家に反抗? そんな事言うって事は彼女、凄くやばい犯罪者なんじゃ……?


「そういう訳で、これから私が作る反抗軍レジスタンスのメンバーに加えるために君を誘いに来たんだよ。断れば、分かってるよね?」


 鋭い笑みを浮かべて迫る彼女。

 その迫力に緊張感が凄い。

 ……けど、彼女のその言葉にふと疑問が。

 この人、なんで僕の事を知ってるような口ぶりなんだろう?

 ……怖いけど、話に乗っかりつつ聞いてみるか。


「あの、話は分かりました。ですけど、一つ、良いですか?」

「何?」

「なんで僕の―――」

「ああ、その事?」


 言葉を遮り少女は怪しげな笑みを見せる。

 それに、まるで僕の頭の中が分かっているかのように紡がれる言葉。

 本当に怖い。なんなんだこの人。

 と、少女の口が動く。


「いやさー、最近この町にいるって聞いたから、来て門番さんに聞いたら食事処レストランか、ここだって教えてくれたんだよねー」

「えっと、いるって。僕が、ですか?」

「そうだけど?」


 何を当たり前のことをという様に言ってくる彼女。

 だけど、僕何か話題になるような事とか、誰かに狙われるような事した、かな?

 全く身に覚えがないけれど……。

 でも、現に彼女は僕の事を知って来たって言ってるし、本当に知らないうちに何かやらかしたのか?


「だから、一緒に反抗軍やろうよ」


 悩む僕に彼女は笑顔で言ってくる。

 というか彼女の誘いを断った後が何あるのか分からなくて怖いってだけで、別に国に対して不満とかはないし、国に対する反抗軍なんて普通に処刑モノでしょ……。

 とりあえず、話を濁してここを出て、町の兵士さん達に報告して、僕は仕事場に避難しよう。それが良い。


「そうですねぇー。っと、すみません。そろそろ僕お店の方に行かないといけないので返事は帰って来てからでも―――」

「え? 帰ってくるまで待てる訳無いじゃん! 今ここで返事してよー」


 計画の全てが絶たれた瞬間だ。

 どうする? どうすれば良い……?

 考える僕を余所に彼女はテーブルに突っ伏して見てくる。

 この状況、普通の女の子なら可愛いんだろう。でも、それが今のこんな状況じゃ凄く怖い。

 早く返事しろって言う雰囲気に、背筋が常に寒く、緊張して思考が定まらない。


「すみません! 今日の仕込みの当番なんですッ!」


 どういう理由だと自分でも思いつつ、この場所から離れたい一心で、咄嗟に出た言葉と共に体を跳ね動かす。

 不安が一瞬頭を過ぎったけれど大丈夫だ。今あの位置、あの距離なら玄関まで咄嗟には動け―――


 それは、本来ならあり得ない感覚。それにより鋭く冷たい剣先が当てられたかのように体が動かない。

 何故なら―――、……あり得ない。

 後ろから、服を捕まれている……。

 あと少しで玄関なのに、


「だからさ、さっきから言ってるじゃん? 早く答えてって。でも、まあ、断るって言うなら―――」


 まずい。やられ―――


「私、泣くよ?」

「……え?」

「だって、君が断ったら一人目だよ! 一人目!」

「何が、ですか?」

「反抗軍の誘いを断った一人目!」


 何を言ってるんだろう。この人。

 反抗軍だから普通に断られて仕方無いと思うんだけど。

 そこで、ふと疑問が。


「なんで一人目で見ず知らずの僕なんですか?」

「そりゃあ、知人は恥ずかしいし、他の普通の人に頼んだら断られるでしょ? だから可能性がかなり高いと踏んで君のところに来たんだよ。君が前にいた町にふと寄った時に誰かが君の事、凄く気が良くて良い人って聞いたから。まあ、そのところで日銭稼ぐの忘れて馬車代でお金ほとんど無くなってお腹減ってた訳だけども―――」


 そんな事をもじもじしたりしながら訴えてくる少女。

 ―――うん。なんだろう。なんというか、こう。そうだね。

 ここはちゃんと答えてあげた方が良いよね。可哀想だけど。


「残念ですけど―――」


 そこまで言いかけた僕の口は彼女の片手に塞がれた。

 手の動き全く見えなかった。


「もう一回言って」


 凄い低い声で上目遣いで言ってくる。上目遣いというか、完全に睨みをきかせ、獲物を見る様な目で―――。

 こ、ここ、怖いんですけど。普通に……。

 と、彼女の手が離れた。


「あ、あのー」

「さあもう一回、言ってみて」


 笑顔を向けて話しかけてきてるけど、目が笑ってない。

 更に怖いんだけど!

 それに断ったら泣くって言ってたけど、全然そんな感じじゃないし!

 どうしよう。


「一つ聞いて良い? なんで反抗軍は嫌なの?」


 悩んでいると、彼女からそんな言葉が。

 そりゃあ、


「決まってるじゃないですか。反抗軍なんて作っただけでも犯罪者ですよ? それに反政府組織そういうのなら山賊とかそういう人達を当たった方が良いですよ」

「山賊ー? 兵士に歯が立たない輩に頼んでも仕方無いでしょ」


 それなら僕も歯が立たないと思うんですけど……。


「それなら余計に僕じゃない方が良いじゃないですか。僕も兵士さん達には勝てませんし」

「余所は余所! うちはうち!」

「えぇ……」

「それに、私が反抗軍を作りたい理由があるんだよ……」


 彼女は凄いしんみりとした表情で呟くように言う。

 そういえば、僕もただ否定していただけだけど、彼女は何か壮大な理由があってそれで国に対する軍を作ろうとしてるのかもしれない。

 いや、きっとそうだ。

 なら彼女の作りたい理由をとりあえず聞いてから、それから別の方向で彼女に助言をすれば良いじゃないか。

 でも解決に導ける事は無いかもしれないけど、彼女が犯罪者になるよりも、微力でも他の道を教えられれば―――


「だって、なんか反抗軍レジスタンスって響きとか、国という大きな敵に立ち向かう悪い組織ってかっこよくない?」

「そうですか。それじゃあ、僕は行きますので。帰ってくるまでには、お帰り下さいね」


 そう言い僕は家を出―――


「ねえー、だから一緒にやろうよー!」

「離して下さい! そんな理由で犯罪組織に入る訳無いじゃないですか!」

「そんな理由とは何だ! 崇高な目的がなかったら作っちゃいけないのか! すっとこどっこい!」

「そういう話じゃないですよ! そもそも崇高な目的の前に、作る理由事態が国を相手取るような、命を張るような理由じゃないじゃないですか!」

「なんだとー! グリムー! 私に逆らうのか! 副リーダーの分際で!」

「だからやりませんから! 勝手に仲間に入れないで下さい!」

「嘘だぁ! さっきなんか入りそうだったもん! 高額な報酬で叩かれた冒険者みたいな、そんな顔してたもん!」

「どんな顔ですか!」

「ええい! 強情な奴め! 照れ隠しもそこまでにしないとお母さん怒っちゃうゾ☆」

「怒っちゃうゾ☆みたいに言う母親嫌ですし、僕は入りません!」

「あー! 言った! 言っちゃったね! ゾ☆母ぞっかぁを敵に回したら大変なんだぞ! でも、それを白昼堂々言うって事は素質あるよ君ー! 朝だけど!」


 色々言いながら引き剥がそうとしてるけど、全然離れない!

 というか、凄い力強いんだけど! 腕ちょっと痛いし。

 てか、冗談抜きで出発しないといけない時間なのに!

 うぅ、ああ、もう!


「分かりました。分かりましたから! 入ってあげますから離して下さい」


 とりあえず今は折れる事に。

 多分、反抗軍を作った理由が理由だし、遊びの範疇だろうし、飽きたらそういうのはやめて居なくなるだろう。

 そう踏んで。


「本当!? ありがとう! これからよろしくね! 副リーダー」


 僕の腕から離れた彼女はそう言って満面の笑顔でそう言ってくる。

 まあ、君が飽きるまでの間だけれど


「よろしくお願いします。リーダー」


 僕はそう言って家を後にした。

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