代わり

 運命が決まる瞬間、私と娘は手に持った紙に書いてある番号を探す……


「あった!」

「えっ、どこどこ?」

「あそこ!」


 娘が指さす場所には、娘の受験番号がしっかりと記載されてあった。


「やった! やったよ! 母さん」

「……おめでとう、和花菜」

「ありがとう!」




 説明会が終わり、家に帰ってきた私達は、「ただいま」「おかえりなさい」のハグを行ったが、とある事実に気が付いた私達はサッと身を離した。


「あ、今日で疑似恋愛、終わりなのかぁ……」

「そうね……」


 ちょっと物惜しそうな感じで返事をしてしまった。


「……母さん、最後に一つ、お願いを聞いてもらってもいい?」

「……内容によるけど、合格祝いとしてお願い、聞いてあげるよ」




「わぁ~、凄く綺麗!」

「ここの花が綺麗なのは、昔から変わらないね」


 お願いの内容は、最後に一回だけ、休みの日にデートしてほしいという事。プランは私におまかせされたので、私はあるテーマパークを選び、合格発表の日の次の土曜日に二人で来た。ここは、和花菜を連れて伶菜と最初に、そして最後にデートした場所だ。だから私達が来るのは、三回目。


「本当に、凄く綺麗……」


 前来たのはかなり昔なので、娘はあまり覚えていないだろうが、私は鮮明にあの楽しかった時間を覚えている。

 あの時和花菜は幼かったけど、伶菜に似てきたかもな……なんて思う。だって、今の和花菜の反応、伶菜とそっくりなんだもん。あの日々を思い出して、追想にふけていたら、和花菜に声を掛けられる。


「どうしたの、ボーっとして」

「ううん、なんでもない」

「……」


 

「つめたっ」

「ここのソフトクリーム、美味しいけどキーンって来るんだよね。伶奈もなってた」

「……そう、確かに、美味しいけど」



「あっ」

「何?」

「昔伶奈とお揃いで買ったキーホルダーだ、確か思い出を詰めてるボックスに入ってるはず。和花菜も買う?」

「……いいよ、私はいらない」



「観覧車から見る景色も、大きく変わったなぁ」

「……よくわかんないや」




「疲れた~。だけど昔みたいで楽しかった」

「……」


 帰宅した私達。これが最後だからなのか、和花菜は後半あまり元気がなくなっていくように見えた。せめて笑顔にさせてあげようと、いつも通り抱きしめようとした。


「いらないっ」


 だが、それは根絶された。


「寧音母さん、今日はかなりおかしかった。昔の思い出に執着してるような、私を伶菜母さんの代わりとして見ているような気がした……」

「えっ……あっ……ご、ごめんね」

「私は寧音母さんに一人の女の子として見てほしい。でも、それは我儘だから娘として見てくれるならそれでいい。でも、私を伶菜母さんの代わりとして見るのは、もう辞めてよ」


 そう言って和花菜は、自室に入っていった。


「……私、最低だ」


 伶菜は私を夫の代わりではなく、一人の女性として愛してくれていた。なのに私は、伶菜の大切な娘を、恋愛感情を持たれているのをいい事に伶菜の代わりとして見てしまっていた。性別とか顔が似ているとかは所詮言い訳に過ぎない。私は娘に、最低な事をしてしまった。その事実に反省と後悔の感情が湧きあがってくる。


「……謝らないと」


 私は和花菜の自室の前に立ち、一声かける。


「和花菜……その……謝りたいの。私の話、聞いてくれる?」

「……何」

「その……ごめんなさい、和花菜。私、和花菜に酷い事をした」

「……反省してるの?」

「うん。もう伶菜の代わりとして見たりしない。これからはちゃんと一人の娘として、和花菜として向き合うよ」

「……本当に?」

「……約束する」

「……私も、プラン任せっきりにしたのは悪かったかなって反省してた。ごめんね、寧音母さん」

「いいよ、和花菜は悪くない、悪いのは、全部私」

「……一つ、お願いを聞いてよ」

「……どんなお願い?」


 和花菜の二回目のお願いは、


「こんどは娘として、伶菜母さんじゃなく、私として、明日、日曜日だから、また一緒に出掛けてほしい。プランは二人で決めよう?」


 今日のやり直しだった。

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