バースデーサプライズ

 金曜日の夜、明日はお休みなのでベッドでスマホを弄りちょっと夜更かし。和花菜の誕生日が近く、プレゼントを何にしようか悩んでいるので、ネット上の情報を参考に考えるもいまだに纏まらない。誕生日といえば、何か忘れている気がするが重要な事ではなかったはずなので特に深く考えない事にする。

 と、まぁ親から子へのプレゼントを調べていたはずだが、無意識で恋人同士でのプレゼントで調べていたのに気付き、あぁ、この一週間で疲れてるんだなと眠りにつくことにした。プレゼントについては、もう本人に聞こう。




 翌日のお昼、食料などの買い足しから帰宅すると、ちょっとソワソワしている和花菜にただいまのハグをする。ハグが終わり、二人でリビングに行くと、そこには何故かチョコレートのパウンドケーキがあった。


「ねぇ和花菜、これはどうしたの?」

「……寧音母さん、お誕生日おめでとう!」


 ちょっと大きな声で突然言われたものだから少し驚いた。あぁ、そうか、今日は私の誕生日か。忘れていたというより、忘れたかったんだ。自分の子供の誕生日なら、成長を実感できて嬉しいから覚えているものだが、三十台の私の誕生日はただ無駄に年を取るだけだからなんとなく思い出させないようにしていたのだろう。それでも、娘に誕生日を祝われるのは案外嬉しいものなのだな。


「美味しそうだね。和花菜が作ったの?」

「うん! 母の日の反省を生かして手作りのお菓子にしてみた! 自信作なんだ! ぜひ食べてよ」

「それじゃあ、着替えて手を洗ったらいただこうかな」




「あ、これ結構美味しい」

「やった!」


 和花菜手作りのパウンドケーキはなかなか美味しかった。普段から料理や料理の手伝いをしてるだけはある。


「そういえば和花菜」

「なーに?」

「和花菜の誕生日は何が欲しい?」

「うーん……あんまり欲しいものはないかな、適当でいいよ」

「それが一番困るんだけどなぁ……」

「あ、いっこだけあるよ、欲しいもの」

「それは、何?」

「寧音母さんの唇」

「そ、それはちょっと……はぁ……」


 いつも通りの娘と、年をとってしまった事実がのしかかってきて。軽いため息が出てしまった。




「和花菜、誕生日おめでとう」

「ありがとう! 寧音母さん」


 和花菜の誕生日当日。私が誕生日プレゼントに選んだのは……


「はいこれプレゼント。これから寒くなるからね」

「わぁ可愛い! これ手編み?」

「もちろん。可愛い娘のためだもの」

「これ、巻いてみていい?」

「もちろん」

「ねぇ、どう?」

「和花菜のために編んだからね、もちろん似合ってるよ」


 手編みのマフラー。


「ねぇ和花菜、ちょっと目、瞑ってもらっていい?」

「キス!? キスしてくれるの!?」

「いいから瞑って」

「……は、はい」

「……、……」

「……えっ、えっ……」

「私が出来るのはここまで、ごめんね」

「もっかいしてよ~」

「だーめ」

「むぅ……けち~」

「あはは、和花菜ったら、顔真っ赤」


 そして、一回だけのおでこへのキス。

 

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