季節の変わり目は体調を崩しやすい

「……三十七度八分。今日は休みなさい」

「うん……、わかった……」


 和花菜が腋に挟んだ体温計を抜き取り、それが示した温度を告げ、今日は休むよう促す。

 急激に暑くなったり涼しくなったりするこの季節は、やはり体調を崩しやすいようだ。いつもより和花菜の元気が無かったので体温を測ってみたら案の定風邪を引いていた。


「今日の分の弁当作ってしまってるから、お昼はそれを食べて……」

「待って……」

「あっ……」

「お仕事しなきゃいけないのはわかってる。私の我儘なのもわかってるけど、今日は一緒にいてほしいの……」


 何か反論の言葉を出そうとしたが、思ったより心身ともに弱りきっていた和花菜の姿を見て、何を言おうとしたか忘れた。浅はかな考えだったかもと反省し、仕事を休む旨を会社に伝えるために携帯電話を取り出した。




「食欲ある? 卵粥作ったけど食べる?」

「……食べる」


 スポーツドリンクを飲んでいた和花菜の傍に、卵粥の乗ったお盆を置く。


「……食べさせてほしい」

「……いいよ」

「ごめんね、我儘な娘で」


 卵粥をスプーンでひとすくいして、和花菜の口に近付ける


「はい、あーん」

「あーん……あふっ」

「あ、ごめん、冷ますの忘れてた」

「むぅ~」


 和花菜はスポーツドリンクで口を冷まし、再びあーんを要求してくる。今度は息を吹きかけてしっかり冷まし、和花菜の口に卵粥を運んだ。


「……おいしい。ありがとう」

「どういたしまして」




 食べ終わった卵粥の食器を片付けた後、スポーツドリンクを飲み終わっていたことに気付く。


「スポーツドリンク、近くの自販機で新しいの買ってくるね」

「待って!」


 立ち上がって一旦部屋を出ようとしたところを、娘に服を掴まれ止められる


「今は喉乾いてないから、あとででいい。もう少しだけ、一緒にいてよ……」

「……わかった」


 上半身を起き上がらせていた和花菜にハグをした後、再び横に寝かせる。和花菜は少し驚いた後、「……ありがとう」と言ってくれた。






――これからはずっと一緒だって二人で約束したじゃん! 遺された私達はこれからどうすればいいの!? なんでそんな早くにいっちゃたの…… 私達を置いていかないでよ……伶菜――




 


 何かすごく嫌な感覚がして、目を覚ます。あれから私達、一緒に寝ちゃったんだっけ……すぐそばでは和花菜が小さく可愛らしい寝息を立てている。寝ている今のうちに、スポーツドリンクを買いに行こう。


「んぅ……寧音、ママ……」


 部屋を出ようとしたところ、また和花菜に呼び止められた……いや、これは寝言か。……私達の家庭は非常に特殊だが、それでも素直で優しく、そして親思いな子に育ってくれた和花菜には本当に助かっている。親思いがいきすぎて、ちょっと困ったことになってはいるけど。

 早く風邪を治して、元気な和花菜がまた見たいな。今日の夕食は、美味しいうどんでも作ってあげよう。

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