最後で最初で最後の
波の音と夏の太陽が私達を出迎える。
和花菜は着替えて軽い準備運動をした後水遊びをしに行った。私は当然ついていけないので近くにパラソルで日陰を作りのんびりしている。何故私達は、たった二人で海に来ているのだろうか。同年代の友達と大人数で来た方が絶対楽しいだろうに。
事の発端は、一学期の終業式のあった夜だった。
「寧音母さん」
「どうしたの? 和花菜」
「夏休みの話だけどさ」
「うん」
「勉強第一なのはもちろんなんだけど、やっぱり高校最後の夏だし思い出は作りたい」
「たまに息抜きするのは大事だし、それは別にいいと思うけど」
「それだけじゃない。私と母さんが恋人でいられる夏は、今年が最初で最後かもしれない」
「……」
「我儘なのはわかってるけど、普段は勉強頑張るから……寧音母さんが休みの時だけでいいから、寧音母さんと色々な思い出が作りたいの……」
そうお願いされたら流石に断れず、水族館や夏祭りに連れて行ってあげたし、一緒に花火をしたりもした。正直、どれも楽しかった。和花菜もとても楽しんでいたように見えた。でも、海には私と遊びに来ても、流石に楽しくないと思うの。
「ふぅ~、疲れた~」
「楽しかった? ……そんな事ないか。だって、私はほとんどパラソルの下にいて、時々様子を見に行って、少しだけ遊びに付き合ってあげただけだもの」
「そんな事ないよ。母さんがそばに居てくれたから、とても楽しかった」
「……本当は?」
「母さんがこっちに来てくれてた時以外はそんなに、かな……、……でも、メインはここからだよ」
「……? どういうこと?」
「着替えて、あそこの展望台に行こう?」
「……綺麗」
「でしょ?」
展望台に着いた私達を出迎えてくれたのは、橙色になった夏の太陽と、辺り一面の海。夕日が水面を照らす光景は、とても綺麗だった。
「今日のメインは、こっち。この景色だけでも、『来てよかった』と思ってくれたら、嬉しいな」
「……それなら、海で泳ぐ必要はあった?」
「たまには体を動かしたかったからさ……ごめん、誤魔化した。正直に言うと、母さんの水着姿が見たかったんだ」
「ちょ、ちょっと……まったく、仕方のない娘だなぁ……」
そう言った私は、思わず微笑んでしまう。
「いいじゃん、今年だけ、なんだから……」
娘は一瞬暗い顔をしたが、すぐに微笑み顔に戻して、そう返してくれた。
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