母の日

 春休みも終わって新学期が始まり、それなりに時間の経った、5月のある日曜日。和花菜は朝食や着替えなどを済ませて、「用事がある」と言って私にいってきますのハグをした後、朝から出かけてしまった。掃除や洗濯はすでに済ませており、今は割と暇な状態だ。あたたかくなってきた季節が、疲れてソファーでくつろいでいた私を眠りに誘う。




 ハッと目が覚めた私は、時間を確認する。一時半、うわ、かなり寝ちゃった……

 台所で何かを調理していた和花菜が、私に声をかけてくる。


「あ、おはよう寧音母さん。今余りものでチャーハン作ってるのだけど、お昼はそれでいい?」

「え、えぇ……」


 春休みに勉学を頑張っただけでなく、料理の腕も上げた娘は、美味しいチャーハンを振る舞ってくれた。




 食後、娘は何かを切り出すタイミングをうかがっているようだ。かなりモジモジしている。意を決した娘が、何かを差し出してきた。


「はいこれ!」

「ん、これは……」


 差し出されたのは、アレンジメントされた、赤とピンクのカーネーション。


「今日、母の日だから……」

「あ、あぁ!! そういうことね」

「受け取って、どこかに飾ってくれる?」

「もちろん。ありがとう、和花菜」

「え、えへへ……」


 照れ笑いする娘は、とても可愛らしかった。


「……あの、それだけじゃなくてね」


 そう言った娘は、小包を取り出した。


「……これも受け取って欲しいの」


 小包を開けると、出てきたのは青色のネックレス。


「最初は指輪にしようと思ったけど、疑似恋人でそれは重いし、何より指は、伶菜母さんのものだから……」


 そう言って娘は、私が左手の薬指につけている指輪を一瞥した。


「……そもそも私と寧音母さんが、疑似的にとはいえ恋人になれているのは、奇跡だと思ったの。迷惑もいっぱいかけてるだろうしさ。だから、お花だけでは感謝が足りないと思って……」

「……、……」


 黙って手に持っているネックレスを見つめる。蛍光灯の反射光で軽く光っているそれをおもむろに首にかけてみる。


「……どう? 似合ってる?」

「すっごく、似合ってる」


 ここで拒んでも良かったが、せっかくの好意を無下にはできない。ただ、一つ気になったことがあるので、聞いてみる。


「でもこれ……割と高かったんじゃないの?」

「うっ」


 和花菜はそう言うと目をそらす。どうやら図星だったようだ。


「お小遣いの使い道、全然無かったから……許して……」

「……気持ちは嬉しかったから今回はいいけど、次からは一個でいいし、安く済むものでいいからね? 気持ちさえこもってれば、私はなんでも喜ぶよ」

「わかりました……あと、ありがとう」

「……こちらこそ、ありがとう」


 そんなやり取りがあって、私達の母の日のイベントは終わった。

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