第14話
しおかぜ園に来るまでのことはあまり覚えていない。母と二人暮らしで、父は物心ついたときにおらず顔も知らない。母のことも今ではうっすらとしか記憶にない。毎日が空腹で、暑さも寒さも体の傷を刺す凶器にしか思えなくて、泣いてもどうにもならないことを僅か四歳で悟った。そんな地獄は今でも思い出しては身をぎゅっと固くし息をするのも辛くなることがある。しかしそれが過去のことだと思えるのは、しおかぜ園の日々が幸福だった証拠なのだと思う。
しおかぜ園に来て最初のお誕生日会のことだった。『五歳のお誕生日おめでとう』と言ってもらった。目の前にはからあげやエビフライ、スパゲッティなどが並べられていた。今ではごく当たり前の料理が、当時の私には見たこともないご馳走であった。たらふくご飯を食べたあとに出されたケーキに目を輝かせた。イチゴの隙間を縫って蝋燭を立てて火をともす。電気を消すとゆらゆらと揺れる炎に照らされた孤児院の人たちがニコニコと笑っているのが幻想的で、今でも鮮明に思い出せる。そして初めて食べたケーキは甘くて美味しかったこと!
「君が新しく入った子かい?」
藤岡さんは私をじっと見ていた。私は身体の大きい藤岡さんが少し恐ろしくて緊張していたが、私以上に緊張していたのは藤岡さんだったと後から知る。
「三日も遅くなってごめんね。お誕生日おめでとう。」
手渡された白いキラキラ輝いた袋にピンクのリボンが可愛くて、きっと袋以上に私の目はキラキラしていただろう。そんな私の前に藤岡さんはしゃがんで頭をなでてくれた。私の頭がすっぽり覆い被るほどの大きな手が温かかった
「良かったわね。お誕生日プレゼントですって。」
「私に?」
「そうだよ。俺は藤岡宗一郎。時々此処に遊びに来ているんだ。これからよろしくね。」
「おじちゃん、時々じゃないよー!」
「そんなに来てるかあ?」
「そうだよ。殆ど毎日来てるじゃん!」
子供たちは口々に突っ込み笑いに包まれた。
「でもおじちゃん遊んでくれるから明日も来ていいよ?」
「こら!失礼なことばかり言って!」
園長先生はこつんと生意気な口を聞く少年の頭を小突いた。
「みんながそう言ってくれるなら明日も明後日も、嫌がっても来ちゃうかなあ。」
「旦那様、お仕事が終わってからですよ。」
「叱られてしまったよ。」
後ろに控えていた田中さんが藤岡さんのお母さんのようだと子供たちは一際大きな声で笑った。先生たちも子供たちと同じように笑っている。笑い声は波紋の様に広がり私も自然と口角が上がっていた。
こんなに笑ったことは今までなく、次の日痛みはなかったが、頬骨付近に感じたことのない引きつるような感覚があった。ほっぺをぐにぐにと手で揉んでいると、先生が心配して声をかけてくれた。説明をすると「たくさん笑ったからね。今に当たり前のことになるわ。」とまた笑っていた。
因みにその時貰ったふわふわの焼き菓子色のテディベアがあまりにも嬉しくて毎日抱っこしていたものだから、今では毛は倒れ首も少し傾きすっかりくたびれている。
しおかぜ園の暮らしは穏やかなものだった。現在は十人に満たない人数だが当時は十五人居て騒がしく賑やかな生活だった。色んな境遇の子供たちがいた分、トラブルもそれなりにあったが卒業にあたる十八歳になるまで平穏に暮らせたのはしおかぜ園のスタッフや何より藤岡さんが資金援助をしてくれていたからだと、大人になってから知ることとなる。
高校二年の秋、青春真っ盛りで勉学に部活動、そして地域活動と名目でアルバイトに励んでいた。充実した毎日は過去を振り返ることもなかったが、あと一年で卒業することに不安を覚え始めていた頃である。
「ため息をついてどうしたんだい。」
「藤岡さん!いらっしゃい!」
「小さい子が君に声をかけても返事がないと言っていたよ。ブランコ代わって欲しいんだって。」
海辺の大きくて丈夫な木に取り付けられた手作りのブランコに座って考え事をしていた。いつ声をかけられたのか気付かないほど考えに耽っていたようである。藤岡さんについてきた低学年の三人の子供たちが物欲しそうにこちらを見上げていた。
「え!え!ごめんね。すぐ代わるね。」
ぱっと表情が明るくなり、はしゃいでブランコに飛びついていた。
「さて、俺たちはあっちで話そうか。」
そう言って波打ち際を指さした。
砂浜に腰をかけると缶のホットミルクティーを渡された。持っていると少しだけ冷めているが掌がじんわりと温かくなる。
「いつもあくせく動いている君が悩んでるなんて珍しいね。」
「悩みくらい持ちますよー。これでも高校生ですよ!悩めるお年頃なんです!」
ふざけて返事をすると頭をポンポンと叩かれた。するとじわっと目頭が熱くなるのを感じる。
「そうだったね。うちの娘と同じ年だったね。」
昔見せてもらった写真を思い出す。自分に瓜二つと言わんばかりに似ていて驚いた。藤岡さんも私を見た時大層驚いたと言っていた。小学生の頃は島外にある同じ学校に行っていたが同じクラスになったことはない。登下校時に船に乗る時に姿を見るくらいで話したこともなく、かほるのことは名前以外あまりよく知らなかった。
「公立の高校に行ってないよね。」
「私立で寮のある学校に行ってるからね。」
「そうなんだ。娘さんは帰ってくるの?その卒業したら…」
「その予定だよ。」
「そっか…いいなあ。」
「どうして。」
「だって私は卒業したらこの孤児院も出なきゃいけないし…家族なら離れなくても済むのにな。」
今にも泣きそうだった。子供のときなら心のままに泣いていたけど、今は恥ずかしさが勝ってしまう。しかしそんな不安を吹き飛ばすように藤岡さんは笑い飛ばした。
「そんなことを心配していたのか!全くしょうがないなあ。」
そんなに笑わなくてもいいのに。
「そんなことを悩む必要はないさ。時間が勿体ないよ。これから君は何にでもなれるのに。」
「なんにでも?」
「そうだ!夢を叶える時がくるんだ。やりたいこと、なりたいもの、選び放題じゃないか。」
幼い子供に話すように夢や理想は叶うんだとはっきり語る。それを信じる程子供にもなれない。しかし不思議と胸に響いた。藤岡さんが言うと本当になんでも叶いそうな気持ちになる。
「じゃあ私が女優になるって言っても本当に叶うと思う?」
「勿論だよ。」
冗談めいて叶うはずもないだろう夢を問いかけると、躊躇いなくにかっと笑って即答した。その目は嘘を言っているようには思えなかった。友達と夢を語り合った時にも同じように「きっと叶うよ」「大丈夫だよ」と言われたことを思い出す。お互いに頑張ろうねと励ましあった。路指導の時に思い切って先生に言った時には現実を見なさいと窘められた。実際夢が叶うなんて本気で信じているわけではないが、改めて口にされると胸がちくりと痛んだ。それを払拭するかの如く藤岡さんの肯定の言葉は太鼓判を押して貰ったようで心強かった。
「そりゃあ社会は決して甘いものじゃない。もし辛くなったらいつでも帰っておいで。しおかぜ園の皆は私にとっても家族だ。」
家族。勿論しおかぜの皆は私にとって苦楽を共にした家族だった。しかしそれ以上に藤岡さんに父親像を重ねていたのでその言葉が何よりも嬉しかった。もし藤岡さんの本当の子供だったら…叶うはずのない願いが届いた気がした。
卒業後すぐに上京した。「女優になる」と宣言して一年、それまで以上にアルバイトに励み、貯めたお金を持って孤児院を出た。未だ不安から逃れることは出来なかったがそれ以上に胸が躍っていた。ここで大きく羽ばたける。なんにでもなれるそう信じていた。藤岡さんの「夢を叶える時がくる」その言葉が私の心には鮮やかに色づき響いた。
暮らしは決して楽ではなかったけど、規模は小さくとも念願の劇団に入団し、バイトをしながら舞台稽古に励んだ。目まぐるしい日々だったが毎日が充実していた。上京して三年、名前のある役を貰えるようになって益々気分が上がっていた。
その日も夕方までのコンビニのバイトが終わると急いで稽古場に駆け込んだ。ちらほらメンバーが集まっており掃除を始めていた。挨拶を済ませて荷物を端っこの方に置く。掃除道具を手に取ると先輩団員が声をかけてきた。
「おい、お客さんが来てるぞ。」
特に約束はしていない。東京の友人も多くはなく、殆ど劇団員の人かバイト先の人としか交流がなかったので、訪ねてきた相手が予測出来なかった。
「なんか高そうなスーツを着たおじさんだったぞ。おまえなんかいかがわしいバイトとかしてるんじゃないだろうな?」
「してませんよ!名前言ってませんでした?」
「島から来た古い知り合いって言ってたけど。田中って言う人。」
「え!?本当に!?」
田中さんが来てると言うことは藤岡さんも来ているんだと胸が高鳴った。三年間、メールや手紙のやり取りはしていたものの面と向かって会うのは島を出て以来初めてである。島には何度か帰ってはいたが、都合が合わず藤岡さんに逢えていなかった。
「ご無沙汰しております。急にお邪魔をして申し訳ございません。」
田中さんは腰から直角に身体を倒して頭を下げた。
「田中さん!お久しぶりです。どうしたんですか。いつ東京に?藤岡さんもご一緒ですか?」
立ち姿は三年前と同じように物腰が柔らかくすらっとした体型にスーツがびしっと決まっている。しかし様子がおかしい。田中さんは静かに笑っているだけでその場で答えなかった。必死に笑顔を取り繕っているようだった。
「田中さん?」
「不躾であることは重々承知しておりますが、後ほどこちらにまで来ていただけませんか。旦那様もいらっしゃっています。」
手帳か何かからちぎったと思われる小さな紙きれを受け取り開くと、有名なホテルの名前と田中さんの携帯電話の番号が書かれていた。
「いつでも構いません。待っておりますので宜しくお願いします。」
田中さんはぴんと背筋を伸ばして深々と頭を下げた。孤児院で接していた時とはあまりにも違う様子に困惑して稽古にも熱が入らなかった。集中出来なかったのでその日の稽古は早めに上がらせてもらい、田中さんに電話をしてすぐにタクシーでホテルに向かった。
たどり着いたホテルを見上げて、ここで本当にあっているのか疑った。見慣れたビジネスホテルである。藤岡さんが普段泊まっているホテルを知っているわけではないが、世間一般的にお金持ちに属する藤岡さんが利用するホテルにしてはかなりリーズナブルである。意外と倹約家なのかなと思った。
ロビーを介さず直接エレベーターに向かった。七人乗りの小さなエレベーターに乗り黒ぶちの白くて丸いボタンを、少し力を込めて押し込む。カコンと軽く揺れて止まると少しどきっとした。部屋番号を一つ一つ確認しながら歩く。小さな紙と部屋番号を交互に見て、間違いないことを確認できるとインターホンを鳴らそうとボタンを押す。するとビッ!と短い音がした。押した長さだけ音が鳴る仕組みだと気付き、もう一度、今度はビーッ!と鳴らした。ゆっくりドアが開いて田中さんが出迎えてくれた。
「ご足労いただきすみません。どうぞ。」
ツインルームとはいえ部屋の奥がすぐに見える程の狭い部屋である。奥のベッドに藤岡さんは腰を掛けていた。
「藤岡さんお久しぶりです。」
声をかけるのもためらわれるくらい憔悴しきっていたのが見て取れた。藤岡さんは何も言わずに軽くお辞儀をした。いつも笑顔で迎えてくれる藤岡さんとは全く異なり動揺した。
「お茶を淹れますね。そちらの椅子におかけください。」
鏡台替わりの机に一脚の椅子がある。すでにベッドの方に向かって座れるように向きを変えて置かれていた。ホテルに備え付けてある電気湯沸かし器がゴポゴポと大きな音をたてている。田中さんはカップに紅茶のバッグを入れて沸かしたてのお湯を注いだ後、ソーサーでカップに蓋をした。手元の懐中時計を確認している。秒針がこちらにまで聞こえそうな静寂だった。規定の時間が過ぎる頃合いを見てソーサーを外す。
「すみません、狭いのでこちらに置きますね。」
私が座る椅子を背にした机にお茶を置いた。後ろを振り向くとすぐ手にとれる位置に置いたため良い香りが鼻をくすぐる。しかしすぐにお茶に口を付ける気にはなれなかった。
「あの…どうされたんですか。」
「あなたに仕事をお願いしたいのです。」
「え?お仕事ですか?私に?」
意外な問いかけに拍子抜けだった。あまりにも不穏な空気だったので、もっと大変なことでもあったのだと、ぐるぐると不吉な想像をしていただけに面食らった。しかし続きを聴いて、予想外の内容に驚愕するのはもう少し後になる。
「お嬢様をご存知ですか。」
「お嬢様って、藤岡さんのお嬢さんですよね?大人になってからお逢いしたことはありませんが。」
「お嬢様は先日亡くなりました。」
思わぬ言葉に頭がフリーズする。すぐにでもお見舞いの言葉をかけるべきだとは思ったものの、こういう時になんと言えばいいのか判らなくなり何も言えなかった。
「お嬢様が亡くなった事実をまだ誰も知りません。今の奥様にそのことをお伝えするとどうなるかわからないくらい心を病んでおられます。そのためにもお嬢様の代わりが必要なのです。」
「待ってください田中さん。まさかと思いますが、私に娘さんを演じろって言うんですか?」
『お嬢様の代わり』という言葉にすぐに察しがついた。確かに幼少期の写真を見せてもらった時には息が止まりそうになるくらい似ていたことに驚いた。とはいえ成長した姿はみたことがないし、流石に現実的でない提案である。そんなことしても実の母親が見ればすぐにばれるに決まっている。
目の前に分厚い茶封筒が置かれた。それがお金だとすぐに察した。それも見たこともないような大金であることも。
「これは手付金です。どうか今暫くあなたのお時間をいただけませんか。この通りです。」田中さんはベッドから立ち上がったかと思うと床に膝をつき頭を下げようとする。慌てて止めにかかった。
「待って待って!そんなことされても困ります。」
「あなたの要望ならなんでも応えます。だからどうか…」
「せめてお話を聴かせてください。ご家族さんをだましてまですることにしては、あまりにも突拍子もなくて…それにかほるさんは一体全体どうして亡くなったんですか。」
田中さんは今にも泣きだしそうな程眉をひそめて、ベッドの上に置かれた鞄から何かを取り出した。渡されたのは四つ折りされた一枚の紙、よれていて所々泥が掃われた跡がある。それだけでなく、赤黒い跡も目についた。それが血であることはすぐに判り息が止まりそうになる。恐る恐る開くと目に飛び込んだのはDNA鑑定書という文字だった。奥さんとは繋がっても藤岡さんとは血の繋がりがないとわかる血の付いた鑑定書、二人の憔悴した様子、そしてかほるさんの死。邪推をしてしまうが、それは当たっているのかもしれないと思うと血の気が引いた。
田中さんは一連の出来事をぽつりぽつりと話した。藤岡さんとかほるさんの間で起こった出来事は藤岡さんからは語られなかったが、突発的に手にかけてしまったことを田中さんが話した時に否定をしなかった。頭を抱えて声に出さずに泣いている姿がとても見ていられなかった。
時々藤岡さんが奥さんのことや娘さんのことを嬉しそうに話していたことを思い出す。それは嫉妬しそうになるくらい楽しそうに話すので、実の娘であるかほるさんのことが羨ましくて、幼い私は話したこともないのに良い感情を抱けなかった。だからこそ登下校で同じ船に乗っていても話そうとは思わなかった。幼いながらの小さな反抗心だった。
「お二人は、知っていた…わけないですよね。」
「ええ…未だに信じられませんが、それは旦那様の方が…あんなに手塩にかけて育てられたのに…」
それは実の親だからこそ出来たことだとでも言いたげである。たとえ実の娘でなくても、藤岡さんなら大切に育てていたに違いない。それは私たちのような孤児をこれだけ愛して下さった人だから、そうであると信じたい。しかし現にかほるさんは死んでいて、藤岡さんは人が変わったようにボロボロになっている。
「これをかほるさんが藤岡さんに見せたんですか?どうして?」
「わかりません。どういうつもりだったかも、見せて何をしたかったのかも。でも私は旦那様を追い込んだお嬢様を許せない。そしてそのきっかけを作った奥様も!」
聴いたこともない荒げた声に体が縮こまった。しかし田中さん同じような怒りが自分の中で混みあがっていることに気付いた。昔みた写真の中のかほるさんはなんの苦しみも悲しみとも無縁というような女の子で、幼かった自分は羨ましくもあり、親がいない自分の境遇と比べては妬む気持ちもあった。なによりも藤岡さんみたいな優しそうなお父さんがいることが羨ましかった。水の底に沈めた汚い気持ちが浮かんでくる。積み重なった小さな嫉妬を見ないふりをしている間に、いつの間にか巨大化していることに気付いてしまった。
この時私の中で何かがコトリと外れる音がした。それは理性的な感情だったのかもしれない。
立ち上がり藤岡さんの前に膝をついた。そして力なくうなだれた藤岡さんに目を合わせようとした。焦点があっていないようだった。藤岡さんの右手を両手で取っ手優しく握った。あの島を発ってから、三年しか経ていないはずだ。それなのに藤岡さんの手に力はなく、何十年も年をとってしまったかのように老け込んでいた。
「藤岡さん、覚えておられますか。十八歳を目前にして孤児院を卒業することに不安になっていた私に藤岡さんは言ってくれました。『君はなんにでもなれる』って。周りの子はちゃんと定職についたり進学したりしている中、役者になりたいなんて叶うかわからない夢を持っていた私の背中を押してくれたのは藤岡さんです。今もその言葉に励まされています。今でも私は何にでもなれるって思えるんです。私は演じてみせますよ。藤岡さんの娘になれるなんて、それこそ幼い頃の夢だったんですから。」
今までいただいてばかりだった私に恩返しの機会が与えられた。これは使命だ。そして藤岡さんの娘として生きていくことは心から願っていたことだ。
「演じなくていい。」
藤岡さんはかすれた声で言った。
「かほるを演じることはない。君は君のままでいい。私の傍にいてくれれば、それでいいんだ。」
そう言って手を握り返してくれた。目にはわずかながら光が戻っているように見えた。
覚悟を決めたら後の行動は早かった。数日の間に荷物は極力処分してアパートを引き払った。バイト先や舞台仲間には暫く旅に出るとだけ伝えた。迷惑をかけて申し訳ないという気持ちはあったが、もうすでに後ろ髪引かれることはなくなっていた。私は藤岡家の一人娘だ。かほるだと言い聞かせることもなく、自然と私は藤岡かほるに成り代わった。
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