Chapter2【味方になり得る者】

第八羽【強くなるため】

「おーーーい!! 麟堂!! 起きるんじゃーーーー!!」


 まだ朝の七時半、セットしていないはずの目覚ましが鳴り止まない。


「おーきーるーんーじゃー!!」


 しかもソイツは俺の上で地獄の三拍子を踊っている。


 猫の方がもっと利口だぞ。


「そうかのぉ。まぁ、ねぼすけなお主に言われとぉないがの。


 じゃがまぁいい、今日はワラワと同じ境遇の者を探しに行くぞ! 麟堂!」


「はぁ? なんでだよぉ...協力するため...?」


「違うの。


 ワラワがもっと強くなるためじゃ!!!」




 俺は昨日、ミユルに薄紅色の球を渡された。


 どうやらその球がないと、魔法は使えないらしい。


「今、ワラワたちが使えるのは、弱い二節か中級以下の一節だけじゃ」


「『イデス』と『イデスドン』と『イフ・ドグルイ』...だっけ?」


「そうじゃ、あと『アシケイ』じゃな。


 じゃがその程度ではあのドラゴンは倒せぬ。


 じゃからもっと強い呪文を唱えられるようならなければならぬ。


 いくつ集めればいいかはわからぬが、とにかく動き出さなければのぉ。


 これは...ぱん、というんじゃったかのぉ。


 美味しいのぉ」


「...なぁミユル───」


 なんでそこまで詳しいんだ?


 昨日から気になっていたことを聞いてみた。


 おそらくあのドラゴンは、過去に今回のようなことを起こしているのだろう。


 だがそれが本当なら、ミユルの世界では行方不明者が出ているだけで、ミユルがここまで知っているはずがない。


「そんなの簡単じゃ、あのドラゴンを一度殺した者がおるからじゃな。


 その者がワラワの曽祖父、じゃから詳しい」


「殺したって...てことは蘇ったのか?」


「そこまでは知らぬ。ドラゴンの絵が残っておる訳ではないからのぉ。


 文献も残っておらん。口伝だけじゃ。


 ...ワラワの知る話と今の状況が似ておるから、断定したように語ったが、間違っておるかも知れぬなぁ。


 まぁ、死者が蘇るなど聞いたこともないから同種などじゃろう。


 手が止まっておるぞ、早く食べて出発じゃ」


「あ、あぁ」


 あと二口はあったウィンナーを挟んだパンを、一口で飲み込んだ。




「で、どこに行けばいいんだ?」


「ワラワのような者がいそうな所!


 ...ってお主にわかるわけないか...」


「酷いな...じゃあとりあえず山行くか?


 ミユルみたいに山で過ごしてるのがいるかもだし」


「うーむ...まぁよい」


 昨日は自転車が傷だらけになっただけでなく、カゴとハンドルが歪んでしまったので、今日は歩いて行くことにした。


 またあのような戦闘が起こってしまったら、今度こそ壊れてしまう気がする。


 七階建てのマンションの五階、階段を使って降りる。


 流石に二駅分の距離を歩いていくわけにはいかないので、電車に乗っていくことにした。


 ミユルをそのまま抱えていく訳にはいかないので、少し大きめのリュックサックに入れることに。


「静かにしてくれよ?」


「わかっておる」


 定期券を使って改札に入り、乗り込んだら、膝の上にリュックサックを乗せて少しばかり揺られる。


 ちなみに俺は雷来山の近くの、水藍すいらん高校という高校に通っている。


 文句というわけではないが、“藍”と書いて“らん”と読むのは少し厳しくないだろうか。


「ほぉ? これがその、コーコーという所か。


 まぁ、ワラワの屋敷の方がデカいがの」


 電車を降りた俺たちは、とりあえず高校まできていた。


 特段、理由があったわけではない、だから入りはしない。


 また雷来山へと顔を向けると、リュックサックの中から顔を出していたミユルが声を上げる。


「麟堂! 太陽の方向に何かがおる!!


 おそらくワラワと同じやつじゃ!」


「ほんとか!? てかよくわかったな」


「ふん、この程度。


 とりあえず近づいてみぃ。


 倒せるかもしれぬぞ」

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