第六羽【飛翔】

 その巨大なドラゴンは悪魔を、人間なら丸呑み出来そうな口で咥えて、天高く舞い上がる。


 上空で噛み砕いたのか、ドラゴンの口元からいくつかのパーツがこぼれ落ち、それは濃色の炎に包まれ消え去った。


「す、すっげぇ...」


「麟堂!攻撃するんじゃ!」


「えぇ!? 今の助けてくれたんじゃ?」


「そうじゃが! そう言う話ではないんじゃ!」


 ミユルの言うことがわからず、唖然としているうちにドラゴンは飛び去ってしまった。


 ミユルはというと、まさに落胆といった声を出して項垂れていた。


 すぐあとには月白色の光が身体から漏れ出し、それが空中に消えていくうちにミユルも小さくなって、元の小さな姿に戻ってしまった。


「...まぁわかっとったがの。ワラワの魔法が当たったところで倒せるわけないと...


 .........当てようとする前に逃げられるとはな...」


 涙を流さずに泣き声を出し、手足をバタつかせて悔しさを体全体で表現する。


 そんなミユルを抱え上げ、とりあえず帰路に着く。


 自転車を拾いに行き、日も落ち始めた頃にミユルはやっと泣き止んで色々説明してくれた。


「あのドラゴンを倒さねば元の世界に帰れんのじゃ。


 ワラワはあのドラゴンがこちらの世界に来るために呼び出された、代償なんじゃ」


「代償?」


「...別世界に行く時、ワラワのような同じ世界の誰かを連れて移動し、その誰かが死ねば自分は元の世界に戻り、自分が死ねばその誰かを元の世界に戻す。


 これが代償ってやつじゃ。


 つまり、別世界に移動するすべを持ち合わせないワラワは、あのドラゴンを殺さねば帰れんのじゃ......」


「あのドラゴンを説得して帰ったりできないのか?」


「じゃあお主が説得してこい! 何処におるかもわからん、自分の都合に誰かの一生を巻き込むサイコパスを!!


 わかっとるか!? あのドラゴンが元の世界に行って、こっちの世界に来なければワラワは死ぬまで帰れんのじゃぞ!?


 ヤツのなんらかの都合が終わり、移動をやめればワラワは一生帰れなくなるんじゃ!!


 代償はワラワが不利なように作られておる...いつだって痛い目を見るのは被害者じゃ!」


 ある程度説明したのち、ミユルは不貞腐れて目を閉じてしまった。


「帰りたい......」


 聞きたいことがあったが、今はやめておこう。


 別世界とはどんな世界なのか。


 なぜ、あのドラゴンのことを知っているのか。

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