第二羽【邂逅】

 山の麓に着くと、自転車を道の脇に止めて入山する。


 登山する人が来るほど綺麗な景色も、神社も高さもないけれど、一度来たことがあった。


 小学一年生の時、秋の工作か何かでいっぱいどんぐりを必要としていたから来たはず。


 拾ったどんぐりから虫が出てきて、どんぐりを嫌いになってしまったなぁ。


 そんなことを思い出しながら、腕ほどの太さの木で作られた段差を一段一段上がっていると、ある程度広い場所に着いた。


 秋は落ち葉でいっぱいだったなぁとこぼし、整備されていない道に入る。


 ちょっと奥に歩くと、外から山にそぐわない奇抜な格好の人が道に入ってきた。


 シャツを着ており、下は紺色のスーツであった。


 会釈をして横を通り過ぎようとすると。


「なんだ貴様。ここで何をしている」


 それはこっちのセリフだった。


「なにって...ニュース見ませんでした? ほら、ドラゴンの。 ワンチャンこの森に居ないかなって、探しにきたんです」


「そうか。愚かだな。ソイツはこの森にはいない」


 そういうと肩をわざとぶつけ、早足で去ってしまった。


 愚かだなって...アンタも探してたからこの森にいないって言えたんだろ?


 そう叫びたい!が黙っておこう、大人だからな。


 だがそう言われてしまうと下山したくなってくるが、あの人の言われた通りにするのは癪なので、少し探してからにしようとした瞬間、声が聞こえた。


「やっと行きおったか、小童め。


 おい、人間。ここはどこじゃ?」


 上だ。


 見上げると、全体的に丸っこく、ちんちくりんなドラゴンが小枝に乗っていた。


 ぬいぐるみのような見てくれだ。


「ド...ドラゴン!!!」


 なんだよいるじゃねぇか!ちゃんと探せよな。


「人間、聞いておるのか? ここはどこじゃ?」


「ここかぁ?ここは雷来山らいこうさんだぜ!


 そんなことよりお前、昨日のドラゴンか!?」


「昨日ぅ?」


「あぁ! 夜中に飛んでたじゃねぇか!


 だいぶちっちゃくなってるけどお前だろ?」


「んン〜? そうじゃったかのう。


 だとしたら、なんなんじゃ?」


 その言葉でハッとした。


 俺はドラゴンを見つけたかっただけで、それ以上のことは何も考えていなかった。


「...!!!... !...?」


 何も思いつかず、口だけが動く。


「口をパクパクさせおって、キモイのぉ。


 何もないならワラワは行くぞ、行かなければならないからの」


 青年はせめてもう一度飛び立つところを見たいと願う。


 その一心でドラゴンとその瞳を見つめ続けた。


 ドラゴンはピクリとも動かず、青年を見つめるだけであった。


「......行くんじゃないのか?」


「うるさい!お主がどっか行け!!」


 叫び声をあげ、小さな翼をはためかせた瞬間、腹の虫が鳴き声が響く。


 すぐさま翼をたたみ、恥ずかしそうに首を引っ込める。


「...腹減ってるのか?」


「...そ、そうに決まっておろう!! ...そうじゃ!


 貴様が下等種なのが癪じゃが、ワラワに飯を、恩をなすりつけることを許そうではないか」

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