第5話
歩佳ちゃんに憑りついていた幽霊、
会社の飲み会の帰りに例のホテルのある通りを歩いていたら後ろから襲われ、そのままあのホテルに連れ込まれてレイプされ殺された。次の記憶は壁の中で、地縛霊のような状態になっていたらしい。
三年前の事で名前も分からないそうだが、幸い歩佳ちゃんは絵が描けたので、例の警察官の父親を持つ友人に犯人の似顔絵を託したそうだ。
そこから先は警察の領分だろう。
「じゃあ、誠が見たあたしのそっくりさんはなんだったの?」
歩美の言葉に俺はお手上げのポーズを取る。
除霊をした日は全員グロッキーだったので、翌日の放課後に学校の近くの小さな公園に三人で集まっていた。
「歩美でもなければ歩佳ちゃんでもない。まるでホラーだ」
「歩佳が星野先輩とえちちしてなかったのはよかったけど、なんか気味悪いよね」
それについては本当によかったと思う。
幽霊の仕業とはいえ、知らない間に好きでもない相手と寝ていたらショック過ぎる。
歩佳ちゃんもそれが分かった時はホッとしていた。
「う~ん。一応統計的には、世の中には自分に似た顔の人が三人はいるっていうけど……」
歩美と並んでブランコを漕ぎながら歩佳ちゃんが言う。
無防備になったスカートの中身がチラチラ見えているが、俺は何も言わなかった。
「そんな偶然あり得ないだろ」
「そうだよ! しかも、あたしが持ってるのと同じ服着て、あたしみたいな雰囲気で、星野先輩とデートしてたんだよ? そんなの宝くじに十回当たるよりすごい確立でしょ」
「そうだけど、あり得ないような事だから偶然なわけだし。星野さんは見た目が同じならどっちでもいいみたいな人だったでしょ? 私達にそっくりな人を見つけたらほっとかないだろうし、お姉ちゃんの方がタイプだったから真似させたって可能性はあるんじゃないかな?」
「そう言われるとそんな気もするけど……」
「いやないだろ。そもそもの前提があり得なすぎる」
「そうだよ。お姉ちゃん、単純すぎ」
「はぁ!? 歩佳が言ったんじゃん!?」
「言ってみただけ。本気じゃないもん」
「あんたねぇ……」
歩美のジト目を受けて、歩佳ちゃんが肩をすくめる。
「それでも、一応可能性は検討しておかないと。幽霊だっていたんだし、そういう事もあるかもしれないでしょ?」
「まぁ、な」
ドタバタしている内に解決してしまったが、本物の幽霊の除霊現場に立ち会ったのだ。憑りつかれた歩佳ちゃんを見ただけで、幽霊そのものを見たわけではないのだが、それでも驚きだ。そんなものが現実に存在するなら、他人の空似だってあり得るような気がしてしまう。
「ひぃ!? せっかく忘れかけてたの怖い事思い出させないでよ!?」
ブランコから飛び降りると、ビビった歩美が正面に立ってパンツを盗み見ていた俺にすがりついた。
「聞いてよ誠君。お姉ちゃんったらあれから怖がっちゃって、お風呂もトイレも寝る時も全部私と一緒なんだよ?」
「ちょ!? 歩佳!? 言うなし!?」
「いいだろ別に。可愛いエピソードだ」
「うぅ、ばかぁ!?」
ぽかぽかと歩美が肩パンを繰り出してくる。
こういう時、俺は自分が宇宙一の幸せ者だと実感する。
「そっくりさん説以外にはなにかあるか?」
「はい! と、ととっ」
歩美の真似をして飛び降りようとして、歩佳ちゃんが転びそうになる。
「危ないってば!?」
歩美が飛び出して歩佳ちゃんを支えた。
そういう所はしっかりお姉ちゃんをしていて微笑ましい。
「へ、平気だもん!」
照れ隠しにはにかむと歩佳ちゃんが言う。
「実は私達は三つ子で、里親に出されたお姉ちゃんか妹がいるとか?」
「う~ん。他人の空似よりは可能性は高いか?」
「ないってば!? うちのお母さんとお父さんがそんな事するわけないじゃん!」
「そうだけど、念の為ね。あとは~……。実はお姉ちゃんは二重人格で、別人格が星野さんと付き合ってるとか?」
「やめてよ!? それじゃあ結局浮気してる事になっちゃうじゃん!」
「それを言うなら、歩佳ちゃんの中に歩美そっくりの人格が眠ってるパターンもあるんじゃないか?」
「二重人格説だったらそっちの方がありそうだよね。幽霊に憑りつかれるって事は意思が弱いのかもしれないし。お姉ちゃんに対する歪んだコンプレックスで自分の中にお姉ちゃんを作っちゃった的な?」
オカルト好きの歩佳ちゃんだ。この状況を楽しんでいるのか、平気な顔でそんな事を言い出す。
「そ、そんな事ないって! あたしなんかちょっと早く生まれただけだし、歩佳の方が凄いから! あたしより勉強できるし、しっかりしてるし、行動力だって結構合って色々すごいじゃん!?」
「お姉ちゃん。冗談だから。そんな本気にしないでよ」
呆れた顔で言うと、歩佳ちゃんは歩美の腕にぎゅっと抱きついた。
「でも、コンプレックスがあるのは本当だよ? お姉ちゃんは私に出来ない事全部出来て、綺麗な心の持ち主だって尊敬してるもん」
「確かに、心の綺麗さでいったら歩美の右に出る奴はそうはいないよな」
「それって褒め言葉?」
「もちろんだよ」
「なぁ?」
歩佳ちゃんと頷き合うと、歩美が拗ねたように口を尖らせる。
「けど、実際問題、他人の空似や三つ子説よりは二重人格の方がまだあり得そうな気がしちまうな」
「条件だけで考えればそっちの方が緩いもんね」
「やめてよ!? 自分の中に知らない自分がいるとか、幽霊並に怖いから!?」
「可能性の話だって」
「そうだよ。それに、二重人格は二重人格で、そうなっちゃう理由が必要だし。うちは幸せな中流家庭だし、そんな要素全然ないと思う」
流石オカルト好きと言うか、歩佳ちゃんの考察は一々もっともらしい。
「他にはなにかあるか?」
「ん~。オカルトになっちゃうけど、ドッペルゲンガーとか?」
「な、なにそれ?」
雰囲気だけで歩美がビビる。
「なにって言わても、ドッペルゲンガーはドッペルゲンガーだけど……」
「なんて説明したらいいんだろうな。幽霊ってわけじゃないし……妖怪……でもないし……」
「自分のそっくりさんが現れる怪奇現象かな? 色んな説があって一概には言えないけど、本人と関係のある場所に現れたりとか、自分のドッペルゲンガーを二度見たら死んじゃうって話もあるけど」
「ひぃっ!? なにそれ、ヤバいじゃん!? だってそのドッペルなんたら、星野先輩と付き合ってるんでしょ!? 誠みたいに街でばったり会っちゃうかもしれないじゃん!?」
「つっても、ドッペルゲンガーって幽霊みたいな感じで、普通の人間みたいにずっと存在してるイメージはないけどな」
「オカルトついでだと、バイロケーションっていう自分が分裂しちゃう現象もあるみたいだけど。その場合はもう一人の自分が勝手に行動してる感じ?」
「キモいキモい! そんなんなら三つ子とかそっくりさんの方がマシだし!?」
怖がりの歩美からしたらそうなのだろう。
「幽霊騒ぎの後だと、どっちが現実的かって話だよな」
以前の俺ならドッペルゲンガーなんて言われても鼻で笑うだけだが、今はそんな事も有り得るかもと思ってしまう。
「直接会えればはっきりするのにね。私もお姉ちゃんのそっくりさん見てみたいし」
それを聞いて、歩美がポンと手を打った。
「それだよ歩佳! うだうだ考えてないで本人に聞いてみればいいんじゃん!?」
「簡単に言うなよ。どこの誰なのか、そもそも本当に存在するのかも謎なんだぞ」
「そうだけど、星野先輩は現実に存在するでしょ? デートしてるなら、連絡先くらい知ってるんじゃない? なんなら正体だって知ってるかもしれないし!」
思いもよらない解決方法に、俺と歩佳ちゃんは思わずハモった。
「「確かに」」
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