魔性の女、知性の男
「結論、二年の二学期の終わりに、おまえは転校した」
「そう。
「面白くはなかったぞ。どろっどろの人間関係に石ころを投げてみたら、僕の知らないところで別の悪意が芽生えて暴走する。まったく話にならん」
「あなたは石ころを投げたんじゃありませんよ。あなたは蜘蛛の糸を垂らしたんです。それで
全くの的外れだったが、観察され尽くしたような気がした。
「なあ、おまえがなぜそこまで知っているか聞いていいか?」
「買いかぶりですよ。瑞紀はただ、そうなったら面白いなあっていう妄想を述べたまでですもの」
なるほど。珪と付き合っていたのは知らない、と見ていいか。いや根拠がないだけで、可能性を思われているかもしれない。もっとも、瑞紀が何を知っているのか確かめる
「…食えんヤツだな」
「瑞紀を食べたいなら、もっと凶暴に、もっと
いや、そういうつもりで「食えん」って言ったわけじゃないけど。
「破滅願望も甚だしい。僕は捕食者じゃない。ただの高校生さ」
「それは、あなたは、あなたのことを良く理解していませんから。生意気ぃとか、クソガキぃとか、大人から言われたりしませんでしたか? その気になれば、あなたは周りの人を捕食してしまいます。そう云う風に、
「それは洗脳か? 頼むから、僕は耳が弱いんだ。ひょっとしたらコイツ、僕に惚れてんの? って思ってしまうよ?」
「ほーら、その天然たらしの部分も捕食者たる性質ですよ。あなたはもっと誇らしげに、周りの人を巻き込んでいいんです。生ある限り獲物をお貪りください。かつて、あなたがしたように」
「僕はただの弱者だ。そんなの、強者がやることだ」
「いいえ、あなたは強者です。弱者は、強者に捕食されていく存在です。この社会は、そう云う風にできています。生き残るのはいつも強者。弱者の言い分は無意味で、価値などありません。この社会は、強者によって支配されて
僕は、フランス語の有名な一句を思い出した。
目の前の、ゴスロリ衣装を
「そうだな。おまえがそこまで言うなら、やってみるか。捕食ってヤツを」
瑞紀は言わず、満足そうな微笑みを浮かべて、僕から去った。
すると、二人の男子生徒が近づいてくる。それぞれホームルームで質問をして、
「今のコ、すんげー可愛かったよな! もしかしてカノジョ?」
先に話かけてきたのは山岸だ。
さて、どうしたものか。
ふだんの僕は、こういったチャラ男と接点を持つだけでストレスだ。しかし、今まさに瑞紀に洗脳されたばかり。普段しないことをやってしまう。
「えっ、そんな。
「へえ、そうなんだ。ま、無理もないか。キミ、女に耐性がなさそうだから」
さて、僕と瑞紀の会話を傍聴した人は、僕たちの関係をどう見るだろう。話の内容を理解している可能性は低い。それよりも、瑞紀の官能的な美声を聴いた僕のことをどう見ているかだ。まずは無難に女に耐性がなさそうなキャラを演じるとするか。
「はい。女の人がニガテです。なぜか話しかけられただけでドキドキしちゃいますし」
「でもいいのかな? 昨日の夜、商店街の方で知らない男と二人きりで歩いていたのを見たんだけど」
「うわ、マジ? 嫌だなー、かわいい子に限って彼氏がいるのは」
と、そこで広瀬は言葉を添えた。
「いや、彼氏と決まったわけじゃないぞ?実の父親かもしれないし、パパ活の利用者かもしれない」
「さすがにないだろ、それは」
「それが意外とあるんだよ。派手に着飾るコに限って親離れが早ぇからさ。あれがダメ、これがダメを言われない代わりに、あれもこれも自分で買うんだよ。そのお金、どこから来ると思う?」
「うわー、それはきっついわ。マジで」
「だからさ。キミ、ヤリマンに騙されてんじゃないよ! 嫌なことがあったら、すぐ相談しに来い。俺は
「
「
「なるほど、
「おう。よろしくな、ユージ、コーキ」
「メアド、交換しない?」
「そうしようかな」
どうやら思ったよりも、この二人はまともだ。ただのチャラ男、という風に片付けたくはない。気になる女子を攻め落とすために積極的にライバル候補との接触も図る。ユージはゴスロリ衣装から瑞紀の家庭環境を推理し、僕に説明した。そしてコーキはサポートを徹し、僕を観察する。優秀なコンビだ。
そしてベルは鳴り、科目ごとの教師によるオリエンテーションが始まる。
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