おまじない

 僕は死にかけたことがある。


 中学3年の冬、僕は同級生の長崎ながさきけいに告白された。

「大事な話。珪のことをもっと知ってほしくて、テツくんのことももっと知りたいの。珪はテツくんのことが大好き。テツくんと付き合いたいなあ」

 珪のことは大事だったし、断る理由もない。こうして僕と珪は付き合うこととなった。


 カップルとなった僕らが最初にやったのは、ライフスタイルのすり合わせだった。大雑把おおざっぱなルーティンというものをシェアし合った。起床時刻や登校時刻、好きなランチのおかず、放課後や週末の自由時間、オフにやっている趣味とか。ありとあらゆる話を僕らは話題にした。

 何となく、一緒にいられる時間もわかるようになって、アポを取ったりすることもなくなった。

 もはや行くところまで行った。

 新たに芽生える命のことを考えたりもしたけれども。

 そして、最高のリアルがやってきた。


 大地の怒りに、僕らは抗えない。

 ただ無造作むぞうさに、無慈悲に、無意味に、理不尽に殺される。

 天井が落ちてきて、僕は下敷きとなった。

 さようなら。父さん、母さん、珪。願わくば来世も親子でありますように。願わくば来世も恋人でありますように。

 しかし、僕は死ぬのを許されなかった。

 傷だらけの珪の姿は、そこにあったからだ。

「生きて」


 崩れ落ちた。

 僕の夢、僕のたからもの。

 僕は、ありとあらゆる涙腺で泣きじゃくった。

 僕は、ありとあらゆるのどでさけわめいた。

 僕の中に珪は生きているはずだと。

 しかし、勘違いするな、珪は死んだ、珪は死んだんだと。


 さりとて僕はマルクス主義者としての才能を持っている。

「長崎さんは君の中にいるよ」

 そんな高橋たかはしさんの慰めに何も感じないほどに。


 珪よ。

 この滅びた世界に、僕を置き去りにした珪よ。

 生きてって、どないして?

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