お出かけ
時は夏の終わり、朝4時。太陽が昇る直前である。
僕はあることが気になったので、図書館に行こうと思った。
この道を歩くのは久しぶりだ。
この四週間、食料庫にしか行ってきていない。というのも、食料調達をする以外、出かける必要がなかったからだ。
起きて、飯食って、ゲームして、本を読んで、クソしてシャワーを浴びて寝るだけの日々だったが、割と楽しい。誰かを必要とせず、誰にも必要とされないから。
僕は今、かつて夢見た生活を満喫している。ところが気になることがあった。なぜ何もかもなくなったのか。人も、虫も、鳥も、木々も、花も、みーんな消えた。別に困ることではないが、消えたわけが気になる。あるいは完全に絶滅したわけではなく、どこかでこっそり生き残っているかもしれないし、本当に滅んだかもしれない。確かめるためにも、図書館に行きたい。
当然、図書館に誰もいない。
本がぎっしり詰まっている棚の上に灰が積もっている。
僕の目的地は、中央コンピューターだ。あそこから巡回ドローンや記憶アーカイブにアクセスできる。便利な施設だ。
まずはドローンから調べる。世界中で飛び回るドローンから映像が届く。
砂漠。都市廃墟。岩石砂漠。砂漠。岩石砂漠。都市廃墟。発電所。岩石砂漠。岩石砂漠。磯。岩石砂漠。都市廃墟。都市廃墟。汚水処理施設。岩石砂漠。磯。
生き物らしい生き物はどこにも見つからなかった。どうやら本当に滅んだらしい。
岩石砂漠とか都市廃墟の百景巡りはすぐに飽きたので、記憶アーカイブを調べることにする。記憶アーカイブとは、記憶を蓄えてアップロードしたり再生したりするデータベースのことだ。脳をスキャンしながら思考や想像をすることでアップロードを行い、脳に電気信号を送ってもらってアップロードしたものを再生する。
現在、僕が思い出したい記憶を考える。ここ数年の記憶は静かなものだ。朝起きて、飯食って、ゲームして、本を読んで、クソしてシャワーを浴びて寝るだけの日々だったし、夢見ていた生活そのものだ。別に思い出したいとは思わないが。
ならば遠い昔の思い出にしようか。幼児の頃。小学生の頃。中学生の頃。高校生の頃。いずれも記憶アーカイブから再生できる。記憶アーカイブに頼らずとも思い出せるが、記憶アーカイブの再生というのはかつて思い出した頃の記憶だ。たとえば同じ人の小学生の頃の思い出と言っても、40歳の時に思い出した内容と45歳の時に思い出した内容とでは、微妙に違うはずだ。
僕が今、調べたいものはまさしくこれだ。今思い出す内容とかつて思い出した内容との違いで、世界滅亡の謎につながる手がかりが現れるかどうか。
僕は再生用ヘルメットを被った。
再生開始。
記憶の風景を見た感想を、敢えて古い歌の歌詞で述べよう。
『青空に残された
私の心は夏模様』
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