低層のボスとかぶっちゃけ雑魚と変わらん


 ダンジョンには基本的にボスというものが存在している。

 

 今、主人公がいるダンジョンもその例に漏れず、ボスが存在してる。


 ボスには様々な基準があり、出てくる階層や出現方法にどんな魔物がボスとして存在しているのか等々、文字通り千差万別であるが、今回潜っているダンジョンにおいては凄くシンプルに分かりやすく統一されている。


 ズバリ、10階層を節目として現れるだ。


 いわゆるボス部屋というものである。


 10階層ではゴブリンの王、ゴブリンキングが取り巻きのゴブリンを入って来た人数×10引き連れて現れる。


 ゴブリンキングの討伐難易度で言えばゴブリンを数倍強くした程度であるので、ある程度熟練した冒険者にとってみればさして労せずに倒せるような相手である。


 ただ、問題はそこではない、取り巻きのゴブリンとそれを指揮するゴブリンキングという存在である。

 ゴブリンキング自体はそこまで強くない、しかし、キングとついてるだけあり、その指揮能力は非常に高く、今まで容易く倒せていた筈のゴブリンがゴブリンキングによって指揮されただけで屈強な軍隊へと変わり、ゴブリン程度ならば余裕だろうと、

甘い考えてボス部屋に入って来た冒険者を幾度となく地獄に叩き落していた。


 ついたあだ名は初心者殺しであった。1~9階層でゴブリンを簡単に倒して、余計な自信をつけてしまった初心者を一切の容赦なく屠るもの。

 大体週に1回のペースでボス部屋によって冒険者が殺されていた。


 ただ、もちろんそれ相応の旨味がある。


 ボスを倒すと宝箱が出るのだ。


 宝箱、それはダンジョンに存在している摩訶不思議な箱であり、より深い階層に行けば行くほど出やすく、また良い物が出やすいとされているものである。


 そんな宝箱がボスを倒すと確定で出てくるのである。


 10階層の宝箱である為、中にはさして価値のない、武器や防具、酷いときは薬草なんかで終わる時もあるが、極稀にであるが、金貨10枚以上の価値がある魔法の武器や防具、果ては値段をつけることすら出来ないような至高のアイテム、ありとあらゆる全ての傷を癒す能力を持った【霊薬・エリクサー】が出たこともあった。


 その為、10階層ではあるがボス部屋に挑戦をする者は後を絶たなかった。


 そして今、とある二人組がそんなボス部屋に挑戦をしようとしていた。







――――――――――――







「おお。ここが10階層、いわゆるボス部屋って訳か」

 9階層の階段を下りた先に広がっていたのは、大体縦横50メートル程あるそこそこ広い空間と、その奥にある大きさ5メートルの馬鹿でかい門であった。


 本の情報によれば、この門を開くと中にボスが待ち構えており、倒すと宝箱を落として次の階層へと進められるらしい。

 ボスはゴブリンキングらしく、初心者殺しなんて呼ばれてるらしいが、まあ俺とイトの敵じゃあないな。


「ボス部屋・・・凄い、大きな門ですね」


「そうだな。イト、一周回って惚れ惚れしそうな大きな、それでいて何とも俺のオタク心をくすぐる門だわ」

 

「ご主人様が嬉しそうで、イトも嬉しいです」

 

「よお、見ない顔だな?ここは初めてか?」

 俺がイトと軽くイチャイチャしてたら、ボス部屋の前で座っていたパーティーの中にいる30代後半くらいの少し髭の生えたおっちゃんが話しかけて来た。

 装備品は皮鎧と短剣が数本、おそらく罠探知や鍵開けを行う盗賊のような役割をしてるのだろう。

 

「おい、タロウ、ここはダンジョンだぞ。ボス部屋の前の安全地帯とはいえ、いきなり知り合いでもないのに話しかけるのはマナー違反だ」

 隣にいた鎧を着こんでいる女騎士が一瞥する。

 顔は兜で隠れている為に見えなかったが、声の感じから多分20代後半くらいかなと予想する。


「おっと、そうだったな。すまない、すまない。いや~何となく異世界といったらこういうボス部屋の前での他の冒険者達との会話みたいなイメージがあってな」

 おっちゃんが気になることを言う。


 異世界?といったか。

 もしかしなくても俺と同じ異世界転生者か?


 まあ、でも4年に1度のペースで召喚されるらしいし、毎回何百人と召喚されてそうだし、いてもおかしくはないか。

 まあ、でも俺が同じ異世界から来たってことをわざわざ伝える必要はないかな?神器の件もあるし、俺は一点物の神器だから問題ないけど、複数に分裂してる神器だと勘違いされて狙われたらたまったもんじゃないしね。


「えっと、貴方たちは今からこのボス部屋を挑戦する感じですか?」

 一応初対面だし軽く敬語を使いつつ質問をする。


「おう、そんな所だ。今はさっき入ってた冒険者が挑戦していてな。俺らはそれが終わるのを待ってるのさ」

 予想通りの回答が来た。それもそうだな。


「なるほど、じゃあ、私も待っていましょうか。イトもそれでいい?」


「ご主人様がそう思うならそれでいいです」


「よし、じゃあ一緒に本でも読んで待ってるか」


「はい」


 俺はこのダンジョンについて書かれている本に本の神器を変更させてから、イトと一緒の本を読み始める。

 やっぱり情報収集は凄く大切だからね。


「その本、今明らかに変化しなかったか?何か特別な魔道具か?良かったら見せてくれよ」

 さっきの盗賊のおちゃんが話しかけて来る。

 正直ウザいというか、常識的に考えて他の人の持ってる魔道具見せてはマナー違反だろ。

 ここはまあ魔道具って誤解させたまんま適当に誤魔化すか。


「まあ、そんな所だ。後残念だが見せることは出来ない、今俺が使ってるんでな」


「そうか、それは残念だ」


「おい、タロウ、それもマナー違反だぞ。すまないうちのパーティーメンバーが迷惑をかけてしまって」

 女騎士さんが謝ってくれる。

 いや、このマナー違反しまくりおっちゃんに謝らせろよと思いつつ、気にしてませんよ的なことを言う。


「おい、あんた、その本、本当に魔道具か?」

 また質問をしくてる。少しイラっとしつつ、適当に答える。 


「しつこいな。そうだよ。魔道具だよ」


「そうか、お前、つまんない嘘つくね」

 唐突なパロディネタだと・・・。それに、何故断言できる。いや待てこいつは十中八九異世界人だ。となると神器を持ってるだろう。嘘を見抜ける神器を持っていても不思議じゃない。


 ヤバい、これは俺のミスだ。


 さて、どうしようか?


「タロウ、どうした急に、いつものお前らしくないぞ」


「いや、何だ。あんた二人組が来た時から疑問だったんだよな。その一切傷のついてない装備品。ダンジョンでは激しい戦闘をするのでつける人のほとんどいないメガネを付けている点。そして何より俺らオタク達の手によって差別の大分減った獣人だが、それでもまだ根強よく差別意識が残っているはずの獣人を奴隷の首輪等も付けずにまるで恋人のように接している点。この3点だけで明らかに怪しすぎる。

何よりも決定的となったのは、俺に多少ではあるが敬語を使った点にその変化する本が魔道具じゃあない、つまり神器だという点だな。

以上の5点から結論付けられるのは、お前が異世界人だということだ」

 意見がごもっとも過ぎるな。

 確かに言われてみればその通りだ。ここで誤魔化しても意味はないかな。


「ハア。正解だ。確かに俺は異世界人だ。それで、タロウといったか?あんたは俺と敵対でもするのか?」

 もしも敵対するようなら殺す。

 一切の容赦も慈悲もなく殺す。俺はそう覚悟を決めた。


「いや、しないよ。ただ久しぶりに同郷の仲間に出会ったんだ。良かったら少し話でもしようぜ」

 眼鏡で見る。

 本当と出た。

 まあ、それなら、いいかな。


「それならいいぜ」

 俺はイトと手を繋いだ状態でおっちゃんのいるパーティーメンバーの元まで寄る。


「手を繋いで来るとは、あんた相当にそのお嬢ちゃんに惚れこんでるな?」

 軽く茶化してくるが、まあ事実なので受け入れる。

 正直こんなに可愛い、イトが悪い。俺は悪くない。


「当たり前だろ」


「もう、ご主人様ったら」

 照れてるイトも可愛い。


「まあ、いいや。それで?あんた名前は何ていうんだ?」


「俺の名前は、ケンジだ。まあさして珍しくもない名前だよ。そういうあんたはタロウって名前であってるか」


「そうだよ。俺の名前はタロウだ。持ってる神器は秘密と言いたいところだが、俺はお前の神器を一つ、いやメガネも含めて2つ知ってしまってるから、2つだけ教えてやろう。じゃないとフェアじゃない」

 

「教えて貰えるってんなら、教えて貰おうかな」


「俺の神器はこの腰にある短剣の神器と今手に嵌めている正義指輪の神器だ、正義指輪の神器ってクソダサい上に言いにくい名前してるんで、俺は勝手に正義の指輪って呼んでる」


「なるほどね、じゃあ、俺の言葉を嘘と見抜いたのはその正義の指輪の効果って所か、名前的に正義を行うために相手の言葉が真であるか偽であるか見抜くとか?そんな感じか?」


「おう。大正解だ。まあ、まだまだ他にも効果はあるがな。これでも俺って結構強いんだぜ」


「そんな強い奴がなんでこんな10階層という低階層にいるんだよ」


「それはだなあ」


「おい、タロウ、同じ異世界人ということで口が弾むのも分かるがその情報は駄目だ」

 深くフードを被って顔はよく見えないが身長は大体1メート80はありそうな、巨漢の男性が低い声を鳴らす。

 何となくこのパーティーのリーダーって感じがする。

 因みにパーティーメンバーは4人で、最後の一人はフリフリのドレスを着ていて魔法のステッキを持った女魔導士?魔術師?魔法使い?だ。

 

「おっと。確かにそうだな。すまない。忘れてくれ」


「いいぜ、別にそこまで気にあるって分けでもないからな」


「それはありがたい。あ、一応俺の今所属しているパーティーの名前は【竜滅の牙】っていうんだ。これでもAランクパーティーをやっている。何かあれば頼ってくれ。多少は安くしてやるよ」


「いや、お金は取るんかい」


「当たり前だろ。こっちだって慈善事業をやってるわけじゃないしな」


「まあ、確かにそれもそうだな」




ゴゴゴゴゴゴゴ




 割と気分よく話していたら、ボス部屋の扉が開く。


「あ。ボス部屋空いたんでな。俺は行くわ。じゃあな」


「はい」


 かくして4人組のパーティー【竜滅の牙】は10階層のボス部屋へと挑んでいった。


 


 

――――――――――――


まだ、モチベーションはあります。

多分。


面白いと思っていただけたら星やハートを入れて頂けると嬉しい限りです。

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