前進

藤間伊織

前進

ああ、腹が立つ。

いくら緊急事態でもこんなところにはいらなきゃいけないなんて。


入ったのは少女の意思なのだが、そうでも思わなければ収まりがつかないのだろう。


汚い、暗い、臭い……3Kってこの三つだったかな。


少女は今暗くて狭い通路を歩いているのだ。彼女の小柄な体でさえかがまなければ通るのが難しい、道とも呼べないような道。しかしそんなに嫌なら出ればいいはずだ。


あー、うざったい。


そう思いつつ少女は進んでいく。どれだけ進んでも見えるものは変わらない。そろそろ腕と膝が痛くなってきたころだろう。


はあ、イッタい。ズボンの膝切れてるし……。最悪。意識するとますます気になる……。


暗闇に少女の呼吸音のみが響く。


ほんとうにふざけてる……。あ、鼻血出てきた。


ぽたぽたと落ちる鼻血。しかし気にしている暇はない。できるだけ上を向いて進むことにしたようだが、本当なら下をむいて鼻を優しくおさえねばならないところだ。


ティッシュもないし、止まってる時間もないし仕方ない……。


またしばらく進む。どこまでいけば、いいのだろうか……。そもそも終わりなど、存在するのだろうか。


早く外に出て自由になりたいよ。おなかもすいたしのどもかわいた。


どれだけ弱音を吐いたところで状況は変わらない。それならさっさと前に進んだ方が得策だというのは明らかだ。


…………。なんか、頭痛い。吐き気もするし。あれ、涙?泣いたのなんていつぶりだろ……。涙ってこんなにぬるぬるしてたっけ?あはは。


少女はゆっくり後ろを振り返る。そう、振り返る。


え、まだ大丈夫だよね?


…………………………


何これ、砂嵐?テレビ画面でもあるわけ?私の後ろに。段々荒くなってる……?


「なに、これ。手?こんなの見たことないよ?なんでそんなに伸びてるの。触らないでよ。やめてよ。近づかないで!あっ」


ズサッ


「痛……。あ、離して……!あ、足が……ひびが入っ……やめて……」


ズルル


「離して!……離せ!ねえ、ちょっとどういうこと?何とか言ってよ!」


ズゾゾ

パキ、バキ


「さっきまでナレーターぶってふざけてたじゃん!ねえ!『観測者』!」


ベキバキ


「まさか……!はかったな‼ふざけるな!じ、じ、自分だけ、に、逃げようってんのか‼」


ズズ


「指がぬめって……!くそ!だ、誰か」


パキン


「え、割れた……」


ズリズリ、ザッ……



少女は砂嵐に飲み込まれた。後には静けさと掠れた何かの跡が残るのみ……。


はぁー。このおふざけも飽きたな。


ねえ、君が悲痛な声で求めた『観測者』は……




いやしないよ。精神崩壊少女。あはは。



私は君で君は私。

私はいつでも一緒にいた。

そしてこれからも。


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前進 藤間伊織 @idks

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