手続き

「利用者名、白鳥航しらとりこう様。ご契約者名、白鳥龍二りゅうじ様。続柄、父」


どこだ、ここ。


「お間違いありませんか?」

「え?ええ」


質問したいことはたくさんあるのに、逆に質問されてしまう。

この人……俺の人生観察員?


「では……本人確認のため、少々失礼します」


ピ。

額に変な機械を当てられた。


「はい。本人確認が完了いたしました。」


「あの……ここは?」


「白鳥様はご自身の人生を終了なさいましたので、この事務所に強制転送されたのです。そして、これから人生観察員サービスを利用なさることになっております」


何も言えないでいると目の前の男が再び口を開いた。


「そのご様子ですとまだ記憶が曖昧なようですね。いえ、問題ありません。そういう方は一定数いらっしゃいます。しかしそのままではサービスを利用にされるあたり、少々不都合がございますので、私の方から手短に説明させていただきますね」


そこで扉が開き、スーツ姿の若い男性がコーヒーを運んできた。


「まず、人生観察員サービスですが本サービスはご利用者様の人生におけるイベントを観察し、記録するものです。そして、ご利用者様が人生を終えたときその記録をお渡しする、という流れになっています」


「え、人生観察員ってそういうものだったんですか」


「なぜか今ではご存じでない方も多いですね。

では、サービスについて理解していただいたところで、ご覧になりますか?」


「それ……なんの役に立つんです?」

生きているころは人生観察員の価値は社会になじんでいたが、それはサービスを利用する難易度によるものであって、それ以上でも以下でもない。今更記録が何だというのか。


「例をあげて説明しますと、単純に自分の人生に満足していただくため、それからオプションで生きているご友人にディスクとして渡すことも可能です。あとは……遺族の方からの要望があればまた別なオプションも……」


「はあ」

正直よくわからない。


「最近では別に見なくていい、と拒否される方も珍しくありません。御社としましては、本来の利用法ではなくてもご利用者様が満足する形であれば関与しない方式をとっています」


「じゃあ、別にいいです」


「かしこまりました。では、亡くなった後に必要な手続きもありますのでご案内させていただきます。あちらの世界でのお役所のようなところです」


目の前の男性について部屋を出る。結局口をつけなかったな、コーヒー。


そうして、俺は死んだ。






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