第19話 聞いてくださいお父様

 それから『めろでぃしあたー』は大盛況。色々なところからお客さんがやってくる。

 グッズの売れ行きも良く、ペンラは常に入荷待ちの状態だ。


「リリアンナ様、まいど!」

「ああ、やっと来た」

「職人も増やしたんですけどね、なかなか追いつかなくて」

「それはいいことね」


 細工できる業者を探してモンブロア中を訪ね回った甲斐があったわ。

 やっぱりめろでぃたいむで起きた需要はモンブロアで消費したいものね。


「回せ~回せ~! 経済回せ~!」


 そして税収が増えれば、我がシャンデルナゴール家も安泰と言うわけ。


「リリアンナ様、奉仕活動の時間ですよ」

「あ、はーい」


 最初にめろでぃたいむの名前を売るために始めた清掃活動は、今は週に一回行うことにしている。いずれスタッフだけがやればいいと思うのだけれど、今のところみんなやりたいと言ってくれているので。

 お掃除が目的なので、無駄なお喋りをするのは禁止しているけど、今はファンの方ももくもくとゴミを拾ったり、雑草を抜いたりしている。おかげでワーズの街の道はピカピカだ。


「うーん……でもねぇ」

「今度はどうしたリリアンナ」


 掃除をしながら渋い顔をしている私に、ラインハルトが首を傾げる。


「道は綺麗になったけど、相変わらず街はしょぼいな、と思って」


 ライブが終わると、ワーズに一軒だけある喫茶店は満席になる。


「そうだなぁ。宿や飲食店がもっとあるといいんだけど、これまで長いこと不況だったんだ。お金も人も動かそうってなると、そうそう体力は持たないかな」

「……だったら、補助金を出したらどうかしら」

「リリアンナ、僕はこの間融資して貰ったばかりだから、またというのは難しいよ」


 ラインハルトが残念そうに言う。ううん、違うの。


「ラインハルト、今度は私が首都に行くわ」

「それって……」

「お父様と話をしてみる」


 意を決して、私はその言葉を口にした。

 いい加減、こそこそするのには限界がある。ここはきちんと話をして、めろでぃたいむというアイドル事業が今、この街に特需を生み出していること、そしてその為には補助金を出して周辺にお金を落として貰うことが税収アップに繋がるとお話しないと。


***


「はぁ……と言っても憂鬱」


 私はちょっとため息を吐きながら、首都に向かって馬車を飛ばした。

 そして久しぶりの我が家に、私は足を踏み入れた。


「リリアンナ!」


 とりあえず待たされていた居間に飛び込んできた、お父様。わぁ、もう怒っている。


「勝手にモンブロアを出てきてなんのつもりだ」

「そのモンブロアについて、お話があったので一度戻って参りました」

「どういうことだ」


 そこで私は、この間作った資料を出した。


「こちらをご覧下さい。私は歌って踊る女の子たちを監督して、その公演を通じ、モンブロアに再び人を呼び戻しました。しかし、せっかく人が来ても今のモンブロアには宿も店もありません。ですから、領主であるお父様から、関連する新事業について補助金を出していただきたいのです」

「ちょ……ちょっと待て、理解が追いつかん」


 お父様は混乱しているようだ。まあね、田舎に閉じ込めたつもりの娘が、いつの間にかお荷物領地の改革に手をつけようとしているのだもの。


「お父様、私とても楽しいの。毎日発見があって、どうしたらもっと良くなるか考えて、一緒に頑張る仲間が居て……。そんな仲間の運命を背負ってここにいるのよ」

「リリアンナ……しかしお前は王子とだな」


 まだそんなこと言っているの。私は思わずため息をついた。


「王妃としてロイド王子の横にただ居るだけなんて、今は考えられないわ。私はモンブロアを良くしたいんです。私の大事な大事な『めろでぃたいむ』と一緒に」


 そう言い切った私を、お父様は驚いた顔で見ている。じーっとしばらくにらみ合うみたいにして私たちは見つめ合った。

 そして、先に根負けしたのはお父様だった。


「……分かった。補助金を出したい商売の内容と計画を文書で寄越しなさい。それに見合った金を出そう」

「わぁっ、ありがとうございます! お父様、大好き!」

「やれやれ……」


 こうして私は補助金の約束を取り付けた。そして役所を通じて、告知し希望者を募る。その中からしっかりと計画立てているものを厳選してお父様の元へと送った。

 ああ、実家が太くて良かった! この補助金を得て、ワーズの街はまた元のようにお店が次々と出来ていった。首都からの馬車の定期便も通り、それに乗って『めろでぃたいむ』の客が来る。

 その客達は宿に泊まるし、食事もするし、買い物にする。

 生まれ変わったワーズの街の大通りを見て、スージーが嬉しそうに言う。


「リリアンナ様は、まるで大魔法使いみたいですね!」

「そんな立派なものじゃないわよ」


 元々はどうしようもないスキルのせいでここに来ただけ。

 でも今はこのスキルに感謝してる。だってこんなにやりがいのある日々を送れているのだから。


 ――だが、楽しいばかりの日々は長く続かなかったのである。

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