第20話 ライバル登場!?

「リリアンナ様、聞いて下さい!」

「どうしたの、スージー」


 ようやっと穏やかなお茶の時間も取れるようになったのだから、少し静かにして欲しいと思ったが、スージーの表情は深刻だ。何があったのだろうか。


「これを……見て下さい」

「ん……なになに、これは……お客さんの属性分析?」


 いつの間にこんなものを。そこにはチケットを買ったお客さんの公演ごとの大まかな年齢性別が記されていた。


「私、チケット売り場の監督じゃないですか。そしたら……ここのところ女性のお客さんが極端に減っているんです」


 売り上げ報告だけ聞いていたから気づかなかった。全体のお客さんの数は増えているが、女性比率が減っている……。


「これってどういうことなんですかね?」

「うーん、女性客からの支持が離れていっているということ……?」


 女子ドルにとって女性ファンというのはファン層の裾野を広げるために大切な存在だ。前世でも、新規の女性ファンを増やすためにかっこいい楽曲を作ったり、女性限定エリアやイベントをするグループはあった。

 だけど、それはいろんなアイドルグループがひしめくアイドル戦国時代の話であって……。とすれば『めろでぃたいむ』が女性に受け入れられなかったということになる。


「そんなはず……だって、私の理想のアイドルなのよ?」


 それがこの世界ではずれてるってことなのかもしれないのけど。でも、それにしてもこれは看過できない。男性客の増加が頭打ちになった時に頼りになるのは女性客だし、それに『めろでぃたいむ』のお客さんとはつまり、このモンブロア活性化に必要なお客さんだということなのだ。


「それにしても……何か変」


 スージーの記録を見ても違和感がある。ある日を境にがくっと数が下がっているからだ。


「首都に行くわ」

「リリアンナ様!?」

「きっとそこで何か起こっている」


 これは私の勘。でも根拠が無いわけではない。首都は流行の始まりの場所。こんなに激しい変化があるということはそこで何か起こっているのだ、と私は考えたのだ。


「なぜ幾人もの女性ヲタが他界したのか確かめなくては」


 私は、それからすぐに劇場のことをスージーに任せ、ラインハルトとともに首都へと向かった。


***


「さて、どうしようか」

「もちろん新聞を買うわ。最新のやつをね」


 この世界では情報伝達はゆっくりだ。だってラジオもテレビもインターネットもないもの。なので、最新情報に触れたければ新聞を買うか、社交界の噂話に聞き耳を立てるか、なのである。今回は当然前者。


「どれどれ……」


 政治欄も社交欄もすっとばして、私たちが注目したのは芸術や美術の論評である。


「……これよ」


 そして私たちは元凶を見つけた。私の指さした記事はこうだ。首都に現れた新星。巧みなダンスと歌を魅せる青年たちに、都の乙女達は腰砕け。……だってさ。


「これ、グループ名がロイド☆βロイドスターベータって」

「……ん? それって」


 私とラインハルトは顔を見合わせた。今、ロイドって言ったわよね。思わず、新聞記事を見返す。確かにそこにはロイドと書いてある。


「男性アイドル……! なるほどね。あの王子、ライバルグループをぶつけてきた訳かぁ」

「いいところを突いてきたな。今夜、公演があるみたいだ。どうする?」

「当然行くわ!」


 私たちは、首都に一泊することを決め、劇場に向かった。


「こんばんはー、皆さん!」

「きゃあああ!」


 劇場は若い女性で一杯だった。

 出てきた五人の男性たちは揃って、見入ってしまう程のイケメン揃いだ。中央、センターは正統派金髪イケメン。少しアンニュイな長髪イケメン、元気な小動物弟系イケメン、クールな黒髪、俺様っぽい赤毛男子。


「いいバランスだわ」


 キャラがいい感じに散ってるのは、それぞれのファンの好みをキャッチできる。

 問題はライブの内容だ。私たちはじっくりと公演に集中した。




「「……」」

「……どうだった?」

「言ってもいいかい、リリアンナ」


 私たちはじっと見つめ合って、息を吸い、そして吐き出した。


「「あいつアイドルがなにか分かってね~~~~!!!!」」


 あ、まずい。通りを歩いている人がこちらを見てるわ。


「ラインハルト、いったん宿に戻りましょう」

「ああ」


 そして私たちはホテルの一室でテーブルを挟んで対面に座った。


「はー……」


 思わずでっかいため息が出てしまう。


「なんかただ顔のいい男が歌って踊ってただけだったわね」


 レスもコールもなかった。私には退屈に見えてしまった。


「そうだな……しかもあのセンス」


 ラインハルトが拳を握りしめたのが見えた。


「まんま宮廷音楽じゃないか! アイドルソングはそうじゃないからこそ魅力的だと僕は思っているのにっ」

「ダンスもそうだったわね。素材がいいだけにもったいなかった」

「……リリアンナ、首都にもう一泊する」

「ラインハルト、どうしたの?」


 ラインハルトが座った目をして、いきなりそんなことを言い出した。


「僕は曲を書く。あのロイド☆βに」

「そんな……相手はライバルなのよ?」

「だからだよ! リリアンナは悔しくないのか? あれがアイドルだと思われることに!」


 そんなこと言われたら……そんなこと言われたら……。


「私だってそうよ! これじゃ私たちとファンの間で作ってきたアイドルという世界観が台無しじゃない。あれを見てアイドルだと思って欲しくないし、お客を取られたのも悔しいわ!」


 はぁはぁ、一気に吐き出して息があがってしまった。


「そうだろう。だから僕は曲を書く。彼らが輝ける曲を、あえて提供したいと思う」


 ラインハルトの静かで熱い闘志が伝わってきた。

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