第9話 私たち、『めろでぃたいむ』です!

「それでは、教会チャリティライブ開催です!」


 私は開会を高らかに宣言した……けど客足はまばら。これでも町中にポスター貼ったり、知人に手紙を書いたりしたのよ。


「全然、観客いませんね……」


 今日の手伝いにかり出されているスージーがぽつんと漏らした。


「ふ……最初はそんなもんよ。いいわね、ここにいる人たちは最古参のファンになるのよ……」


 強がりじゃないもん! ……でも、寄付が増えるなら、と快く場所を貸してくれた教会のためにも、もうちょっと人が集まってくれたら良かったな。

 とは言え、『めろでぃたいむ』としての初ステージがいよいよ始まるのだ。私は教会の中に作った舞台の袖に向かった。


「みんな、張り切っていきましょう!」

「プ、プロデューサー……」


 なんでみんな冬眠中のテントウムシみたいになっているのよ。


「ああああ足がガクガクしてぇ……」

「セシル、あんたは子鹿なの!?」

「違うもん……」


 セシルを怒鳴りつけているクリスティーヌも額に汗をかいている。


「はいはい、みんな落ち着いて。みんなこの日の為に散々練習したし、リハーサルも上手くいったでしょ。あとは本番あるのみ。ね?」

「はい……」

「私はみんなのこと信じてるわ! では気合い入れしましょう」


 私はぐっと拳を前に突きだした。


「さあ、みんな一緒に」

「はい!」


 私の号令でみんな拳を突き出す。さあ、行くわよ。


「めろでぃたいむの合い言葉!」

「歌とダンスで! みんなを元気に! かわいいこそが!」

「「世界を救う!」」


 バッと全員がそのまま拳を上に突き上げ、手のひらを広げた。はい、これで不安はお空にいきました。っていうおまじない。前もって決めておいてよかった。


「では行きます!」


 キャロルが先頭を切って、舞台へ一歩踏み出した。その先にはめろでぃたいむの幕が張られ、今日のために呼んだ楽団が待機している。

 キャロルに続いてそれぞれメンバーは舞台に上がり、ポジションについた。


「いってらっしゃい」


 私は舞台の袖から、彼女たちを小声で見送った。


「……今日はお集まりくださり、ありがとうございます。『めろでぃたいむ』です。私たちは、この教会の孤児院で育ちました。歌とダンスでここを……この街を元気にしたいです! では自己紹介します。まずは私から……」


 キャロルはすうっと息を吸い込むとポーズをとった。


「ピンクのハートで包んであげたい、みんなの天使、キャロルです」


 そして、アイラが前に進み出る。


「見つめて、きらりと光る赤い星☆ アイラです」


 他のメンバーも続々と自己紹介をはじめた。


「はーい、イルマお姉さんですよー。よろしくお願いします」

「転んで泣いても、とにかくがんばるセシルです」

「名前くらいは覚えていってよ、クリスティーナです」

「みゃおみゃおにゃんにゃん、モモだにゃ~!」

「僕に恋したら痛い目みるよ! ルルです!」


 ……決まった! 徹夜して考えた甲斐があった。


「なぁ、リリアンナ。あれ要るのか? 客、ちょっとひいてないか?」

「なによ、それぞれのキャラクターを印象づけるためなのよ。思い切りよくやらなきゃだめ!」


 ラインハルト、その疑わしげな目はやめなさいって。


「それでは聞いて下さい。私たちの自己紹介ソングです! 『めろでぃたいむ』」


 キャロルが視線を送ると、楽団が曲を奏で始めた。

 私はごくりとのどを鳴らした。ここから、今、『めろでぃたいむ』の時間がはじまる!


***


「はい撤収~、来た時よりも美しく~」

「「「「「「はい……」」」」」」


 ライブは終わった。物販も。戸惑い顔の観客を残して。寄付はまあまあ集まったみたいだけど、グッズは全然売れなかった。


「みんなで作ったのに……にゃ」


 モモが悲しげにリボンチャームのキーホルダーを箱に詰めている。


「なんだ、あいつら一生懸命歌ってんのによ!」

「そんなこと言っちゃだめよ」

「なんだよ、イルマ。年上づらすんなよ!」

「喧嘩はやめてよー」


 クリスティーナとイルマが揉めだして、セシルは涙目になっている。


「まー、私たちのパフォーマンスじゃこんなもんってことなのよ」


 アイラ、あまり今その現実を突きつけるのはやめよっか。

 その時、ずっとうつむいていたキャロルが顔をあげた。


「みんな、たった一回上手くいかなかっただけでしょう。これから何度もステージはある! 私たちはがんばるのみ! でしょ、プロデューサー」

「キャロルの言うとおりよ。ファンは作る物だもの。この一回でへこたれないで」


 私は必死でメンバーを鼓舞し、なんとか寮へと送り届けた。


「ふう~」


 私は書斎の椅子に座ると、深いため息をついた。ずっと気を張ってるの疲れた~。

 そんなひとときの休息もつかの間、部屋の扉が叩かれる。


「リリアンナ、呼んだかい」

「ええ。入ってちょうだい」


 そう私が答えると入ってきたのはラインハルトとスージー、そしてキャロルとアイラだ。


「さ、今日の反省会をするわよ」

「あのー……私、お手伝いでは?」


 スージーの顔にはおっきなハテナが書いてある。


「それを言ったら、私たちはもっとなんで呼ばれたのか分からないです」


 キャロルも戸惑い顔だ。


「スージーはこれから『めろでぃたいむ』のマネージャーになって欲しいの。意見がなくても聞いておいて欲しい。それからキャロルとアイラは初見のお客のしょっぱい反応は体験しているでしょ。他のメンバーは今頃、悔しさと格闘しているでしょうし」

「プロデューサー、冷静ですね」

「キャロル、でも確かにそのとおりよ」

「ふふ、とにかくみんな座って」


 書斎のテーブルを囲んで、私たちの初ライブ反省会が始まった。


「さて……今回の収支ですが……当然赤字です。まず、チャリティなのでチケット代を取っていません。頼みのグッズの物販は散々でした。しかし在庫は残っています。当面はこのグッズをはけさせることを達成しない限り、プラスの収入は発生しません!」


 私がめろでぃたいむグッズとして作ったのは、メンバーカラーのリボンのキーホルダーとハンカチ。種類も絞って作りやすさも考えたんだけど、現実は厳しい。


「それでは、皆さんの意見をそれぞれ聞かせてもらいましょう」


 私は、ラインハルト、スージー、キャロル、アイラの顔をぐるりと見渡した。

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