第10話 反省会をはじめます。

「はい……」


 意外にも、真っ先に手をあげたのはスージーだった。


「私、店番していたので……あんまり売れなかったのは、使いようがなかったからじゃないかなと思いました。ハンカチはそこそこ売れましたけど、こっちのキーホルダーってのはどう使ったらいいか分からないし……」


 あっ、そうか。初ライブでどのメンバーも知らないから、普通にみんな雑貨として買っていたってこと!?

 そっか……私、アイドルグッズと言ったら推しへの課金か、推しという概念を手に入れるということだと思いこんでいた。推しのメンカラで買うとかじゃないのか。そっか。


「そしたらスージー、どんなものなら売れると思う?」

「そうですね……ヘアピンとか、ブローチとかのアクセサリーとか、あとはマフラーや財布とかなら男性にもいいかなって」

「なるほど~?」


 わぁああお。それって #推しがいる生活 ってやつじゃん。逆にイマドキヲタ活極めちゃってんじゃん。


「ありがとう、とても参考になったわ」

「僕からもいいかな」


 次に手を挙げたのはラインハルトだった。


「次に書く曲は、宮廷ダンスの音楽の要素をいれようと思う。僕はリリアンナから教えて貰ったアイドルソングは新鮮で好きだけど、馴染みのある雰囲気の曲もあったほうがいいって思ったよ」

「そうね……その方向でお願いできる?」


 ここは異世界なのだ。現代日本の好みの曲をいきなりぶつけるのは、リスキーってことね。


「さて……あとはキャロルとアイラ。何か意見はある?」

「うーん……。親しみを持ってもらうのが大事かな、とは思います。ほら、劇場で歌うような歌姫には大抵パトロンが付いているじゃないですか。私たちはそれとはちょっと違うような……」


 うんうん、そうね。限られた人たちの為じゃなくて、もっと色んな人が触れ合えて、その成長を見守る。日本のアイドルはそのブレイクスルーを打って出て、やがてアイドル戦国時代を迎えた。


「その為にはどうしたらいいと思う?」

「そうですね……。あ! 道の掃除とか舗装とかどうでしょう?」

「ふんふん」

「子供たちとお散歩する時、道が悪いから転んだりしてて気になってたんです。でも日々のことで手が回らなくて。きっと街の皆さんも同じだと思うんです。だから私たちが代わりにやれば、きっと興味を持って貰えます」

「やって損はないわね」


 ん~~~~キャロルってば、かわいい上にかしこい! 最&高!!!!


「それと平行して、楽しんで貰える工夫も要るんじゃないですかね? やっぱ現場での楽しさが分かって貰えないと」

「アイラ、それは何だと思う?」

「やっぱり湧くことですかね。コールしたり、それからMIX打ったり」

「ですよね~~~~!!」


 ただ問題は、誰も湧き方を知らないのだ。こっちから煽るのだって限界があるし。


「でも、今の時点でお客さんにそれを求めるのは難しいかな……そんなヲタ居ないし」

「なに言ってるんですか。ここにいるじゃないですか」

「へ?」

「プロデューサー! あなたこそ、めろでぃたいむの最古参のトップヲタじゃないんですか」


 ……はっ、それはそう! 私のスキルの導くまま、趣味と性癖をつめこんだ夢……それが『めろでぃたいむ』。


「アイラ、あなたの言うとおりだわ」

「だったら先陣切って下さいよ。推すってなにかを、身を持って狂って猛って荒ぶって、この世界の人たちに見せつけてやってくださいよ!」

「むむむ……やるーーーー!!」


 そうね、私が楽しく狂っていたら、みんな付いてくる! かな?


「えへへ、実は運営だから、あんまりはしゃいじゃ悪いかなって思ってたの。でも遠慮無く行かせて貰うわね!」


 それから四人であれこれ話し合った。という訳で、今後の『めろでぃたいむ』は清掃やお手伝いなどのボランティアの時間を設けて知名度を上げる。それから、週一回、街のあちこちでゲリラライブを決行すること。特にこれらにじっくりと取り組もうということになった。

 ちなみにどこでゲリラライブをしても特に問題はない。だって、うち領主だし。


***


「こんにちは! 『めろでぃたいむ』です!」


 さっそく翌日、みんなで街に繰り出して道の掃除を始めた。落ちているゴミを拾うだけで、結構な労力だ。


「こんなに汚れていたのね」

「どうせ汚いからいいや、ってごみを捨ててしまうのかもしれませんね」

「そうね、キャロル。小さい子が怪我したりしたら大変だわ。綺麗にしましょうね」

「はい!」


 たまにグループ名を添えて回りに挨拶する以外は、もくもくとゴミを拾って歩く。そんな私たちを道行く人は奇妙な目で見ていた。


「あの……」


 そうしていたら、中年の女性に声をかけられた。


「なんでしょう?」

「喉渇きませんか? お茶を用意したので、飲んでいってください」


 あら、差し入れ。本当に喉が渇いていたのもあって、私たちはお茶をご馳走になることにした。


「ありがとうございます」

「いえいえ、お礼を言いたいのはこっちのほうよ。家の前まで掃除してもらって」


 女性はにこにこと笑顔で、クッキーまで出してくれた。

 そんな女性に向かって、キャロルはもっと笑顔を返す。


「私たち、この街を良くしたいんです。歌って踊ることで元気にしたい。でも……その前に私たちのことを知ってもらいたくて」

「それで掃除を……でもね、とても助かるわ。この街は働きにいける若い人は都会に行ってしまって年寄りが多いの。うちも仕事をしながら父の世話があるから、どうしても道の掃除まで手が回らくて」


 それを聞いたみんなの目がきらきらと輝きだした。


「私たち……役に立ってる……」

「わー、セシル泣くな!」

「はいはい、ふたりとも。良かったわね」


 涙ぐんでいるセシルを見て、クリスティーナが焦り出す。その横でイルマはくすくすと笑っていた。


「おばさま、モモはお掃除もお洗濯も得意にゃ。困ったら声かけてにゃ」

「まぁ……ありがとう」

「力仕事があったら僕に言って。これでも男だし」

「え、え? 男の子? あら……まあ……」


 みんなで女性を囲んで、力になると口々に申し出た。

 誰だって人の役に立ちたいものね。そして、このことをきっかけに、みんなの動きに迷いがなくなった。

 今までは目指すところはあるけれども、どこかコンパスを失った船のようだった。だけど、この女性の笑顔が、『めろでぃたいむ』が生み出すべきものだという確信が持てたようだ。


「得たものは大きいわね」


 こうして、私たちは一丸となって清掃活動と街中でのライブを繰り返した。そうしているうちに、声をかけてくれたり、顔を覚えてくれる人が増えていった。


「ラインハルト、ライブの観客も増えてきたわ」

「やったな、リリアンナ」


 まぁまだ、現場で狂ってるのは私だけなんですけど。やっとアイドルグループらしい活動が出来てきた気がする!

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