第8話 オリジナルソング
「おはようございます。リリアンナ様」
「おはよう」
すっきりと目覚めた朝。スージーの淹れてくれたお茶をベッドで飲みながら、私は小鳥のさえずりを聞く。都会の喧噪から離れたい人にはモンブロアはほーんと良いところ。でもそれだけじゃ、わがままな貴族のみなさんは満足しない。
「さて、今日も頑張りますか」
みんな、ダンスも歌も見違えるように良くなってきた。アイラがみんなを引っ張っている。でも人をまとめるのはキャロルの方が断然うまい。この二人を中心として、『めろでぃたいむ』団結しつつあった。
「ラインハルトー! 今日のレッスン始めるわよー」
着替えて朝食を終えたけど姿の見えないラインハルト。心配になった私は、彼の部屋に向かい、扉をノックした。
「う……ん……」
ちょっと、今の何? うめき声みたいのが聞こえたんですけど。
そして、ゆーっくりと開いた扉の先には……目の下に黒々としたクマをこさえたラインハルトがいた。
「ちょっと! なにその顔!」
「……できたよ」
「え!? できたって?」
ラインハルトはぼろぼろのまま、にやーっと笑い、私に紙束を渡してきた。
「とりあえず、三曲」
「もしかしてこれ、めろでぃたいむの持ち歌!? 寝ないで書いてたの?」
「ああ……降って……来たんだ」
「そ、そう」
そのまま、ラインハルトは前のめりにバタンと倒れた――。
「あっ、えっとラインハルト! ラインハルト!?」
私は使用人を呼んで、彼をベッドまで運んだ。
「もう、無理しちゃって」
お説教は起きてからね、と思いながら、私はすやすや眠るラインハルトの顔を見ていた。
「……ごめん!」
「まぁ、何かに夢中になる気持ちは分かるわ」
それよりも、この曲がどんなのかが気になる。いや、一応淑女のたしなみとして少しはピアノは弾けるんだけど、ちゃんとラインハルトから聞きたかったのだ。だって、はじめてラインハルトが作った曲ですもの。
「じゃあ、弾いて聞かせてくれる?」
「ああ」
ラインハルトはピアノの前に座り、曲を奏で始めた。初めの曲はポップな感じ。かわいい曲だわ。
「いいわね。うきうきするメロディだわ。メインの曲になりそう」
「そうだろ」
そして次の曲。こっちは激しい。ロックっぽいのかな。
「かっこいい曲ね。そうねぇ……ダンスが映えそう」
ルルとかにソロのダンスパートを作ってもいいかな。ああ、妄想が広がる。
「そして最後は、これだ」
「とても優しいバラード……」
しっとりした曲調のそれは、キャロルの歌唱力が存分に活かされそうだ。
「すごいわ。どの曲も素敵だし、アイドルらしい曲だわ」
「ずっと考えてたんだ。リリアンナの好きなアイドルの曲を自分だったらどう作るかなって。まさか本当に作曲するとは思わなかったんだけど……」
さて、これでミニライブができる曲数は揃った。あとは……。
「これの歌詞なんだけど」
「それはリリアンナがやってくれないかな」
「私が!?」
「やっぱり、リリアンナの推しとかかわいいとかそういう気持ちまでは、僕には言葉に出来なくてさ」
私も作詞なんてしたことないわよ。でも……やるしかないか。
「わかったわ、やってみる」
こめてみよう、私の女子ドルを愛する気持ちを。彼女たちの魅力を届けるために。
それから私はラインハルトに相談しながら、それらの曲の作詞に取りかかった。
***
さて、その他にも、アイドルで領地を復興を目指すならやらなきゃならないことがまだまだある。
「うーむ……何か違う!」
私は色々書き殴った紙を放り投げた。
「リリアンナ様、お茶でも」
「あ、ありがと……」
私が今頭を悩ませているのは、『めろでぃたいむ』のロゴとマークだ。
それで幕を作って、ライブのステージにも使いたいし、グッズも作りたい。
そう、グッズ。この世界にはまだ録音機も再生機もないってことは、円盤は売れないのだ。
だから収入を得るためにはグッズ収入の重要性が高くなるだろう。
「ただ……私にセンスがないっ! ひんっ!」
こうしたいなっていうイメージはあるんだけど。
「リリアンナ様、これはなんの魔方陣ですか?」
「違うのよ……」
私の幼稚園児なみの画力だと、呪いの魔方陣にしかならない! どうしよう!
「うーん、つまりこうですかね」
「スージー……」
私のぐちゃぐちゃのデザイン図を見たスージーは、それを別の紙に描き直した。
「そうそう! そんな感じ! ああ、スージー、あなた才能あるのね!」
こうして、めろでぃたいむのロゴとそれぞれのメンバーのシンボルマークが完成した。
よーし、グッズを作るわよ!
そんな作業を並行して行いつつ、メンバーのレッスンをする日々。
そしてようやく、私とラインハルトとでつくったオリジナル曲が出来た!
「みなさんに、運営からのプレゼントです!」
「すごいですね。私たちだけの為の曲なんて」
メンバーは胸に手を当てて、感動を噛みしめている。
「一曲目はポップで楽しい曲よ。私たちはこういうグループですっていう曲。タイトルはそのまま『めろでぃたいむ』」
ラインハルトがピアノで弾いてみる。そして今回は私が歌う。聞きながら、皆自然に体を揺らしている。
「この辺で手拍子入れたら盛り上がりそう!」
「いい案ね、アイラ。そういうアイディアどんどんちょうだい」
曲が終わり、今度はアップテンポで早い曲。
「この曲のタイトルは『イナヅマ』。雷みたいに観客をしびれさせたいの」
そして、最後。泣きそうなくらい切ないメロディが響く。
「タイトルは『君がいないと』。ライブの最後をこの曲でしめたいわ」
自然とめろでぃたいむのメンバーたちから拍手が起こった。
「これに二曲くらい今まで練習した曲を加えて、まずは教会でのチャリティライブを目指そうと思います」
「おおー!」
さて、あとはひたすらレッスンあるのみ!
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