第25話 災厄が降り立った
この世界は何のためにあるんだろうか。
なぜ、この世界に召喚されたんだ。
世界は何故こうも生きていくのが辛いんだ。
正義を掲げる軍人も、神が全てだと宗教組織に金を出させようと扇動する聖職者も、何かの問題を実際以上に誇張するか、問題を作り出して、あたかも過去からあったかのように騒ぎ立て人々を煽動して金儲けをしようとする活動家も、国民の為と言いつつ実際は国民なんてどうでも良くて、自分の事だけしか考えない政治家も、全てが嘘と悪意と欲によって世界を破壊していく。
前にいた世界ではそうだった。
この世界では、王族と貴族、騎士、聖職者は自らの私利私欲を満たすためだけに動き、人々も亜人や獣人を見下し、自分達の物として扱う。
それがおかしい事ではないかと、そう言っただけで異端児扱い。召喚者なら尚更だ。
あの日、自分が殺されかけた時、俺は刺されて血まみれになったあと、自分に残っていた全ての神力を使い果たして自分の分身を作り、分身をその場に残してその場を逃げた。雨の中、マントで自身を隠して街を出た先で、意識を失って倒れた。
気がつくと、もふもふな白色の塊が目の前に乗っかっていた。
カイが意識がぼんやりと戻った事に気付いた、耳の生えた銀髪の人の顔がカイの顔を覗いた。
「気が付いた?」
その声に、カイは頭がぼーっとして受け答えが出来なかった。
「うっ…」
そしてまた意識を失った。
それから2日眠り続け、カイが安定して意識を保てるようになったのはその3日後だった。
起き上がる事が出来るようになったカイは、声をかけられても返す事が出来ない心がなくなった人形のように、1日中ただベットのなかで過ごすだけの状態だった…
そんな日々が少し続いた。
だが、そんな日々は突然終わりが告げられる。
カイが目を覚ましてから少しの時が流れた夜。カイがいた亜人の集落が盗賊に襲われた。盗賊は逃げ惑う亜人を子供だろうが妊婦だろうがお構いなく、無差別に切り捨てていった。
「あなたも逃げて‼︎」
カイを看病していた白狼の亜人の女の子が、カイのいるテントに駆け込んできた。
カイを立ち上がらせ、2人がテントから出ようとすると盗賊の1人がテントの中に入ってきた。
「おぉ、こんなとこにも隠れておる奴らがおるではないか。」
「きゃぁ…こ、来ないで…」
「っておい、なんでこないなとこに人間がおるんや? まさか、亜人ごときに捕まっとったとか言わへんよな?www」
「こっちに来るな‼︎」
白狼の女の子は、カイを背負いながら盗賊にタックルして、その勢いでテントの外に出た。
テントの外は、亜人の死体がそこら中にあり、テントと薪や食料は燃やされ、地面に流れてでた血の海の上に火の海が集落を覆っていた。文字通りの地獄絵図だ。
テントからさっきの盗賊が出てきた。
「いてて…このクソ亜人、いてぇじゃねぇか!」
盗賊が剣を振り翳して、カイの背中に背骨のすぐ手前まで切りつけた。
血が宙に舞って血が体を滴り落ちていく…
白狼の女の子の背中から、カイが落ちていく。
また殺されるのか…
この世界でも…
憎い
憎い
憎い
憎い
憎い
全てが憎い。
全てを壊す。
全てを無にしてやる。
世界も
街も
家も
人も
全てを無に返してやる。
「さぁ、始めようか…」
カイの黒い髪の色が抜け始め、白い髪色に変化した。
そして、カイが手を伸ばした。
手先に小さな黒い炎の球が生み出され、段々と大きくなっていく。
次第に、人10人分程の大きさに膨れ上がった。
「今日この日、この時より、下された審判により裁かれし魂よ。多くの命の苦しみで作り出されし黒炎で、息絶えよ。黒神龍炎。」
カイが詠唱を終えた瞬間、黒い炎の球がビー玉の大きさまで凝縮され、エレナント街に落ちていった。
高度500メートル程の上空でそれが炸裂した。
太陽が爆発した様な眩しい閃光が街を包んだ。閃光が街を包んだ刹那、エレナントの時間が止まった。街を歩く人、棚にパンを並べるパン屋の看板娘、夜の警備が終わって帰宅している街の衛兵、生まれたばかりの我が子を抱き抱えて寝かしつけている母親、家族と朝ごはんを食べ終え工場に出勤する人、屋根で昼寝をする猫。全ての街の動きが止まった。時が止まった。
そして、小さな衝撃が流れた。そして、時が動き出し、衝撃波と熱線が全てを飲み込み、吹き飛ばし、燃やし尽くした。
8時15分 エレナント消滅
死者 14万人
行方不明者 86万人
重軽傷者 1万2050人
全焼及び倒壊家屋 240万戸
半焼及び半壊家屋 4万戸
衝撃波は世界を5周した。
爆発半径20キロの周囲 最大深さ1200メートルの巨大な1つのクレーターが発生。生存者なし。
爆発半径45キロの周囲 家屋ほぼ全焼・倒壊。生存者なし。
爆発半径60キロ圏内 家屋半壊が3分の1程度。重症者の生存者あり。
この悲劇は、世界を恐怖に陥れた。
この出来事は、後に「悲劇と恐怖の破滅神龍再来の日」として呼ばれる事になる。
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