第19話 最厄の始まり

「はぁぁぁぁ〜。幸せ〜。」

ガリアが猫と戯れていた。

そこにヴェルカが現れたことに気付いたガリアは、目を見開いて顔が真っ赤になり、とてつもなくあたふたしていた。

ヴェルカはそんなガリアを見て、

「え、えーっと、ガリアさん?私は何も見てないから、誰にも言わないから大丈夫だって…」と言葉をかけた。

ヴェルカの言葉でガリアはフリーズしたスマホのように動かなくなり、一呼吸分時間が止まった。

それを見てヴェルカはヤバいと思い、ガリアに「ガリアさん…?」と声をかけた。

ガリアは、「うん、ヴェルカ。」と死んだ魚の目をしながらヴェルカの方へ体を向けた。

「はっ、はい。なんでしょうか?」とヴェルカは返事をしつつビクビクしながら、体がガリアへの恐怖心から勝手に後退りを始めた。

ガリアはニコッと笑い、「何も見てないのに誰にも言わないっていうのはおかしくない? ガッツリ見ちゃったよね〜。これは撃滅のセカンドスマッシュで記憶を吹き飛ばす必要があると思わないヴェルカ?」。

ヴェルカは顔を真っ青にしながら「ちょ、ちょっと待ってって、こんなん理不尽すぎん⁉︎」と言い終わった瞬間にガリアの腹パンをくらって、ヴェルカは上に生えていた木々の枝全てを粉砕しながら20メートルくらい上空に打ち上がり、そして落ちてきて地面に人型の穴ができた。



それから少し時間が過ぎた中堅都市イーでは…


「きゃぁぁぁぁ‼︎」「早く逃げろ‼︎」「おがぁあさん」「誰か来てくれ‼︎ お願いだ‼︎ この下に家族が下敷きになってるんだ‼︎」「うぁぁぁぁん。お母さんどこにいったの‼︎」

街には悲鳴や子供の泣き声、呻き声、叫び声に溢れていた。街のそこら中から火の手が上がり、瓦礫が散乱していた。街の人は逃げ回り、街の道に倒れている者、瓦礫の棒に突き刺さっている者、火の手に巻かれて焼けこげた者が至る所におり、この世の地獄というべき悲惨な状態となっていた。

そして街を守るはずである街の騎士団は、所属騎士の9割が死傷し、壊滅状態で機能しない状態だった。

火の手が街の奥へ奥へと広がっていき、火の中から瓦礫が飛んで来て、街が破壊していく。

「頼む‼︎ 誰でもいいから来てくれ‼︎ 瓦礫を退かすのを手伝ってくれ‼︎」

父親が家の下敷きになった4歳の男の子と母親を助けようと必死になって、屋根を家の支柱だった柱を使って懸命にどかそうとしていた。

「待ってろよ‼︎ 今助けてやる‼︎」

そう声をかけながら…。


「お父さん足が痛いよ‼︎ 熱いよ‼︎ 助けてよ‼︎」

男の子は泣き叫び、

「あなた‼︎ この子だけでもいいから助けてあげて‼︎ 私は後でいいから‼︎」

と母親は自分を犠牲にしてでも息子を助けてと言わんばかりに叫んでいる。

だんだんと迫り来る火。


しばらくしてに親子が下敷きになっている家屋にも火が回り始めた。

中の2人の周りも燃え出した。

「熱いよぉぉぉぉ‼︎ 熱いよぉぉぉお父さん‼︎」

泣き叫びながら体が火に包まれていく男の子。

母親は、火に包まれていく息子を見て、ふぅと息を吐き、父親に向かって笑顔で

「あなた、もういいよ。」と声をかけた。

「何がもういいだ‼︎ 絶対助けてやる‼︎ 絶対に助けてやるって言っただろうが‼︎ 諦めるな‼︎」

と母親を励まし、声をあげながら必死に瓦礫をどかそうとする父親。

そんな父親へ母親は、「もう火がここまで回り始めちゃって、もう助からないのが分かるの。私とこの子は家の下敷きになってここから逃げ出せないけど、あなたは逃げ出すことができる。だから、あなただけでも逃げて。」

その言葉に、父親は足の力が抜けて瓦礫の上に膝をつき泣き崩れる。

「そんなこと言うな、頼むからそんな事言わないでくれ…」

母親は火に包まれた息子と父親に手を伸ばし、「この子は私がバルハラで面倒を見るから、あなたは逃げて生き延びて。もし、あなたがバルハラに来る事になったら、またこうして家族で会いましょう。出来るだけゆっくりきてね。さぁ、行って。」

母親に肩を押された父親は「すまない…」と言い残し走り出した。


だんだんと走り去る父親が小さくなっていくのを瓦礫の中から見ながら、「あなた…、行かないで…」と泣きながら母親も火に包まれ、焼け崩れてきた瓦礫で穴が塞がれた…





街の大通りでは、炎の中から黒い1つの人影が逃げ惑う人々に向かってきていた。

その炎に包まれながら歩いてくる黒い人影に逃げ惑う人々はその姿を見て恐怖心に駆られた。

炎の中から出てきた人影は、切れ込みから放たれる濃い紫色の光が纏った黒い剣を両手に持ち、赤い目をしたカイだった…




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