第10話 エレーナ

あたりに白い霧が立ち込め始める中、エレーナは自分の肩に乗っかっていた小さな腕を振るえながら手に取って自分の目の前に持ってきて見る。

「こ、これは…さっきまでいた迷子の子の服が付いた腕…まさか…

あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」とエレーナは自分の肩に乗っかっていた腕があのさっきまで手を繋いでいた少女のであると知って涙を流しながら発狂した。


その座り込んで発狂しているエレーナに緑の巨体の人型の物が近づいてきた。

白い煙が立ち込める中近づいてくるにつれてだんだんと姿が見えてきて、

体は4メートルくらいで下の歯に牙が生えており目が赤色で1メートル程のこん棒を持っているゴブリンのようだった。

緑のゴブリンが近づいているのをエレーナが気が付いた時にはエレーナの2メートルくらい手前にゴブリンがいてこん棒を振りかざす寸前だった。

「え」と声が漏れた瞬間、こん棒でエレーナは6メートルぐらい殴り飛ばされ意識がもうろうとしている。

意識がもうろうとしていて目を細くあけながら、“私、ここで殺されるんだ”と思いながらすべてをあきらめようとしたとき、マントを身に纏った人の影がエレーナの前に現れた。

「ったく、何やってんだかなぁ…」という男の人の声が聞こえた。それと同時にさっきまで自分に襲いかかってきていた巨大なゴブリンが倒れていた。

「こっちに冒険者の一人が走ってきている。そいつに助けてもらえ。回復薬は置いておく。」とその黒いマントを身に纏った人は言い残し霧の中に消えていった。

エレーナは目の前に置かれた2本の緑色の液体が入っている試験管のようなガラスの容器を這いずって手を伸ばしてそれを取り、その蓋を開けて飲むと体から痛みが引いていったのを感じながらなんとか起き上がろうとすると、そこにジャンが走ってきた。

「誰かそこにいるのか!? 大丈夫か!?」とジャンが声をかけながらそばに駆け寄ってきた。

エレーナが何とか立ち上がりながら「ジャン…さっき巨大なゴブリンが…」と言うとジャンは急ぎながらエレーナを背負って「エレーナか無事でよかった。モンスターが村に入り込んでることしかわからないが、とりあえず宿まで走ってガリア達と合流するぞ」といって宿に向ってがれきが散乱する街路を走り始めた。


この時ジャンはかなり動揺して焦っているようで途中何度も道を間違えたり転びそうになったりしながら宿に向かって走っていた。

宿の手前まで来たときに人の形をしたトカゲのような2メートル程ある赤いリザードマンと遭遇した。

ジャンは建物の陰でエレーナを背中から降ろすとすぐにリザードマンに向って突撃してジャンプして上から切りかった!!

しかし、リザードマンはとびかかってくるジャンに向かって強烈に剣で突いてジャンの腹の真ん中を串刺してしまい、あたりにはジャンの血が飛び散った。

「グハ…」と言いながらジャンは口から大量の血を吐く。

そしてリザードマンはジャンを刺したままの剣を下ろし、ジャンは下に降りていき剣から抜けて地面に落とした。

ジャンの腹部から血が流れだし、地面を血で染めていく。

ジャンを刺したリザードマンは奥の建物の陰に隠れていたエレーナに気付かずにエレーナが居る方向とは反対側に行ってしまった。

リザードマンが見えなくなってから「ジャン!!」とエレーナは叫びながらジャンに駆け寄って「天使より与えられし天使の翼の羽根、ここの者の下に降り立ち癒したまえ。フェザースヒール!!」と癒しの詠唱を唱え、ジャンの傷を塞ぎ出血を止めることには成功した。

「これだけじゃ十分じゃないけどとりあえずこれで宿まで運んで行って休ませよう」そう言ってエレーナはジャンを背負い宿の目の前まで移動した。


宿の目の前にたどり着くと宿の入り口は空いており中はぼろぼろのドアや家具や手すり、床には木やガラスなどの破片が無数に散乱していた。

恐る恐る歩いて中に進んで食堂を通り過ぎて寝室がある2階へ続く階段に前まで来たとき、階段の横に奥の大浴場に続く廊下から剣とぶらんとした見るに堪えないかなりの血が付いたぼろぼろの服の女の人を持った赤色のリザードマンが出てきた。

「さっき出くわした赤のリザードマン!?」と心の中でエレーナは思いながら近寄ってくるリザードマンの恐怖で震えながら動けなくなってしまう。

そしてエレーナから5m程の距離まで来たリザードマンは手に持っていた女の人を投げつけてきてエレーナにあたりエレーナは倒れこんでその女の人の下敷きになってしまった。

エレーナはあたった時の衝撃のジンジンする痛みを感じながらその女の人を何とかどかそうとして手で押しのけると体が回転してその人の顔が見えた。

その顔を見てエレーナは驚愕し、「う、うそでしょ…」と思わず声を漏らした。

その人はエレーナにナイフの扱い方など戦い方を教えてくれていたセルカだった。


エレーナはこのセルカの惨状を見てジャンが串刺しにされたシーンがよみがえり、セルカとジャンをこんな目に合わせた赤色のリザードマンに激しく怒りを抱き、怒りによって自分の理性や意識までも押しつぶされ、怒りに支配された。

エレーナは、獰猛な獣のような目をして自分の腰に装備していたナイフを抜きあの赤色のリザードマンに向って「アァァァァァ!!!!!!!!!!」と人間の鼓膜が破れるほどの声で叫びながら突撃し、切りかかった…





次回(第11話)は10月4日火曜日公開予定

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