第5話 横顔だけでも
学園の授業は選択科目が多く、教室を移動して受けることが多い。
卒業はいわゆる単位制であり、本来ならば得意な魔法を極めるコースを選ぶのだが、私は幅広く授業を受けていた。
そして、常に私と同じように授業を受けているのが――アシェルだ。
もちろん、彼女は私のように複数の属性に長けているわけではなく、得意な属性は決まっている。
まあ、授業を受ける必要のないレベルの魔法を扱えるから、不得意な属性の授業を選んでも問題ないと思っているのだろう。
ひょっとしたら、卒業できなくてもいいと考えているのかもしれない。
――本来、魔法学園は『魔導師』として活動するために必要な資格を得ることができる場所で、それがない場合には正式な活動は認められない。
つまり、魔法学園を卒業していない魔導師は非合法的、と言えるだろう。
そういう魔導師は当然のように存在していて、ゲームにおけるこの世界の『敵』はそういう奴らの集まりだった。
『魔法至上主義』というものを掲げており、『魔導師こそ世界の頂点、支配者であるべき』という考えだ。
いわゆる『共通ルート』に出てくる敵は一度、学園に姿を現したことがある。
本来ならその後にヒロインの『個別ルート』に入っていくのだけれど、現状の私はヒロインの誰とも仲良くはない。
……その代わりと言っていいのか分からないが、アシェルに告白されてしまっているが。
「――で、あるからして――」
講師の説明も話半分になってしまい、授業に集中できていない。
今受けているのは地属性の魔法の授業であり、私はまだ中級魔法あまり扱えていないくらいだ。
防御と攻撃に使える優秀な属性であるため、ここはしっかりと受けるべきところなのだけれど……。
「……」
思わず溜め息を吐いてしまいそうになるが、隣にアシェルがいるので我慢する。
ここで下手に私が態度を見せれば、間違いなく『自分が原因』と彼女は思うだろう。
それは、私の方が嫌だった。
「リーリア様」
不意に、授業中にもかかわらずアシェルが話しかけてくる。
これは、少し珍しいことだった。
「なに?」
「ご気分は大丈夫ですか?」
「え、どうして?」
「少し、表情が優れていないように見えましたので」
「! だ、大丈夫だよ」
「なら、いいのですが。ご無理はなさらず」
「うん、ありがとう」
どうやら、声に出さなくても表情で分かってしまうらしい。
……いや、アシェルから見たら横顔だし、なるべく顔にだって出していないつもりなのだが、彼女には分かってしまうようだ。
確かに、察しがいいところは昔からだけれど、これはより一層気を付けなければ――って、私が『どうするか』を決めれば解決する話だ。
拒否をする――という選択はやはりできそうになくて、そうなると受け入れるしかなくて。
ただ、やっぱりそうなると私は彼女と『色々する』ことになるだろうわけで。
……決断するには、やはり昨日の今日では早すぎる。
結局、私は授業の間ずっと、アシェルのことばかり考えることになった。
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