第4話 微妙な関係

 学園寮から校舎までは、それほど距離はない。

 ただ、どちらも学園の敷地内にあるわけで、広さとしてはかなりのものだ。

 魔法学園と名乗っているくらいだから、当然主軸となるのは魔法の授業となる。

 思い返せば、魔法を初めて使った時は割と興奮した。

 当時はまだ前世の記憶を思い出したばかりで、どちらかと言えばそちらの記憶が強く全面に出ていて、人格にもそれなりに影響を与えていた気がする。今はすっかり落ち着いているが。

 魔法に関しては、基本的に魔力の『質』によって得意な属性というものが決まってくる。

 属性という概念はゲームの設定に近しいように思えるし、私はなんと不得意な属性がないという唯一とも言える主人公補正がある。

 ただし、得意な属性もぶっちゃけ存在しないので、どの魔法も中級程度までは扱えたとして、上級を扱える人間に勝てるかと言えば――かなり難しい。

 ヒロインそれぞれ得意な属性が違うため、主人公は基本的に選んだヒロインと相性のいい属性を選び、補佐的な役割を担うのがベターだと言われていた。

 まあ、これはゲームの話であって、私はどうしたかと言えば――一応、全ての属性の魔法について学んでいる。

 たぶん、この学園では唯一かもしれない。

 そんなこともあって一時期脚光を浴びることもあったが、最初だけの話だ。

 突出した魔法の才能があるわけでも、技術があるわけでもない私は単純に器用貧乏で才能のない者として扱われているし、私もその点については同意だ。

 こういう学園生活を送ってきた上に、さらに私は極力、人との関わりを避けてきた。

 なので――言ってしまえば友人と呼べる友人はいない。

 もちろん、クラスメートと会話はするし、話しかけられたら受け答えはするが、必要以上に仲良くなろうとはしない。

 ヒロイン達が仲良くなれるように裏で立ち回りはしたが、直接的な関与は可能な限りしていないため、彼女達もまた、私を一介の生徒としか認識していないだろう。

 だからこそ、今の状況を相談できる人が私の周りにはいない。

 ……いや、従者に告白された、などという内容を相談できる人が、果たしてどれだけ仲良かったとしてもいるだろうか。

 何より学園の校舎どころか、寮の部屋まで一緒で基本的に私の傍を決して離れることのないアシェルをどうにかして引き離す理由もろくに考え付かないわけで。


「……」


 校舎に到着してから、教室へ向かっている途中も私はずっと沈黙していた。

 少し後ろを歩くアシェルもまた、基本的には黙っている。

 この点については、特に不思議なことはない。

 彼女は口数が少ないし、いつも話すのは私の方だ。

 だからこそ、私が黙っていると余計に静かになってしまう――のだが、ここは魔法学園。朝早くから校舎の方に来て、魔法の練習をしている生徒がいる。

 当然、失敗なんかもするわけで、どこかで小さな爆発音などが聞こえるなども日常的だ。


「……今、誰か魔法に失敗したみたいね」

「そのようですね」

「私も魔法は失敗しなくなったけど、特別得意な魔法もないからなぁ」

「あらゆる魔法に精通していることは、特別なことだと私は思います」

「そう? 私はアシェルみたいにかっこよく戦える方がいいと思う」

「……そう、ですか」


 アシェルが少し言葉を詰まらせたように聞こえ、私は振り返る。

 彼女はいつもの表情のままで、振り返った私の方が気まずい感じになってしまった。


「どうかされましたか?」

「あ、いや、何でもないよ」


 何となく恥ずかしがっているような気がしたけど、どうやら私の勘違いだったようだ。

 そもそも、アシェルが恥ずかしがったとして――どうして私はわざわざ振り返ってまで、その表情を確認しようと思ったのだろう。

 ……私が、彼女のことを意識しているということだろうか。


「……」


 結局、少しだけ話した後は教室に着くまでお互いに沈黙したままだった。

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