百合エロゲの世界に転生したけど、私は百合が見たいだけなので全てのルートを回避して傍観者になることにした ~なのに何故かメイドから告白されて押し倒されています~
第2話 この流れはえっちなことをする展開
第2話 この流れはえっちなことをする展開
――私が前世の記憶を取り戻したのは数年以上も前の話だ。
取り戻したと言っても断片的なもので、全てを思い出せたわけじゃない。
ここで暮らす時間が経つにつれて、記憶は曖昧になっていくものだ。
だから、幼いうちにこの世界の覚えていることを全部、ノートに書き写しておいた。
私が前世でプレイしたことのあるゲーム『Lily Magic Fantasia』――通称、『リリファン』と呼ばれるゲームは、特別多くの人に知られているゲームというわけではない。
百合というジャンルでかつエロゲ……ということもあって、百合好きなら知っている人は知っている、という感じだった。
私はというと、いつから百合というジャンルが好きだったかは、いまいち思い出せない。
何か作品を見て、それがきっかけだったような気もするし、気付けば好きだった、といううような気もする。
でも、間違いなくこのゲームは私がはまったものであり、『リーリア・アルファート』はこの世界における主人公であった。
貴族の生まれの少女だが、魔力の総量は高くなく、いわゆる『落ちこぼれ』だった。
通っている『ガルベスト魔法学園』には入学させてもらっているし、貴族としてどうあるべきか、という教育も受けている。
けれど、アルファート家はすでにリーリアを必要としておらず、あくまで体面を保てればいい、というだけの話だ。
そんな扱いを受けながらも、リーリアは明るく人付き合いができる性格であったが故に、彼女の周囲には多くの仲間が集まってくるようになる……のだが、記憶を取り戻したリーリア――つまり、私はこの世界においては異質な存在になってしまった。
もちろん、全てがゲーム通りというわけではなく、学園にいる生徒には全員名前があって、家族がいて、知らない国の名前だってある。
けれど、メインヒロインを含めた子達も確かに存在していて、それぞれが抱える悩みや、ゲームと同じような『フラグ』や『ルート』もあるようだった。
ヒロインは四人いて、全員が仲良し同士というわけではなく、むしろ敵対している子達もいる。
誰かのルートに入れば、他のヒロインとは敵同士になってしまうことだってあるし、失敗すればいわゆる『バッドエンド』を迎えることだってきっとあるだろう。
私は――そんな未来を知っているからこそ、特別誰かと仲良くなるようなことはしなかった。
ただのゲームではなくてエロゲでしかも百合ジャンル……ヒロインと『そういう関係』になるのはどうなのだろう、と考えたのも理由の一つではある。
もちろん、絶対に干渉しないというわけではなく、ゲームの知識を利用して彼女達を陰ながら助ける程度のことはするが、必要以上の干渉はしないようにしたのだ。
すると……どうだろう。主人公であるリーリアという存在がいなくなっても、彼女達はやはりこの世界で生きている人間であり、手を取り合うようになっていった。
私は傍観者である道を選んだが、ヒロイン達が仲良くなっていく様を見るのは私の望んだ未来そのものであり、すでにこの世界は私の知る未来とは違う方向に進み始めたのだ。
元々、ゲームの中にはバトルシステムなどもあったが、ここでは当然ゲームと同じようなステータスなどは存在せず、魔力の総量などもそれぞれの感覚で把握している。魔力だけなら、ある程度の数値を計ることもできるが、あくまで基準として存在しているだけだ。
私はもう主人公ではなく、この世界に生きる一人の少女となった。
まだゲームの流れで言えばエンディングを迎えたわけではなく、不安要素がなくなったわけじゃない。
けれど、ヒロイン達を見ていれば大丈夫――きっと乗り切れるだろう。
そんな達観した気持ちでいた矢先の出来事だ。
メイドであるアシェルに告白され、押し倒されたのは。
……アシェルは、言葉で表現するなら私の知らない要素の一つとなる。
ゲームのリーリアが通う学園では付き人はおらず、アシェルという存在はいなかった。
私がこの世界がゲームと全く同じではないと理解できた最初の出会いであり、言ってしまえば魔法の才能がない私にとって、彼女はとても頼れる存在だ。
私の知識にないからこそ、彼女のことを頼っていたという面もあるかもしれない。
だって、彼女とはそういう関係にならないと思っていたのだから。
「リーリア様は私のことがお嫌いですか?」
「嫌いなわけないよ! むしろ好きだし――あ」
誘導尋問に引っかかってしまったかのように、思わず本音を漏らしてしまう。
あくまで傍にいてくれる大切な人として、と説明をしようとしたが、その前に私の口はアシェルによって塞がれてしまう。
――キスだ。しかも、軽く触れるような感じではなく、しっかり舌まで入れてきている。
「ん……っ」
このままだと勢いに流されてしまう。
間違いなく、私とアシェルは女の子同士でえっちなことをするだろう。
それは私の望むことではないと思っていた……なのに、半ば無理やりキスをされるのは、悪い気分じゃない。
あるいは、彼女がヒロインではなくて、共に過ごしたパートナーだからこそ、自然と受け入れてしまっているのだろうか。
しばらくして、アシェルが唇を離すと、唾液が糸を引くようにしてお互いを繋げていて、視線の先には完全にスイッチの入ったと思える表情のアシェルがいた。――彼女のこんな表情を見るのは初めてだ。……私は今、どんな表情をしているのだろう。
「リーリア様」
「ア、アシェル――」
お互いに名を呼んだところで、コンコンッと扉のノックする音が聞こえた。
私はすぐに我に返り、アシェルもベッドから立ち上がってすぐに応対の準備を始める。
ようやく私は解放されて、一人ベッドの上で呼吸を整えていた。
助かった――そう思うべきはずなのに、もしも誰も来なかったら……そんな風に考えてしまう自分がいる。
「……どうしよう」
今の私は主人公でもなく、知識チートのようなものもない。
だからこそ、これからどうしたらいいのか全く分からなかった。
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